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眩しかった…あの夏

1‘

私は夏休みも中盤、追い込み時期なのに成績が伸び悩んでいた

いつも通り学校の自習室に向かう途中で歩くことをやめて

私は近くの公園に立ち寄った。

史緒里「はぁ…(心:疲れたなぁ…)」

2‘

絶望したような顔でブランコを漕いでる史緒里

ぼけ~~っと公園で過ごしているところに

“キキーッ!!“

とブレーキ音が響いたから、俯いた顔を上げる。

3‘

○「やっぱ史緒里じゃん!食べかけだけど、いる?」

と溶けかけのガリガリ君を〇〇から差し出されて

史緒里「……いらない」

と露骨に嫌な顔をする史緒里。

4‘

○「わかった、じゃあ、あげない」

と平然と答えてから、隣のブランコに乗る〇〇。

残り少ないアイスをパクッと咥えながら

立ち漕ぎをし始める。

5‘

史緒里「〇〇くんは元気だね」

○「だって、夏休みだよ?てか史緒里、制服じゃん!なんで?」

史緒里「うん…勉強する為にこれから学校に…」

○「そんな顔、死にそうな顔になっても勉強するの?義務教育は終わったのに?」

史緒里「だって…受験生だから…」

6‘

○「ふーん…俺にはもうよくわかんないなぁ」

史緒里「(心:〇〇くんだって高校受験のときは受験勉強してたじゃん)

ていうかなんなら私は昔、半泣きの〇〇に勉強を教えてあげたのに。

合格発表のときには、ありがとう!史緒里のおかげだよー!

7‘

とかいって、軽く連絡くれたっきりで

それ以降はずっと、なにも…

今日が二年半ぶりくらいじゃない?

それなのに…

〇〇に少しイライラする史緒里。

8‘

○「史緒里は昔っからアタマいいもんな、俺と違って、だからなんとかなるだろー」

史緒里「わたしべつにそんな…いまはね、大したことないんだよね、半分……より、ちょっと上くらい」

○「充分じゃん」

史緒里「これだと全然、行きたいとこ、行けないの」

○「史緒里はどこの学校に行きたいの?」

9‘

史緒里「坂道大学」

○「……ごめん、どこ?それ?」

心底申し訳なさそうな顔をする〇〇のことが

少し間抜けに思えてつい笑ってしまう史緒里。

10‘

史緒里「〇〇くんは分からないかもしれないけどね、ちょっと遠くのとこにあって、全国的には有名なところ」

○「それは史緒里にふさわしい所だね!!!」

史緒里「テキトーな反応だね」

○「くくくっ!」

11‘

楽しそうに笑う〇〇。

○「よっし!! じゃあ俺も今日から目指すよ!坂道大学!」

史緒里「はあ?」

○「何? 目指しちゃいけないとでも?!」

史緒里「……〇〇くんには絶対無理だよ」

12‘

○「おー?言ってくれたな?わっかんないよ? そんなこと言っちゃって、俺に負けるのが怖いとか?くくっ(笑)」

史緒里「だって、すごく頑張っても、それでもダメなんだもん…私だってずっと目指してきたけど、それでも難しくて……」

と言いながらじんわりと涙が込み上げてくる史緒里

○「ほら、史緒里はやっぱりちゃんと“頑張ってる”じゃん!だからねーきっといま辛いんだよ、大変なんだよ!」

13‘

ちゃんと自分のことは認めてあげなきゃ!

と優しく、史緒里の頭を撫でてあげる〇〇。

史緒里「………」

○「そんなに熱心になってることがあるの、立派じゃん!」

「…………」

14‘

パッ、と閃いた顔をする〇〇

○「ああ!そういえばもうすぐ誕生日だね史緒里!」

史緒里「あ、そうなると〇〇くんもだね」

○「ふふふ」

史緒里「……何か欲しいものでもあるの?」

15‘

○「いやいやいや!そんな、俺じゃなくてさ〜、史緒里の願い事が聞きたいな、叶えてあげるよ」

史緒里「じゃあ……」

もうすぐ誕生日だなんてことすら忘れていた。

欲しいものなんて咄嗟に思いつかない。

16‘

それでも〇〇くんがキラキラした目をして

私のことを見ているから

なにか望まなくちゃいけないのかなあと思った。

望んでもいいのかもしれないって思ったんだ…

17‘

史緒里「遠くに行きたいな…〇〇くんと」

ふたりだけの、ひみつの夏休み。

○「よしきた!18歳の瞬間はよく分からない土地で迎えちゃおうか!!さあ乗った乗ったー!」

と史緒里の鞄を奪って自転車のカゴに突っ込んで

サドルにまたがる〇〇。

18‘

史緒里「ほんとにいいの?」

○「ん、自転車で行ける範囲の限界に挑戦しよっか、付き合うよ!」

史緒里「…ありがとう」

いざ出発!ってときに、咥えていたアイスの棒を取り出した

〇〇は「あっ!!!」と声をあげ、水道の蛇口に駆け出す

19‘

? となる史緒里に、満遍な笑顔で、棒を差し出す

○「みて、当たりだった!! 綺麗に洗ったし、あげるよ、史緒里に!」

史緒里「……ありがとう」

○「大切にしろよ?俺からのお守りだと思ってさ!絶対受かりますよに!って、念じといたから!」

20‘

史緒里「……」

ほら!ビミョーな顔しないで!傷つくから!と

くくっ…と笑う、その背中にしがみついて、二人乗りをする

○「じゃあ、まずどこに向かおっか!史緒里の行った方向に進んであげるよ」

21‘

史緒里「じゃあ、まずコンビニ行ってくれる? 」

○「いいね!食料でも買い込みますか!長い旅になりそうだし」

史緒里「で、当たり棒で新しいガリガリ君を貰おうかな?」

“キキーッ!“とブレーキをかける〇〇

22‘

○「おいおい!お守りお守りー!せめて受験までは持ってろよ!」

史緒里「ふふふっ!冗談冗談(笑)」

笑い声なんて出すのはいつぶりだろう…と思う史緒里。

親に一応連絡でもしようかな……と思って

スマホを取り出して、数秒考え込んでから

23‘

史緒里「(心:…まあいっか、今日だけ、今だけ…)

と思いながら、電源を切ってポケットにスマホをしまいこむ。

〇〇くんと私の…ふたりだけのひみつの夏。

24‘

〜〜〜〜〜

25‘

史緒里?史緒里ー!史緒里!!

史緒里「ん…」

美月「あ、やっと起きた」

史緒里「んん…美月?」

美月「最近、講義中寝てばっかだねえ?」

26‘

史緒里「あー…もうすぐ夏休みだし」

美月「は~? 夏休みの前にテストがあるでしょ、呑気だなあ…今日も板書してあげたし、アイスおごってね」

史緒里「はいはい」

美月「ガリガリ君以外でよろしくね」

27‘

史緒里「なんで?美月ってほんとワガママ…」

美月「むしろなんで、史緒里はそんなにガリガリ君にこだわるかな? そんなに好きなの?」

史緒里「べつに、好きとかそういうのじゃなくて…なんとなく」

美月「へぇ〜」

興味なさそうに、次の教室早く行くよー

と美月に急かされて、片付けを始める。

28‘

美月「てかさ、史緒里がいつも筆箱に入れてる、それ」

史緒里「これ?」

美月「うん、やたらに大事にしてるよね」

史緒里「なんかさあ、“お守り”なんだってさ」

美月「ふーん」

29‘

史緒里「ちょっとヘンな人なんだよね、これくれた人…あ~でも、なんだかんだ、これには救われたかなあ」。

美月「青春の1ページ的な?」

史緒里「そんなに綺麗な話じゃないけどね、その人とも高校以来会ってないし」

美月「そうなんだ〜」

30‘

____

31‘

ある日、ハガキがポストに入っていた。

知らない住所から届いているそのハガキに綴られているのは

見覚えのある字体。

懐かしさを感じて口元が緩む。

でも文面を読んで、遣る瀬無い気持ちに襲われ

家を飛び出した。

歩いてると美月と鉢合わせる。

32‘

2人は大学にいく前に近くの公園にいくことにした

美月「あれ、史緒里? 荷物は?」

史緒里「ごめん、今日は、コンビニ、寄ってもいいかな?」

美月「いいけど、史緒里、財布持ってなくない?まぁ、いつも奢られてるし、出してもいいけどね〜」

33‘

史緒里「大丈夫だから!! 大丈夫…ちゃんと持ってるから」

ポケットに手を入れたまま、コンビニへと向かう。

張りつめていて、いつもと違う様子の史緒里に戸惑いつつも、着いていく美月。

そしてレジに向かう史緒里を見て、ハッとする。

美月「史緒里! いいの? 大事なものだったんじゃないの?」

34‘

何も言えずに首を振る史緒里。

店員さんにアイスの棒を渡すが

もうすっかり霞んでしまっている「あたり」の文字を見辛そうに確認する店員さん。

新しいガリガリ君を貰った史緒里は、封を開けながら外に出て、すぐに齧り付く。

35‘

“さくっ…さくっ“と一心不乱に食べ進める。

半分よりも少し食べたところで食べるのをやめる。

史緒里「今年の私の誕生日…美月と一緒に遊ぶ約束してたじゃない?」

少し震える声で問われた美月は、うん、そうだね。と手短に答える。

俯いている史緒里。

史緒里「やっぱりその日、私、行かなくちゃいけないところができちゃった」

36‘

その言葉を言い放ってから、一点を見つめたまま、史緒里は動かない。

夏の暑い日。

溶けかけたアイス…じわじわと固形が崩れていく。

史緒里「好きだった人にね、おめでとうって言いにいかなくちゃいけないの…結婚、おめでとうって…」

その声は確かに震えていた。

37‘

そして微かに揺れる手元から、重力に耐えきれなくなったアイスが地面へ落ちる。

握りしめたままの棒を眺めては、滲んでいく視界。

史緒里「…やっぱり…“はずれ”だったなあ…」

ソーダ味の感触

ざりざりとした感触が口元に残って頭がキーンとする。

私はたまらず、しゃがみこんで顔を覆った…

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