見出し画像

【小説感想】嘘つきな私たちと、紫の瞳(著:神戸遥真)

書店で"幕張が舞台の小説"と紹介されていた。
サイン本だったのもあって、なんとなく惹かれて購入。
著者も初めてだし、"ことのは文庫"というレーベルの作品も初めて。
このレーベル、オトナ女性向けらしい。
なるほど確かに少女漫画っぽかった。

十代しか罹らず、左目が紫色になり次第に死に至る病“ヴァイオレット・アイ”。
それを軸に青春物語が繰り広げられていく。


主人公の紀田咲織が奇病で失った友人の気持ちを知るためにカラコンで詐病をしている。
やってることの的外れ感が思春期っぽくてむず痒い。
思い込みの激しさというか、必死に足掻いている感じというか。

そしてクールな一匹狼、でも優しい鷲宮啓二。
屋上や非常階段が根城。
子ども食堂を手伝っている設定はベタだけどわかりやすくて良い。
そこに加わる実は病に侵されている事実。
いろいろてんこ盛りでイーーってなる。厨二心をくすぐりすぎ。
終盤でのデレ方が「下の名前で呼んで欲しい」って…。むず痒い。


印象に残ったのは咲織の父親の言葉。

(子どもにお金だけ出すことについて問われ)「子どもに直接向き合わないでも、最低限できること」
「社会人になってから、ぼくはずっと働いてる。仕事はルーチンだし、困れば上司もいてマニュアルもある。もちろん大変なこともたくさんあるけど、働くことには慣れてるんだ。子どもという一人の人間を育てることより、ある側面では、ずっと簡単かもしれない」
「子どもは、気にせず親を利用するくらいでいいんだよ。そんなふうに利用されるのも、親の義務なんだから」

239~240ページ

育児は仕事よりも難しい。
マニュアルはあるし先輩もいるけど絶対的な正解は存在しない。
同居しているかは関係なく、子どもの人生の岐路での選択に責任なんて持てないから、選択肢を提示して選んでもらうしかない。
親は選択肢が減らないように努める。それだけ。
是非とも娘には親を利用して欲しい。


エピローグでの咲織がぶつかりかけた三十代くらいの男性の描写が謎。
「左目が変わった色をしていたような」とあったけど紫とは明言していない。
“ヴァイオレット・アイ”なのか。
だとしたら十代以外でも発病するようになったのか。
もしくは過去に発症したが、なにかしらの理由で死を免れた人なのか。
病気ではなくただのカラコンなのか。
この描写でなにを表現してなにを伝えたかったのか分からない…。


不治の病をめぐる物語がハッピーエンドになるのはちょっと安っぽい気もするけど、でもやっぱりハッピーエンドは良い。正義。
未来ある若者たちが主役だし。
青春小説特有のむず痒さや懐かしさも体験できて良かった。

同年代の時に読んでたら読後感が違う自信がある。
咲織の「子どもは手段は選べないけど、本当に大事なことくらいは決められる」に勇気付けられてそう。
そして鷲宮かっこいいってなって、実生活でクールキャラ演じて黒歴史を生み出しそう。
なんだかんだこういうキャラってかっこいいんだよな。


生活圏が舞台だったので情景がリアルに想像できたのも良かった。
幕張舟溜跡公園の位置を調べたら、娘と行ったことがあった。
が、電子基準点は全く記憶にない…。
せっかくなので改めて訪ねてみた。

外灯っぽい

メタリックで思ってたよりもカッコいい。
とはいえ、わざわざ連れてこられて「カッコいいよね」って言う女子がいたら変なヤツだなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?