ギャル、勇者になる 12

ウチ、真奈!
ウチらを襲ってきた「レイラ・エーヴァック」と名乗る人物が実は今お騒がせ中のエーヴァック王の娘その人だったの…!
しかもウチらになにかを頼みに来たんだとか…どうなっちゃうワケ?!
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「なるほど。エーヴァック王の娘ですか」
 ウチらはレイラさんの部屋から移動し、以前ウチとアトリさんが初めて会話したティールームに来ていた。レイラさんが言うにはアトリさんはこの部屋が一番集中できるらしい。ちょっとオシャレかも。
「で、頼み事とは何でしょう?父であるエーヴァック王は貴女を探してかなり暴れまわっているみたいですよ」
 アトリさんは質問する。こういう時のアトリさんは単に年上の人というよりはやはり「女王」という言葉がとても似合っている。隣に座りながらウチはそんなことを考えたりしていた。
「さっきそこの三人には話したけど…私は父に城の外に出れないように幽閉させられていた…んです」
 ウチらとの闘いで負った傷口を気にしながら、アトリさんと対面になるように座っていた彼女-レイラ・エーヴァックは言う。
「私が女王として近隣の大きな地域の代表が行う会議に出席した際に何度かお会いしていますが…確かに自分の信念を貫く、というよりは意地でも自分の意見を通したがるような印象はありました。まさか娘である貴女を城に閉じ込めていたとは…」
 アトリさんの顔がより一層真剣になる。元・女王として同じように子を持つ身としてはなにか感じるものがあったのかもしれない。
「はい。少しでも出ようとするとひっぱたかれたりし…しました」
 そういうとエーヴァック嬢出されていたお茶をさっと口に流し込む。
今の一口で空になった事に気付いたのか、レイラさんが近くへ行きお茶を継ぎ足した。…っていうかこの人今目見えてないんだよね…?
「…!貴女、目見えてないんじゃ…?」
 エーヴァック嬢も同じことを思ったらしい。その気持ち、めっちゃわかるんですケド。
「心配はない。流れてる気や空気に集中すれば大体わかる。それより…傷の方は大丈夫なのか?良ければ治すぞ」
 そう言いながら、レイラさんはエーヴァック嬢の傷口の近くに手をかざした。
 目が無く包帯を巻いている人間が誰の誘導もなく空になったティーカップへ正確にお茶を注ぎ、更には自分の目を破壊した相手が負った傷口まで治しているのは何とも言えない不思議な光景だった。流石メイド部隊の長。かっこよすぎるんですケド。
「あ、ありがとう…ございます…」
 ウチと同じく戸惑いを隠せずにいたエーヴァック嬢は、少し申し訳なさそうな顔でお礼を言った。
 それを見ていた、ウチの隣の席に座っていたセレちゃんの眉間には少しシワが寄っていた。
「戦いも下手じゃなかったし、お礼もちゃんと言えるし、う~ん…エーヴァックの王様は何が気に入らなかったんだろう?」
 確かにそうだ。いきなり襲ってきたのはびっくりしたけれど、こうして話してみるとそんなに『閉じ込めなければいけない』という要素は見当たらない。「王を滅ぼす」という考えも、そもそも幽閉されていなければ起こりえなかった感情なハズである。ではいったい、何がエーヴァック嬢をそこまで駆り立てたのだろうか。
「確かにセレナのいう通りです。貴女はどうして『父を滅ぼしたい』という考えに至ったのか教えていただけませんか?」
 アトリさんは真剣な眼差しで、しかし非常に角が立たないように聞いた。
「…奪ったんです、私から」
 しばらくの沈黙の後、彼女はこう答えた。
「まだ外に連れて行ってくれた小さい頃にできた唯一の友人の住んでいた町を『私の友人がいるから』という理由のみで侵略し、領地を占領し、実質的な壊滅状態に陥れたんです…!」
 エーヴァック嬢の口から発せられた事は、あまりにも理不尽な父の行動だった。彼女の手は震え、拳に力が入る。
「でも…そんななかでも私の事を覚えてくれてたアカリは…上西園 明里は私が幽閉されている事を知って、助けてくれた!だから私はアカリに対する感謝とエーヴァックの血を引くものとしての償いの念として私は私の父を殺さないといけない!」
 勢いよく立ち上がり、彼女は言う。ふさいでいた感情がどんどんあふれ出してきているのを感じた。大切な友人の故郷を私的な理由で壊滅させたことが父を倒す最大の理由のようだ。
「ま、まあ少しおちついて、ね?」
 かなりの気迫であったため、それを抑えるためにセレちゃんは宥めるように言った。
「す、すまない…」
 セレちゃんの言葉で我に返った彼女は、ゆっくりと椅子に座った。
「ほら、お茶をのみなよ。落ち着くからさ」
 ぬるくなったお茶を下げ、新しく注ぎなおしたお茶を差し出しながらレイラさんが声をかけた。エーヴァック嬢の腕にあった傷はすっかり治っていた。
 差し出されたお茶を飲む。彼女の目は少しうるんでいた。
「なるほど、大体理解いたしました。…では、最後に一つ、よろしいですか?」
 エーヴァック嬢とは対照的に、非常に冷静で真剣な姿勢を崩さなかったアトリさんは口を開いた。
「レイラ・エーヴァックさん。貴女の覚悟、本当ですね?生半可なものではないですか?」
 アトリさんが問う。
「・・・はい」
 それに応じるエーヴァック嬢。それを聞いたアトリさんはパチンと指を鳴らす。その瞬間、ティールームの出入り口付近で物音がした。そこには女性が1名倒れこんでいた。
「アカリ!!」
 レイラさんを押しのけ、エーヴァック嬢は走ってそちらへ向かおうとする…が、彼女の体は不自然に止まった。女王アトリ=エーカトールの念力である。
「レイラ・エーヴァック」
 今まで聴いたことのないような低い声で女王は声をかける一瞬出ていたエーヴァック嬢の殺気も一瞬にして吞み込まれてしまうような緊張感が辺り一面を覆う。
「・・・なんだ・・・」
 若干の恐怖を顔ににじませながら、エーヴァック嬢は答える。
「これを見てください」
 そういうと女王は魔力で透明にしていたものを実体化させた。この結晶、もしかして以前話していたアレなのでは・・・?
「これは貴女の大切な友人の情報が全て詰まっている結晶です。貴女の覚悟が本気なのであればこれはアカリさんにお戻しします。ですが、もし中途半端な気持ちで『依頼している』ならば、アカリさんの存在は私が消滅させます」
 女王は言う。一人の子を持つ親としての、最終確認なのだろうか。
 いとも簡単に消滅させられることが出来る力を見せつけられたエーヴァック嬢のあごには額から流れる汗がつたっていた。
「…覚悟はできている。だからこうして今エーカトール邸に足を運び、傷をつける必要もない人間たちを傷つけてまで、貴女に頼んでるんだ…!この気持ちは…本気だ…」
 エーヴァック嬢からは覚悟の気が感じられた。まっすぐ、そして力強い気だ。
 その覚悟を認めたのか、女王エーカトールから放たれる圧倒的な空気は引いていき、同時に出入り口に倒れこんでいたアカリさんを空いていた椅子まで運び、その結晶を彼女に戻した。
「…ン」
 アカリさんが目を覚ます。念力を解かれたエーヴァック嬢は急いで駆け寄っていった。
「大丈夫か!アカリ!」
「べ、別に、大丈夫だよ…ちょっと気を失ってただけだし…何泣いてんのさ!…あ、なんかごめんなさい…恥ずかし…」
 色々な感情を出し切って声を殺しながら泣いているエーヴァック嬢とは対称的に、泣いてる友人とそれをよくわからずに受け止めていることにアカリさんはテレテレしていた。
 …後で聞いた話によると、メイド長の目玉を爆破させていたのはアカリさんであり、アトリさんは部屋に入った「ついでに」サッとアカリさんの結晶を作成し、バレないように能力で身体の実態を消していたらしい。
…コワイんですケド…
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・いっぱい書いたよ第12話。
・エーヴァック嬢のあれこれを書きました。いい感じ。
・次回も楽しみにしててね!!
・面白くなるからさ!!!ね!!!!

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