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オフィスワーカーズ・ブルース #1

noteに記事を上げるのも本当に久しぶりだ ▼例の流行り病が猖獗を極めているこの間、別に病んでしまったり、noteへの興味を失ってしまっていたわけではない。ただ、家にいてもそこそこ愉しめるPCソフトを見つけてしまい、noteに記事を書く時間が漫然と侵食されていたからなのだ ▼本人はおかげさまで流行り病にもかからず、予防接種も2回済ませて、それなりに、いや以前よりも肉体的には健康でいる。

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「国鉄の匂い」考。

「鉄道模型シミュレーター5」というソフトがある。

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鉄道模型シミュレータ5を使用した雑な作例(ななまん作)

PCの仮想空間上に「鉄道模型のレイアウト」を作成できるCADベースのソフトで、車両を走らせることはもちろん、車両や風景を眺める視点を自由に変えることも、天候や昼夜を変えることも出来る。一度エンドレスの周回レイアウトを作成してしまえば、複数の列車を走らせることができるのは実際の鉄道模型には出来ない愉しみ方だろう ▼緊急事態宣言が出っぱなしになっている中、なかなか出来ない趣味のひとつが「汽車旅」である。それも車中で土地の美味しいお酒とおつまみをいただきつつ、車窓の移り変わる風景を愛でるというスタイルの旅行であるのだから、余計にハードルは高い ▼だが、何のことはない。行ってみたいところの風景は、PCの中に作ってしまえばよいのだ。今年の春は、写真のようにレイアウトの中に桜の木を植えまくり「シミュレーター上の列車の車内から桜を愛でる」という形で花見をし、夏は海辺の風景を作って、夕暮れの海をバックに鉄橋を渡るブルートレインを眺めながら一杯呑る、なんてことをした ▼鉄道の風景に欠かせない食べ物、飲み物といえば、個人的には缶ビールと「崎陽軒のシウマイ」である ▼崎陽軒のシウマイの偉大さは、冷めていても美味しい、いや冷めているからこそ美味しいのではないかと思えるあの味わいと、醤油入れになっている「ひょうちゃん」の不器用な可愛さにあるのだが、

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ひょうちゃん。

(出典:崎陽軒 https://kiyoken.com/hyo/)

件のシウマイと「鉄道」との親和性の高さは、単に駅のキオスクで売られているからという理由だけではないような気がする ▼これはかねがね私が感じていることなのだが、崎陽軒のシウマイのパッケージを開けたときに鼻を擲つ、あのシウマイの香りが、好事家の間で有名な「国鉄の香り」の重要なキーになっているフシはないだろうか ▼ここで言う「国鉄の香り」というのは、比喩表現ではなくて、かつて全国を走っていた国鉄時代に製造された車両で感じる独特の匂いのことで、成分は不明なのだという。

https://trafficnews.jp/post/87545

ないものは、作っちゃったらいいじゃない。

「国鉄の香り」、あれを私なりに解釈すると、座席モケットの埃の匂い、定期的に行われる殺虫・殺鼠剤の匂い、車内トイレの消毒液の匂い、そして乗客が車中で口にする飲食物の匂い。そうしたものが混ざりあったものではないだろうか。だからサニタリ設備がなく、車内での飲食もまずない山手線のような通勤電車では「国鉄の香り」は比較的希薄で、かつての東海道線のような、ボックスシートを備える近郊型電車や、遠距離を走る特急型、急行型の車両で特に顕著に感じる「匂い」だったように思う ▼では、そうした列車の車中で感じる飲食物の匂いとは何だろう。それが「崎陽軒のシウマイ」であり、「冷凍みかん」であり、「柿の種」のような醤油味の米菓、ビールなどのアルコール、あるいは緑茶。緑茶といっても、今日のようなペットボトルのあれではない。こういうやつだ ▼当然飲み終わったあとも、ティーバッグは容器に入ったまま、座席の下なんかに放置されるのだから、お茶っ葉の香りも当然、車内で香る。

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「ポリ茶瓶」って、語感からしてかわいいよね。ぽりちゃびん。

出典:https://michinoeki.kyoto.jp/2562.html

まあ「国鉄の匂いが何だったか」なぞ、わかったところで我々の生活には全く役に立たない事柄ではあるだろう。ただ、香りや匂いというものは案外記憶と結びついているものだから、PCの画面越しに観るイミテーションの鉄道風景であっても、そこに「匂い」が加わると俄然臨場感が増したりする、ということは小さな驚きではあったのだ ▼世の中が落ち着くまでは、鉄道模型シミュレーターと、ビール、崎陽軒のシウマイが汽車旅に出たいサラリーマンの無聊を慰めるということになるかもしれない ▼ややもすれば、こういう余暇の愉しみ方も、例の流行り病への過剰適応という気がしなくもないのだが。(2021年7月)

グレースケール、のようなもの

行きつけだったその居酒屋に、最後に顔を出したのは昨年の10月であったから、もうすぐあれから一年が経とうとしているのか ▼その店の店長とはもうだいぶ古くからの付き合いになるのだが、今年に入ってからの例の流行り病の状況もあってか、相当いろいろな事が厳しい様子で、時折心の叫びのような投稿がSNSに上がる ▼もともと「自然派」で、日頃から「愛国心」を口にする人ではあったが、その中には同意できることもあったし、それはどうかなと思うこともあった。人それぞれに考え方や価値観の違いがあることは当然のことであり、何より人柄は良い人なので、これまでの生活の中では、何も葛藤を感じることはなかった ▼けれど、ある日のSNSの投稿では、予防接種は本当に意味があるのか、ここで具体名は出さないが、例の内服薬が認可されないのか、海外のものは信用できない、今の政治が悪い、日本は真の自立を目指すべきだ、というような趣旨の文言がたくさんの「!!」とともに書き連ねられていた ▼深夜の投稿というところから推して、おそらくは酔っていたのだろう。気持ちはわからなくもないが、それでもやはり、その文章の中では、事実でないことが彼の中では事実になってしまっている。なぜこのような認知になってしまうのかが、正直わからない ▼今般の流行り病の残酷さは、さまざまな社会的な制約や個々人が受けるストレスによって、それぞれの人達の考え方が先鋭化してしまい、これまで許容できていた価値観の相違のようなものが、許容できないと感じるレベルまで隔絶されてしまい、分断が起きてしまうというようなところにあるのだろう ▼古くからの友人を「公衆衛生の敵」とみなすなどという「冷厳さ」を私は持ち合わせてはいない。けれど、件の言説にそうだそうだと両手を揚げて賛意を表すことも出来ない。ただ、感じたのは「許せない」という感情ではなく、ただ、どうしてそうなったという「悲しさ」だけだ。少なくとも、あれは自分の中で「ヤバい」の一線を越えた文章だった ▼グレースケールというものがある。どこからが白で、どこからが黒なのか。グレイと白の境界に向けて突っ走っている、と歌っていたのはYMOの「灰色の段階」だったか ▼何をしたら「ヤバい」のか「ヤバくないのか」。そのあたりのバランスをどう取るか。あえて「センス」という言葉を使うが、今のように常ならぬ世の中では、その「センス」が合う人と過ごしたほうが良いのかもしれない ▼この騒ぎが収まったら、また呑みに行こうと思う店がひとつ減ってしまったことは残念な事ではある。しかしまた時間が経てば、このささくれ立った思いも癒えるのかもしれないが ▼いろんな意味で、今は人との適度な「距離」が必要なのだろう。(2021年8月)

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そりゃみんなシャムズるよ。

(次回へ続く)

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【本記事の取説~「オフィスワーカーズ・ブルース」について】

本記事シリーズは、昨年以来、一人で過ごす時間が多くなった中で、生活の中で触れるさまざまな事象について思ったことや感じたことを文章化する、といえば普通の日記になってしまうのですが、できればその「一人で考えているときの思索のとっちらかり方」みたいなものを文章化したくて書き綴る駄文です。

今回の記事はある程度勝手に起承転結というか、いちおうのオチみたいなものがついちゃいましたが、「そういえば思い出したんだけど」というパワーワードによって話が壮大に脱線して、もはやどこが本線かわからない、といった無秩序な「思い出し」「思いつき」の連鎖のようなものを、文章化という否が応でも論理的に処理せざるを得ないフィルターにくぐらせた時、どういう文章が書けるのかという私にとっての実験であり、習作です。なので、連想とか脱線を誘発すべく、あえて改行は少なめに、句点も一部だけ残して▼を入れ、天声人語風の「文章のヨレ感」を狙っています。あざといですね。どうでもよいですが、あれは縦書きだから味になるのですなあ。▼。横書きだと、どうもね…ああいう風合い、出ませんね。

それから記事中にある(年月)は、だいたいそんな事を考えた時期がその頃だったかなあという感じで適当につけています。でも、これをつけると何やらインタビューを再構成した記事のような味わいが出て面白いですな。

ちなみに、タイトルの「オフィスワーカーズ・ブルース」は、ちょっと拗らせたおっさんのブログタイトルふうな感じがアリアリですが、もともとはこのタイトルで、職場で感じる「なんでそうなるの」的なトピックで記事を書こうと思ってて、書きかけのまま長いこと熟成していた下書きがあったのですが、今日はその下書きをいじっているうちに、気づいたらこんな仕上がりになってしまいました。そう、この記事はタイトル以降、全部脱線している「余談」なんですよね、実は。で、肝心の本文は「続く」という。舐めてますね。どうもすみません。

ま、こんな感じで不定期で書いていこうかなと思ってますので、どうかよしなに。(ななまん 拝)

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