ギャル、勇者になる 17

「貴女達に頼むのは……レイラ・エーヴァックの依頼である『父親を倒してほしい』を共に遂行してもらうことです」
 訪問者の『レイラ・エーヴァックを返してほしい』という依頼に対し、躊躇いもなく承諾した女王が、その見返りとして出した条件である。
「お嬢の……依頼……」
 その依頼内容に困惑しつつもその言葉を受け取ったブラッド・エーヴァックとレティ・エーヴァックの表情は、どこか決心した表情にも見えた。

               ●

「で、お前たちと組むと……」
 眉間に皺を寄せてそう言うのはエーヴァック一族の一人、ブラッド・エーヴァックである。
 エーヴァック嬢の依頼を遂行するにあたって、ウチとセレちゃんが同行することになった。
「桜河真奈といったか…聞けば戦闘経験0らしいじゃないか。不安しかないぞ」
 睨むようにウチのことを見てきた。
「そ、そんなこと言われても……ウチもちょっと前に来たばっかなんですケド」
「だから心配なんだよ!」
 怒鳴るブラッド。しかし廊下に響き渡るその怒り声は、横で一緒に歩くウチにと言うよりかはアトリ=エーカトールに向けて発せられているのだろうと言うのが感じ取れた。
「ま、まぁ誰にでも初めてって言うのはあるし許してあげましょうよ……ね?」
 怒るブラッドを宥めるのは共に依頼をしにきたレティ・エーヴァックである。
「ごめんなさいね、急に押し寄せてきてしかも怒鳴って…こうなると中々手に負えなくて」
 ブラッドとは対照的に、かなり穏やかな性格なのようだ。
「でも……いくら初めてとはいえ、私たちエーヴァック一族と知識0で闘うのは厳しい気もします。もし宜しければ、一緒に特訓しませんか?」
 レティさんはウチらに提案してきた。
「どうする?」
ウチはセレちゃんに聞く。
「そうね〜…エーヴァックの情報も入れたいところだし、どの程度の力で来るのかも事前に予習できるのならアリね」
 セレちゃん自身はかなり乗り気のようだ。
「じゃあ決まりだな。どこか思い切り戦っても大丈夫な場所はないか?」
 先程まで怒っていたのが嘘のように気合が入っていたブラッド。
「あるよ!このまま暫く廊下を歩いていけば着くから、そこで特訓しましょ!」
 セレちゃんはセレちゃんで変な気合が入っている。
 改めて考えると、数日前まで普通の学生として平凡な日常を過ごしていたとは思えない。
「ワケワカンナイんですケド……」
 危険な場所に踏み込もうとしている怖さと、しかしそれを超えるワクワクにいつの間にか胸を躍らせるウチがココにはいた。

                 ●

「そういえば、なんで私達は一緒の行動なんだ…?」
 そう呟くのはエーヴァック嬢。
「分からん。取り敢えず私が護衛すると言うことになっている。女王サンの考えはちょっと特殊だからな」
 そう答えるのはメイド長のレイラだ。
「いいじゃん!ダブルレイラってことで!」
 面白そうに声をかけるのはエーヴァック嬢を城から連れ出したエーヴァック嬢の相方的存在、上西園明里である。
「あ、今は女王もいないし敬語使わんからね。というか私の目よくもやってくれたねぇ〜…これ修復暫くかかるぞ?」
 オフの時のメイド長の声であった。
「それは…すまない。あの時は気が立ってたから…」
「いいんだ、別に。まだあん時はこっちも敵として認識してたんだ。敵同士だった奴らが攻撃しないわけないだろう?」
 それにオーラ使えば見えるしと気にしない様子でメイド長は喋る。
「…………」
「特に、ないな……」
 廊下で響き渡るあちらのメンバーの声とは反対に、特に引っかかりもないこちらのメンバーは静かにどう動くかを考えていた。
「そうだ。こういう時だから聞くんだけどさ」
 そう口を開いたのはメイド長のレイラだった。
「エーヴァック嬢はどうしてレイラっていう名前になったんだ?」
 当たり障りのない質問を投げかける。それを受けたエーヴァック嬢は腕を組んた。
「貴女…『女王イソティリカ』を知っているかしら?」
「女王イソティリカ?」
 オーラで作っている目を細めてメイド長は聞き返す。
「ええ。私の父は子供に名前をつける際、その時一番強いとされる人物の名前をつけるの」
「それが、レイラ…ってことなのか?」
「ええ。けれどそれは女王ではない。女王の名前は、エミト=イソティリカ。その妹がレイラなの。女王の威厳を放つことが出来るのはエミトだけど、実際に強いのは妹の方…そう聞かされているわ」
 至って真剣な表情でエーヴァック嬢は答える。
「貴女…街の名前でイソティリカって聞いたことあるかしら?」
「イソティリカ……」
 少し間を開けてレイラは呟く。
「イソティリカという土地自体は知ってるぞ。昔は栄えてた街だったが……。最近はあまり名前を聞かなくなったな」
 メイド長も、ここで仕える前にイソティリカの街に行ったことがあるらしい。
「そうなの。でも段々と治安が悪くなっていって……今は禁術に手を染める奴らが蔓延る街になってる。『禁忌都市イソティリカ』とも呼ばれているわ」
 エーヴァック嬢も話だけはエーヴァック王などから聞かされていたようだ。
「『禁忌都市』ねぇ……そこに最強のレイラがいるって?」
「……らしいの」
 急に先ほどの説得力がなくなる。
「らしいってあんたね〜」
 ちょっと笑いながらメイド長が突っ込む。
「しょうがないじゃない!外の世界あんま知らないんだから!」
 焦りながら怒るエーヴァック嬢。それを横で見る明里も笑っていた。
「よかった〜!今ので二人ともだいぶ緊張がほぐれたみたいだね!」
 明里の何気ない言葉で気付く。メイド長とエーヴァック嬢の間にはもう敵という認識はスッカリ無くなっていた。
「よし、じゃあ私たちの方も動くか!とりあえず…エーヴァック嬢、君が知ってる限りでいいからエーヴァック一族の戦い方について教えてくれないか?」
「ええ、わかったわ」
 エーヴァック王討伐組・エーヴァック嬢護衛組に分かれた2組。攻略と防衛に向けての準備が今、始まろうとしている。

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・17話です。
・前回より少し少な目の分量です。ごめんね。
・かなりすんなりと終わらせてしましましたがまあこういう「最初の回」というのが意外と難しいんですよ。
・とりあえずここまで読んでくれた方、大好き!!!!!!!!

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