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2021年10月の記事一覧

『恥辱』転落する人生の痛みと可笑しみ

ジョン・マクスウェル・クッツェーは南アフリカ出身の小説家。2003年にノーベル賞を受賞しました。今回読んだ『恥辱』は1999年に発表された長編作でイギリスのブッカー賞を受賞しています。とても読み応えのある作品でした。 『恥辱』J・M・クッツェー 舞台はアパルトヘイト撤廃後の南アフリカ。主人公は52歳、離婚歴有り、最近は老いを感じ始めたもののこれまで女性に困ることはなかった大学教授のデヴィッド。週に1度女を買うことで満足していたが、ある日教え子の女学生と関係を持ったことで人

『文盲』生き抜くために綴る外国語

『文盲』は、世界的ベストセラー小説『悪童日記』の著者でハンガリー人作家のアゴタ・クリストフの自伝。母国語ではなく、亡命先で学ばざるを得なかったフランス語で執筆していることで知られています。 アゴタ・クリストフは21歳のとき祖国のハンガリーからスイスへ亡命し、難民として暮らすこととなります。スイスへ逃れついた時、フランス語は彼女にとって未知の言語でした。彼女は成人してからフランス語を学び、フランス語で書き、そして『悪童日記』はフランスの出版社から出版され、ベストセラー作家とな

ときにはわからない本を読む愉しみ『ペドロ・パラモ』

『ペドロ・パラモ』この薄い本を読むのに1ヶ月以上かかりました。今まで読んできたどの小説にも似てなくて、難解で、途中でもうやめようかな…と思ったのも事実。 まず登場人物が多く、名前が覚えられない。名字で呼んだり名前で呼んだり時々変わるのにも混乱。 そして何より前ぶれなく次々に語り手が代わっていく大胆さ。"○○は言った"みたいな分かりやすい地の文もないので、読み進めないと語り手が誰に取って代わったのかわからない。 語り手が代わると同時に時代も前後します。現代と過去、そして過