見出し画像

クレーンゲームで苦しんだ8年をゼルダとBIGに救われた話

私はゲームが好きだ。
はじめてゲーム機を買ってもらったのは確か11歳の誕生日だったと思う。
それまで従姉妹の家で時々スーパーファミコンのマリオを遊ばせてもらったくらいの経験しかなかった私がプレイステーションを手に入れたのだ。
時折遊べる2Dのドットゲームから、いつでも遊べる3Dの美麗ムービー付きゲームへ。
ハマった。
めちゃくちゃハマった。
負けず嫌いで凝り性だった私が、困難を乗り越えて何かを達成すると言う経験が手軽にできるゲームと言うものにハマらないわけがなかった。

それから数年、ゲーム好きが高じて某ゲームソフト受託開発会社にデザイナーとして入社するも、色々あり数年後に退職。
この頃はゲームと絵以外に興味がなく、実家住み環境も合わさり20代前半にしては多少貯蓄のあるニートの誕生。

有り余った時間は趣味や家事に充て、ニートながら充実した日々を送っていたのだが、この時に出会ってしまったのがクレーンゲームだ。
過去に戻れたら出会わないように食い止めたいと何度も思うが、頭の中でいくらシミュレーションしてもどうせいつかは出会ってしまい失敗に終わる。ちくしょう。

元々クレゲ自体は好きだった。
一度遊ぶためだけに100円が必要な他アーケードゲームより、遊んだ上で物を対価として貰えるクレゲの方がお得だと感じられたからだ。
特に昔のクレゲはアームの力が強く、100円で大体の景品を獲得することができた。
学生の頃ハマるまでに至らなかったのはお金が自由に扱えなかったのはもちろんだが、この難易度の低さと景品が小さなマスコットばかりだったからだろう。

話をニート時代に戻す。
家庭用ゲーム機ばかりで遊び、滅多にゲームセンターへ行くことはなかった私だが、ショッピングセンターへは行く。
あの日私は一緒に来ていた親との待ち合わせ時刻まで時間があり、つい暇つぶしに併設のゲームセンターへと足を向けてしまったのだ。
そこにあったのは昔と比べ豪華になった景品が入ったクレゲ。
適当に目に入った筐体に100円を入れてクレーンを動かしてみる。
獲れそうだ。
もう100円入れてみる。
あと少し。
結果、1600円を投資しワンピースの食器セットを手に入れた。
決して安く獲得できたわけではないが、キャラクターものの食器をアニメショップで購入するとなるとそれ以上にかかるだろう。
それに景品を落とすまでの攻略も楽しかった。遊んだ上に景品も貰えて1600円ならかなりお得なのでは、と思ってしまったのである。

そこから沼に落ちるのは早かった。
当時はプライズフィギュアと言うものも知らず、市販のフィギュアは1万円近くもするのにクレゲでは大体2000円以下で手に入れられるのがとてもお得に感じられた。
市販よりも安く獲得できるフィギュアや大きなぬいぐるみ。つぎ込んでも獲れない景品ももちろんあったが、トータルでは勝ってると言い聞かせる。思考はもうパチンカスである。

そこに追い打ちをかけたのがオンラインクレーンゲーム(以下オンクレ)の誕生だ。
現在「トレバ」として運営しているサイバーステップ社だが、最初は「いつでもARキャッチャー」と言う名前で2011年にサービスを開始。
始めこそ景品や筐体が少ないながら、人のプレイを気兼ねなく見ることができ、見かけた攻略法を自分でも行う事で景品を安く獲得できるのがとても魅力的でハマらないわけがなかった。ニートだから画面を眺める時間は腐るほどある。
数年すると新規オンクレもどんどんオープン。
すぐに登録しお金を注ぎ攻略する。
もちろんこれまで通り実店舗にも赴きお金を注ぐ。
気付けばあんなに好きだったコンシューマゲームをプレイしなくなり、絵を描かなくなり、貯金はほとんど残っていなかった。

その後また会社務めに戻ったは良いものの、お給料はすぐにクレゲに使ってしまう。そして年々厳しくなるクレゲの設定と設定金額。でも、だからこそ攻略が楽しくてやめられない。
この頃には設定攻略が目的で景品は二の次になっていた。
そうなるとどうなるか、転売ヤーの爆誕である。
クレゲ攻略を楽しめる上に高く売れる景品を獲得すればお金も稼げて一石二鳥、転売ヤーと言えど店舗のルールを守った上での景品獲得、売買なら問題あるまい。
そんな浅はかな考えで景品を獲っては売る自転車操業の日々が始まった。

しかし昔に比べると厳しくなった設定で稼ぐのは難しい。
更にメルカリの台頭で売り手側が増え、価格競争は激しくなる。
休日は売れた景品の梱包と発送で1日が終わった。
寝るスペースが圧迫されるほど部屋に積み上げられた不良在庫の山に囲まれながら、日々不毛な時間とお金の心配で枕を濡らした。

そんな中現れた救世主もまたクレゲからだった。
2019年にオンクレでNintendo Switchを手に入れたのである。
クレゲでSwitchが獲れたら久しぶりにゲームをするぞ、とずっと狙っていたのだ。普通に購入すると言う選択肢がないのがゴトン病患者である。
遊ぶソフトはこれまたクレゲで事前に入手していたゼルダの伝説ブレスオブザワイルド。(以下ブレワイ)
スカイウォードソードをプレイしてから約8年ぶりのゼルダだ。
昔の自分だったら発売日に買って遊んでいたのにな、と2年前に発売されたブレワイのカセットを差し込みながら感傷に浸る。

いざゲームを始めると今までとは違うゼルダに驚かされた。
この8年、ゲーム業界とほとんど関わらず過ごしてきたのでブレワイについての基本的な情報さえ全く知らなかったのである。
私はただ久しぶりにゼルダの伝説をプレイしようとしただけなのだ。
それなのに初っ端から弓を入手できて、空きビンがなくても薬を所持できて、攻略アイテムがチュートリアルで全部手に入ってしまった。
はじめは今までとの違いに驚くばかりだったが、心地の良いピアノのフィールド曲、自由度の半端ない崖登り、景色の美しさに段々と心を奪われていく。
そしてパラセールを入手して降り立ったハイラルの広大な大地。
これからの冒険への期待に鳥肌が立った。

無限に広がるシーカーアイテムによる世界への干渉、胸躍る新英傑との共闘、記憶を思い出す度に深まるゼルダ姫への想い。
ブレワイはクレゲの事を忘れさせてくれた。
コンシューマゲームの楽しさを思い出させてくれた。
クレゲをピタっと完全に卒業することは流石に出来なかったが、少しずつ頻度は減り、時折ぶり返しながらも8年に及ぶ熱は静かに沈下していったのである。

しかし熱は収まったと言え、残った問題がある。クレゲに使用した金だ。
恥ずかしながらオンクレを遊ぶにあたり、リボ払いに回した60万ほどの借金があったのである。
ニートだった頃に猶予してもらった年金もそろそろ納付期限が迫っている。
合わせると100万ほどの借金を抱えており、リボの方は毎月手数料抜きで2万は返済していたが、借金がある状態があと数年も続くと思うととても苦しかった。手数料も馬鹿にならない。

そんな折、奇跡が起こった。
半年前から週に1000円ほど惰性で買っていたスポーツくじ、miniBIGの1等が当選したのだ。
金額にして120万円。
何度も画面を見直した。
心臓がバクバクしてその日の業務は手につかなかった。
昔からいろんな抽選にちょくちょく当選してたので運は良い方だと自負していたが、今回は神様がやり直しの機会を与えてくれたと思った。

全てを清算した今でもクレゲを遊ぶ事はあるが、お小遣い程度の範囲でやりくりし、上手く付き合えていると思う。

フリマやオークションを眺めるとかつての私と同じような依存症を持っているだろう人を見かける。そんな方達に声をかけたい。
ブレワイとBIG買ってみようぜ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?