昔の自分へ

新しい生活に向けて、荷物を少しずつ整理していたら、貴方との思い出を詰め込んだおっきな箱を開いてしまい、思わず時間を忘れ見入ってしまいました。

貴方との恋を成就させたくて中尊寺で買った縁結びのお守りは二つセットでしたが、当時の私は純粋無垢で高慢無知、それを想い人と共に持つ風習を知らずにひとりで二つ大切に持ち続けておりました。
恋に悩み泣いていた私に「これ、ご利益あるって評判の縁結びのお守りだよ」と友人が手渡してくれたお守りは、都内の弁天様のお守りで、当時の私はこんな遠いところでわざわざ手に入れたものを私に授けてくれるなんてと感激しましたが、月日が経ってみれば私はそこの近所の高校大学へ進学してしまうのです。
はじめてのデートで行った中華街、ガラスの唐辛子がいくつも連なったお守りをお揃いで買い、私は肌身離さず付けておりました。華奢な作りの唐辛子が割れるたびに願い事が叶うそうです。
数ヶ月後に「お守り、つけてる?」と訊いたらあなたは「壊れたらもったいないからつけていない」と答えました。私の唐辛子はあと僅かになっていました。

月日というのは人を勝手に変化させてしまいます。お守りに縋っていたことが、いじらしくて懐かしい。
当時恋い焦がれていた人からプロポーズを受けたと知ったら、幼い私はきっと涙を流しながら「当然よ」と答えるのでしょう。
しかし、その場所が日常の延長線で、そこからずっと継続していくものだということは彼女はきっとまだ理解できないでしょう。
彼女にとって、彼は遠くで輝く光だったから。
彼女にとって、彼は世界を変える扉だったから。

自分の確信だけを信じて想い続けた彼女のことを、私はとても尊敬しています。
あの時想像していたものを飛び越え、未来は地面を這いつくばりながら展開しています。
そこには二人を遮るウラル山脈もナイル川もない代わりに、茫漠とした土地が広がっているのです。
その土地は、嵐が丘のように全てを湛えているのだと私は確信しています。
あの頃の私に会えたのなら、私は伝えるでしょう。
願ったことは叶うって。

#日記
#エッセイ

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