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そういえば土から離れては生きられないのだった
最後に土で体が汚れたのは、いつのことだったのか考えてみた。
たぶん、高校生の体育大会で裸足になったとき。
ワーとかヤーとか言いながら、組体操をさせられたのだったな。
土というよりは乾いた砂ぼこりだったから、全身がうっすらとセピア色になったのを覚えている。
それが最後。
つまり、約10年もの間、私は土に触れずに生きてきたことになる。
別に、だからなんだというのか。
特別意識したことはなかったし、どちらかというと神経質な私にとって土で汚れることなんか、避けられたほうがいいに決まっている、そう思っていた。
しかし、土ブランクはつい最近になって破られた。
ベランダで花を育て始めたのだ。
駅前の小さな花屋で売られていたネメシア。1苗80円。
いつも目もくれずスルーするお店なのだけど、その日は何か違った。
あっと思った。
「葉っぱがいっぱい茂っているやつがいいよ。花がたくさん咲く」
店主らしいおじいさんのいうとおり、比較的緑が多いものを選ぶ。
花を買ったはいいものの、鉢も土もない。
そうだそうだ、花を育てるには土がいるんだったと思い、アマゾンで購入。
極力手を汚したくなくて、袋から直接鉢に土を流し入れる。
根がびっしりに詰まって窮屈そうな苗を中央らしきところに配置して、また袋から土を慎重に被せる。ベランダを極力汚さないように。
よしできた、と思った。
しかし、ただ置かれただけの苗と流し入れられただけの土はどうも不安定。
ちょっと強く風が吹けば倒れてしまいそう。
あ、土をおさえたほうがいいかもな。
ぎゅっ、ぎゅっ。
それが、10年ぶりの土の感触だった。
ふわっと柔らかいけれど、おさえるとグッと固まった。
土は手に付着して、爪の間にも入り込んだ。
思い立ってにおいを嗅いでみる。
つい、笑顔がこぼれた。
不思議と「手が汚れた」とは思わなかった。
それ以来、着実に花の苗は増えており、我が家のベランダは雨が降ると土のにおいに満たされる。
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