実写映画「るろうに剣心」という最高質のファンタジー

※2021年6月6日作成記事を一部改訂したものです

<以下、一部ネタバレを含みます>

 長引くコロナ生活の中、映画館が入場者半数以下で再開したこともあって、週末の昼過ぎに待ってました!とばかりに映画館へ。

 これといった没頭する趣味もないおひとり様の休日、街に出る用事といえば、かつては友人たちとの飲み会だったが、今は飲み会もままならず、おひとり様で映画&ショッピングくらいしか楽しみがないのだ。

 ちなみに緊急事態宣言下で初めて映画館に行ってみたらビックリ。入場者数半減ということで席が1席ずつ空けた仕様に強制的になっているのだが、これがもうすごく快適。半個室なプレミアムシートを予約する必要なくゆったりした空間で鑑賞できるのだ。しかも、カップルだろうとファミリーだろうとおひとり様だろうと誰もが皆、1席ずつ空いているいう強制的な平等が、不謹慎ながらおひとり様には実に心地よい。

 ということで、両脇のカップルやファミリーに気兼ねすることなく「るろうに剣心」最終章のThe Finalの鑑賞に没入してきたのだった。

 「るろうに剣心」の漫画は20年前くらいに読んでいたものの、実は映画は見ていなくて、先日の金曜ロードショーで初めて観てビックリ!
 佐藤健さん演じる剣心がビックリを通り越して神聖なまでに美しかったのだ!(超今更ながら…)
 まさにビスコンティの「ベニスに死す」のタッジオを見た時と同じような衝撃だった。

 そんな訳で、最新作の「るろうに剣心The Final」をリアルタイムで大画面で観られることがすごく楽しみだったのだ。

 はてさて初めて大画面で観ることのできた映画「るろうに剣心」なのだが、大画面で超どアップになっても美しい佐藤健剣心にすっかり魅入られてしまった。

■明治浪漫満載な美術

 最近、ドラマ「晴天を衝け」が楽しみな身として、明治維新の動乱のその直後が描かれた「るろうに剣心」は役者がアミューズ繋がりというのもあってか、なんかこう地続き感すら感じてしまう。
 しかも映画冒頭は開設されたばかりの鉄道でのバトルアクションで、すわ「鬼滅の刃 無限列車編」の実写版か⁉と思わせるような大迫力。
 かつ時代設定的に剣心が「人斬り抜刀斎」として名をはせた戊辰戦争から10年後くらいらしい。戊辰戦争が明治元年~2年の1868年~1869年頃なので、今回の舞台は1878年~1885年くらいだろうか。となると英国はビクトリア時代で、中国は清王朝、日清戦争のちょい前くらいで西欧文化がどんどん流入し始めた黎明期ということになる。
 冒頭の町の美術がまさに文明開化しちゃったよ!な賑わいで、ある種ノスタルジックに美しく再現されていたのを見るだけでも楽しい。
 時代はもう少し後になるけれど「ファンタスティックビースト」好きで、ビクトリア時代からエドワード時代に変遷した家具や装飾の美しさ好きの身としては、その片鱗が「るろうに剣心」の映画の美術にも感じられて、まずそれだけで私にとっては良質なファンタジー映画として実に楽しい。
 マンガから実写になったことで、こだわりの美術がすごく映える。
 かつ、明治浪漫をファンタジックに彩る要素にもなっていて、ある種、超人的な者たちのド派手アクションを際立たせてくれる。

■3次元の美形揃い

 今回、初登場の剣心の妻、雪代巴(有村架純)とその弟の縁(新田真剣佑)が美人すぎる姉弟で。真剣佑さんの整いすぎた顔と声の良さが、冒頭早々に登場した縁というファンタジックで超2次元な造形のキャラクターを違和感なく一気に3次元に繋げてくれる。しかも後半の剣心とのタイマンで魅せた二の腕の筋肉が惚れ惚れする。他のドラマや映画では線の細い印象を受けていただけに、細マッチョな肉体改造が役者魂!天晴!と喝采したくなる。
 この雪代縁。思春期に最愛の姉を亡くしたことで心がずっとその時点で凍結してしまい、強さだけをひたすらに求めて外側(=肉体)の強さばかりに執着した人物なのだが、内面のナイーブさと外側の強靭な肉体のアンビバレントな美しさを見事に体現されていて素敵だった。

 そして、佐藤健さん剣心の美しさといったら!
 監督もその良さを最大限に、何度となく剣心の超ドアップを大画面に映し出してくれるのだが、これがもう本当に美しすぎて。生身であることを存分に感じさせてくれつつも、まったく作画の崩れない神作画のような3次元と2次元の良いとこ取りをしたかのような美しさがそこにはあって。
 個人的には、あの長髪を違和感なく、いやむしろ剣心の美しさを際立たせる一部として遺憾なく活用しているところと、重い過去を抱えついつい伏し目がちになりがちな剣心の瞳に陰りを帯びるまつ毛の長さがあまりにも美しすぎてめっちゃ好み。
 なんかもう本当にそこにいる実在感を違和感なくかつ美しさを増して世に出してくれただけでも映画の通常料金を払う価値が十二分にありすぎて、その美しさに映画料金だけじゃ安すぎるような気持にすらなってくる。
 
 そして、実写映画「るろうに剣心」もシリーズ足がけ10年ということで、メインキャラの役者陣の円熟さがまた味わい深い。
(金ローで初めて観た1作目と、今回のFinalが実質2作目な自分が言うのもおこがましいが…)

 特に、薫演じる武井咲さんが良かった。金ローで観た1作目は約10年前ということで、まだ10代後半で役者経験も始まったばかりということで若さが全面に押し出されて演技というよりは美人な若手という印象が拭えなかったが、今回の薫は雪代巴にも通じる大いなる母性する感じさせるのだからスゴイ。
 「黒革の手帳」を経てプライベートでもオトナの女性となった武井咲さんの魅力がすごく出ていて、なんかこう、剣心を幸せにしてくれるのは薫殿だよね!と有無を言わせない説得力があった。
 しかも、剣心の元妻の雪代巴を演じる有村架純さんと、武井咲さんの顔の造形はまったく違う傾向なのにも関わらず、時々、薫殿が巴殿に似てる⁉と思えてきて、そりゃ、縁も思わず無意識に庇っちゃうよな…と妙に納得させるものがあったし、ああ、剣心ってやっぱりこいいう女性がタイプなんだ、そりゃ他の女性(観客含む)は太刀打ちできないわぁ、もうどうかこの後はお幸せにね‼ と思わせる力技にも似た凄みが今回の武井咲さんの薫殿にはあり、まさにFinalに相応しかった。

 他の役者陣も皆さんそれぞれ素敵で違和感がないのが逆に違和感なくらいスゴイ。なんかこう役者陣とスタッフ陣一丸になってこの世界を作り上げようという気概が至る所に感じてそれだけで胸アツだった。

■超絶アクションと残虐さが際立たせる刹那の美

 金ローで1作目しか観たことない身で言うのもなんだが、今回のFinalは残虐さが増したような印象を受けた。それだけ戦いが激化したことの現れかなとも思うのだが、円熟した役者陣とこの10年で培われた日本映画の技術力が集結したことで、超絶アクションとしての映えと苛烈な戦いの演出増し増しが残虐さもまたリアル寄りになったのかなと思う。
 個人的には残虐シーンは苦手で、抗争物とか戦争物とかできればあんまり見たくないのだが、「るろうに剣心」はキャラクターと美術の美しさが残虐さを緩和してくれて私的にはギリギリラインだったかも。
 とはいえ、アクションがより過激になっても造形が崩れない真剣佑縁のイケメン力と、佐藤健剣心の顔のキレイさと所作の美しさが、まさに神のあたえし賜物‼という眼福さで、そして周りが戦いで汚れれば汚れるほど二人の美しさが異質なほどで、そしてまたその美しさは苛烈な戦いの中だからこそ際立つ刹那の美でもあり、だからこその見応えになってくる。

 2次元的な美しさを保ちつつも、置物としての静物としての美しさではなく、生きている人間の動の美しさがそこにはあるのだ。

■史実物ではないファンタジーものとしての面白さ

 ベースは明治維新直後の世界ではあるけれど、文明開化の混迷の日本を舞台にもし超人的な人々が活躍したら?という、一種パラレルワールド的な世界が「るろうに剣心」なのかなと思う。
 その手法はとてもジャンプ的だなと思うし、ヒーロー物としての基本かもしれない。
 しかもかつて若かりし頃に読んだ漫画をベースにしており、私たちの知る史実とはまた違ったファンタジー世界であることが前提であることをすでに十分刷り込まれた上での実写化ということで、二重三重のフィルターが掛けられた世界観であることが、観ている側もすんなり納得した上で鑑賞できることがマンガ原作の良さかもしれない。
 お話の展開的には実にファンタジックなものではあるのだが、それ故に物語世界に没頭できる心地よさがあった。
 本当の歴史のほうがもっと泥臭くて魑魅魍魎な恐ろしさが累々だろうけれど、そのエッセンスを上手く抽出しダイナミックにそして美しく再構築したファンタジーとしての良さがそこにはあって。
 だからこそ、観ていてとても心地良い。
 それこそが幻想浪漫の醍醐味と思うと、実写映画「るろうに剣心」は最高質のファンタジーなのではと思う。

…とまぁ、想いのままに徒然に書き連ねてしまったが、やっぱり絵面の強い映画は観ていて楽しい。
 
 そして映画館という大画面かつ大迫力の音響で堪能できる幸せ。

 やっぱり映画って楽しい。

 だからこそ、満員の映画館で自由に飲食しながら時間も選び放題だったコロナ前のあの頃がすでにもうファンタジー世界かと思うような日々となってしまったけれど、いずれまた気兼ねなく伸び伸びと映画鑑賞を楽しむことができる未来を願わずにはいられない。


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