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宛名のない手紙

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親友が24歳になった。

彼女を見ていると、いつもなにかに振り回されていていいなあ、と思う。 北参道で、顔にカレーのルウをつけて笑う彼女に向かって「なにしてんの」って笑いながら話した日に、わたしは改めて、いい友達をもったなあと思ったものだ。 彼女は突然、わたしが通っていた塾にやってきた。10年以上前のことだ。いわゆるお受験コースにやってきたにしては、だいぶ抜けている……。というのが生意気なガキの感想だった。 でも、わたしは彼女の虜だった。だって、持ち物が本当にかわいかったから。どんなものを持って

「つらいけど頑張る」の危うさについて

耐える、頑張る、我慢する、戦う…10代の頃シャワーのように浴びた言葉たちだが、当時わたしを奮い立たせてくれた記憶はあまりない。 特にそれが、何も知らない人からの言葉であればなおさら。 いろいろ定義はあるけれど、わたしにとって大人とは「経済的に一人でも生きていける人」だった。誰でも一度は通る道だろうが、とにかく早く大人になりたかった。 どうしてか。わたしの定義通りの大人になれば、自分はすべての呪縛から開放されて好きに生きていけると思ったからだ。 どうしても早く大人になり

新しい朝、新しい日常。コーヒーマシンと救世主

日常というのは、知らない間にできあがっているものだ。フィットするものというのは、わたしにとって足音のしない、突然そこに存在するなにか。 「コーヒー好きだよね」 友人からの連絡に、もちろんと返事をした数日後に届いたのは、コーヒーマシンだった。 そもそもどうしてここまで関係が続いているのか、なんてことすらよく覚えていない。分かち合った思い出がたくさんあるわけでも、共通の何かがあるわけでもなかった。 そういえばごはんを食べにいったり、わりとしっかりとしたメールのやりとりをし

青空を味方につけてしまう彼

そろそろセーターをしまっていいよと、季節は言う。それでもたまに寒くなって、いじわるだ。焦らされるほど、訪れたときの喜びがおおきいなんてことを知っている春って、本当にずるい。 わたしは犬が好きだ。ちいさい頃からの口癖は「犬が飼いたい」だった。実家がマンションだったのでそれは叶わなかったけれど、いつか飼うのだと思う。犬のようなひとが好きなのだけれど、過去をさかのぼっても、そうだよなあと我ながら納得する。 そういえば犬のような彼には、春に出会った。 ────── あまり甘え

ロマンチックが離さない

改札をくぐって右、「右側通行にご協力ください」、地上へ出て右へまっすぐ。坂をのぼっていくほど気持ちが高鳴るのは、この坂のせい?それとも、今から行くお気に入りの店が、わたしのすきな“右” をくり返して、やっぱり右側に見えることが分かっているからだろうか。 右が好き、というとほとんどのひとが不思議そうな顔をする。右側に好きなひとをみながら歩くのが好き、というとさらに不思議そうな顔をする。理由なんてない。落ち着く、ただそれだけのこと。 でも多分、本当は理由があるんだとも思う。大

姫毛が揺れる、それが魔法にかかる合図。

思い返せば私が魔法にかかってしまったのは、多分もう7年は前の、あの日だったと思う。姫毛が大胆に揺れる小さな顔に華奢な体、少し大きい制服を身に纏って彼女が言った言葉を、私は忘れたことがない。 私の “大丈夫” には理由がある。 ────── あの日私は、あなたを見て思っていた。私はこの子と絶対に分かり合えないと。あまりにも背筋を伸ばして立つあなたに嫉妬をしていたんだと、今では思う。何か選択をするとしたら、どうしても少数派というものが生まれてしまう。あなたは迷わずそれを選ん