見出し画像

僕の心臓をもらってください

1‘

七瀬「はぁ…余命3年かぁ…」

私は西野七瀬(29)

小説家だ…

定期的な健康診断で、

心臓に病気があるのがわかった。

2‘

どうやら、その心臓の病気は

現状の医学じゃあ、治らないらしい

唯一の助かる方法は心臓移植

今はドナーが現れるのを入院して待っている。

3‘

入院してから2ヶ月経った。

私は入院中も執筆はしている。

タイトルは『脇役の僕は主人公になれない』

内容はまぁ…似たようなもんだ

4‘

私はいつも通り、病室で執筆してると

病室の扉が開く。

“ガラガラ”

七瀬「…誰ですか?」

?「初めまして、西野七瀬さんですよね?」

5‘

七瀬「そうですけど…」

見知らぬ男性に警戒心を抱く。

こっそりとナースコールを握る。

?「ぁ…名乗るのが遅れました、僕の名前は与田〇〇と言います」

6‘

七瀬「与田さんがなんの用ですか?」

⚪︎「僕は西野先生のファンなんです」

七瀬「は、はぁ…?」

⚪︎「西野先生は心臓のドナーを探してるとか?」

七瀬「ぇ…まぁ…そうです…でもどうしてそれを?」

7‘

⚪︎「たまたま、看護師さんが話してるのを聞いてしまって」

七瀬「ぁあ…」

⚪︎「そちらに行っても?」

私の近くの椅子を指す

怪しい…怪しいけど…

悪い人には思えなかった。

8‘

七瀬「いいですよ」

⚪︎「ありがとうございます」

七瀬「それで、どうしてここに?ファンだって伝えるためですか?」

⚪︎「まさか、それだけではありませんよ、1番は西野先生に提案をしに来ました」

9‘

七瀬「提案?」

⚪︎「はい、僕は先生のファンですが、1人の女性として好きです」

七瀬「っ…!?」

⚪︎「ですが、別に付き合って欲しいわけではなく、友人になって欲しいんです」

七瀬「友達に…?」

10‘

⚪︎「その見返りとは言わないですが、僕の心臓をもらってください」

七瀬「……はぁ?」

⚪︎「心臓をあげます」

七瀬「何言ってるん?冗談はやめてぇーや」

動揺して、関西弁が出てしまう。

11‘

⚪︎「冗談じゃありませんよ?僕は運動も定期的にしてますし、タバコも吸わないので健康です…西野先生とも血液型が一緒です、なのでドナーとしては最良だと思います」

七瀬「与田さん、年齢は?家族は?」

⚪︎「僕は26歳です、家族は6年前に亡くなっているので、身内はいません」

七瀬「どうして…好きだからでこんなことができるん…」

12‘

⚪︎「…西野先生は必要とされている人だからです」

七瀬「私が?」

⚪︎「そうです、先生の小説は誰かの気持ちを動かしたり、励ましたり…生きる活力にもなっています、そんな先生が若くして死んでしまうのは勿体無い…」

七瀬「でも、心臓を移植して、小説家をやめたら?」

⚪︎「それはそれでいいと思います、好きな人が進む道ならそれで」

13‘

七瀬「でも、私に心臓移植したら与田さんは死んでしまうんやで?」

⚪︎「3年は生きれます」

七瀬「3年?……まさか!」

⚪︎「はい、西野先生…いや、西野さんの心臓を僕に移植します」

七瀬「本当にそれでいいん?与田さんと恋人にはならへんのよ?」

14‘

⚪︎「それでもいいんです」

七瀬「そんなら…お願いします」

こうして、私と与田さんはお互いの心臓を

心臓移植にて、交換した。

15‘

〜〜〜〜〜

16‘

最初はお互い、リハビリの休憩中におしゃべりしたり、

退院した後も、お互いの家に行って、小説の話をした。

私は友人の高山一実こと、かずみんに紹介した。

かずみんは私の担当編集者だから小説も好きで、

与田さんともすぐ仲良くなった。

17‘

与田さんは執筆の息抜きがてらに、

私を色々な所に連れてってくれた。

七瀬「今度、石垣島行ってみたいな…」

⚪︎「いいですね、行きましょう」

18‘

〜〜〜〜〜

19‘

一年が過ぎた

〇〇さんは少しずつ、体調を崩すようになってきた。

七瀬「大丈夫ですか?」

⚪︎「ぇえ、大丈夫ですよ」

そんなの嘘だ…

20‘

⚪︎「それより、小説の執筆具合はどうですか?」

七瀬「最後の結末をどうしようかなって」

⚪︎「七瀬さんはどうしたいですか?ハッピーエンドにしたいですか?」

七瀬「ん…」

21‘

この小説は主人公が好きな人の為に、心臓を提供をする

その結末をどうするか…

それをずっと迷ってる…

七瀬「〇〇さんはどうしたい?」

22‘

⚪︎「僕は…それを決められません」

七瀬「なぜ?」

⚪︎「それは僕は物語の書き手ではないからです、七瀬さんが書き手なのです…七瀬さんの描きたい結末を」

七瀬「そっか…私が書き手…そうやな…」

その言葉に、私の中で閃いた。

23‘

〜〜〜〜〜

24‘

『脇役の僕は主人公になれない』が発売されてから

1年が経った。

〇〇くんは私の家に引っ越してきた。

理由は起き上がるのが大変になった為。

別に付き合ったわけじゃない…

25‘

でも、私が〇〇くんをみないといけないと思ったから

七瀬「今日の体調は?」

⚪︎「大丈夫です…僕は気にしないで、執筆してください」

七瀬「今日は休もうと思って、体調がいいなら外を散歩せぇへん?」

⚪︎「でも…」

26‘

七瀬「車椅子で押すし、〇〇くんが好きな紅葉も見れるで?」

⚪︎「…じゃあ、お願いしてもいいですか?」

七瀬「っ!肌寒いから少し着こもうな!」

私と〇〇くんは少し暖かい格好をして、

外に出る。

27‘

七瀬「厚着して正解やな」

⚪︎「ですね」

七瀬「寒ない?大丈夫?」

⚪︎「大丈夫です」

〇〇くんとは歩きながら色々なことを話す。

28‘

公園に着くと、2人でベンチに座り、

赤くなった紅葉を眺める。

少し咳き込む〇〇くんを見るのは忍びない。

〇〇くんの余命はあと…1年

29‘

〜〜〜〜〜

30‘

とうとう…〇〇くんは起き上がれなくなった。

1日に2時間起きてればいい方

ほとんどの時間を眠っている。

最近は小説の話ができてない

31‘

今では外も出る時は1人で、

買い物帰りに公園に寄って、

紅葉の木を見上げてから帰宅する。

32‘

〜〜〜〜〜

33‘

それは突然とやってくる。

〇〇くんは静かに息を引き取った。

遺品を整理してると

手紙が出てきた。

内容は私に感謝してるということ、

私を好きだということが書いてあった。

34‘

七瀬「私が書いた小説みたいやな…」

そう…『脇役の僕は主人公にはなれない』と

同じ終わり方。

七瀬「ぁー…なんで今なんや…なんで今…気づいたんよ…」

溢れ出す涙を止めることができなかった。

35‘

七瀬「っ…なんで…なんで…今、〇〇くんがいなくなってから…気づくんよ…私…〇〇くんが…好きやったんやな…っ…」

こんな所まで似ひんでもいいのに…

でもこんなにも似てるんやったら…

私がそっちに行った時にはちゃんと

会いにきてくれるんかな?

36‘

〜〜〜〜〜

37‘

〇〇くんが死んでから、1年後…

私は新作のサイン会に来ていた。

七瀬「みんな…この作品を好きになってくれるとええんやけど…」

一実「大丈夫だよ!絶対に好きになってくれるよ!」

七瀬「それならええんやけど」

38‘

一実「ほら、お客さんがきたよ!」

七瀬「じゃあ、しっかりとサインを書かな」

一実「そうだね!じゃあ、始めるよ?」

かずみんがメガホンを持つ。

39‘

一実「これから、西野先生の新作!『僕の心臓をもらってください』のサイン会を始めます!」

〇〇くん、あなたが生きた証はこうやって、

みんなの中に残るよ…

40‘

この作品はフィクションです。

実在の人物や団体などとは関係ありません。

またこの作品内の表現や行動はあくまでも、

作品内での表現・行動なので実際に行っても、

一切の責任は取りかねますのでご了承ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?