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#文学

アントニオ・タブッキを2冊、須賀敦子さんと

須賀敦子さんの翻訳は、翻訳的なノイズが全く感じられず、驚くほど滑らかでした。 本を開いている間、小さな小石に躓くようなことがなく、すーっと小説の世界に引き込まれていきます。外国語から日本語に直された文章を読んでいるのだと読み手に気づかせません。 これまで須賀敦子さんのエッセイを好んで読んできましたが、翻訳されている作品を読むのははじめてでした。エッセイを読んでいるとその聡明さと静謐な文章力に憧憬の念を禁じ得ないのですが、翻訳もまた一等、格別でした。 須賀敦子さんのファンな

他人の気持ちはわからぬもの 『行人』

夏目漱石というと、学校で習った『こころ』しか読んだことがなかったのですが、少し前に『草枕』を読んで、そのあまりの美しさに仰天しました。 今まで知っていた日本語表現の概念を根底から覆されるような、日本語ってこんなにも美しくなれるのか、という新しい地平線を見たかのような衝撃です。 見たことない表現や読んだことのない漢字の組み合わせがたくさん出てくるのですが、しかし漢字とは便利はもので、読み方がわからなくとも意味を感じ取ることができます。 漢字の持つ絵としての機能のおかげで色彩

『東京モンタナ急行』は永遠に

図書館よ、ありがとう! 古本屋さんに行く度に探していたけれど見つからなかった、リチャード・ブローティガンの『東京モンタナ急行』。 そうだ、見つからない本があるときは図書館に行けばよいのだったと思い出し、予約しました。他館の書庫にあったのを取り寄せてもらいました。 そうそう、図書館ってこういうときのためにあったんだ。本屋さんに並んでいない本も、絶版の本も、インターネットの古本屋さんでは価格が高騰している本も、図書館は保存してくれていて、誰でも借りることができる。本は書庫で静

ところで本ってどうやって読むの?

先日、友人に最近読んだ本の話をしていた時のこと。 「ところで本ってどうやって読むの?」と聞かれてオッと思いました。そんなこと考えたこともありませんでした。「なんで本を読むの?」と聞かれたら「面白いから」と答えるけれど、”どうやって”読むのと聞かれたら、座って本を開いてページをめくるという以外になんと答えましょう? 彼女曰く、もともと本を読む習慣がないとのこと。座って本を開いてじっとしていることができないのだと言います。 その時は具体的でためになるような返答が思い浮かばず、

『リアル・シンデレラ』あの子は本当に不幸なの?

何かイベントがある時にひとりだと、寂しく感じます。でもその時私はひとりだから寂しいのか、イベントと言う"誰かと楽しむべき日"にひとりでいることに寂しいと感じているのか、それともそんな日にひとりでいるなんて寂しい子と誰かから思われるのではと想像して寂しいと感じているのか。ふとそんなことを考えます。 幸せかどうかと言う問いも寂しいかどうかと言う問いに似ていて、果たして自分の基準で測っているのか、世の中のムードによって作られた”自分”の基準で測っているのか、それとも他者の基準で測

映画好きこそ読んでほしい!『蜘蛛女のキス』

マニュエル・プイグ著『蜘蛛女のキス』を初めて読んだのは、大阪の本屋さんで働いていたときのこと。海外文学専門の先輩書店員さんがオススメしてくれたことがきっかけです。彼女は映画や文学への造詣が深く、いつも知らない世界を教えてくれました。確かレイナルド・アレナスの『夜になるまえに』に感銘を受け、「原文で読んでみたい!」との想いでスペイン語を習得し、今ではスペイン語、フランス語、英語で原書を読み、書店の海外文学および洋書コーナーの選書をされています。 ラテンアメリカ文学をほとんど読