【短編】『健康寿命社会』~籠の鳥~
「おめでとうございます。」
65歳を迎えたら、病気予防接種券が送られてくる。年に一回これを受けると、死ぬまで病気にならない。
「死ぬまで健康でいるために。」
65歳を越えたらこぞって受けに行った。接種証明が交付されると、様々なサービスが無料になる。無料で何度でも使える無人タクシーに乗り、ある日は病院へ検診に、ある日はショッピングモールへ出掛ける。無料のレストランもある。
同居していても息子夫婦は仕事、孫は保育所や学校で朝早く出かけ、夜遅くまで誰もいない。誰もいない家にいても、不健康になるからと、みなこぞって出かける。
「今日も元気ねぇ。」
行く先々に、無料サービスを利用する、同じ年頃の高齢者が大勢いるので話も楽しい。家のことはセキュリティAIに任せてみんな出かけるようになる。
空調の効いた自宅から、無料サービス送迎で、無料サービスの施設へ。外の空気を吸うことも無く、土の上を歩くことも無い。たまに外へ出ても、暑い時期は暑すぎるし、寒いときは寒さが身体にこたえる。気候のいい時は花粉症が心配だ。
「歳だからねえ」
季節感のない、空調管理された施設を巡る。
翌年の病気予防接種券が送られてくる。接種証明書の期限は一年だ。今年も受けに行こう、と互いに話し合う。高齢者が使える無料サービス、同じ年頃の人々が集う社交場になる。
「何だか白髪が増えたね。」
「髪が減ってきたね。」
皆同じように老けていくので気にならない。
「歳だから仕方ないね」
AI医師が検診を行う。そしてそれぞれに合わせた薬が処方される。
また翌年の病気予防接種券が送られてくる。接種証明書の期限は一年だ。
「もう肌もしわくちゃね。」
「膝が弱ってねえ。杖がいるよ。」
皆同じように老けていくので気にならない。
「歳だから仕方ないね」
AI医師が検診を行う。そしてそれぞれに合わせた薬が処方される。
最近の平均寿命は70歳だ。
ある日布団の中。目が覚めず起きてこない。
セキュリティAIか活動の変化に救急に通報する。
医師の診断は、寿命。
「心臓が弱っていたようです。」
「ここまで病気もなく…寿命ですね。」
医師は画面を立ち上げる。“新薬データ集積”
。規則通り患者(?)のここまでのデータをアップロードする。任務完了。
人々は命の儚さに涙する。
「みな同じような年頃、仕方ないね。」
そして元気なうちに、と。今日も無料サービスを利用して出掛けていく。
#遊び詩の物語
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