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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第19話

〇大法廷

 静まり返る大法廷。
 ここにはエレナとフェデリックしか居ない。

エレナ「……伝えたいこと?私に」

   真剣なフェデリックの眼差し。
   紫色の眼球が、じっとエレナを見てピクリとも動かない。

エレナ「あ」

フェデリック「どうしたの?」

エレナ「あなただったのね」

フェデリック「?」

エレナ「昔助けた美しい紫の瞳の少年」
   「何だか懐かしい気がしていたのはそのせいね」
   「(小声で)あなただ……」

   フェデリック、跪いてエレナの手にキスをする。
   その仕草は、まるで騎士が姫に忠誠を誓うかのよう。

フェデリック「ようやく思い出して頂けましたか。エレナ様」

   フェデリック、真っすぐエレナを見つめて、

フェデリック「助けて頂いた日からずっとお慕い申しておりました」

エレナ「ちょ、その話し方はやめて。いつものように話してよ」

   フェデリック、立ち上がって、

フェデリック「分かりました」

   フェデリック、強く強くエレナを抱きしめる。

フェデリック「助けてくれた日から、ずっと、ずっと好きだった」

   エレナの下に垂れた両腕が、おそるおそるフェデリックの背中まで伸びる。

エレナ「ずっと……ずっと前から私たちは出会っていたのね」

   エレナ、フェデリックの背中に手を伸ばし、強く抱き返す。

〇市街地・大きな市場

肉屋の主人「さあさあ、見てってよ」
花屋の女将「綺麗な薔薇はいかがです?」
パン屋の若夫婦「(通行人とぶつかりそうになって)おっと!」

   多くの商店、買い物客で賑わっている。

女性客①「ねえ、新聞読んだ?」

女性客②「読んだ、読んだ」

女性客③「何のこと?」

女性客①「聖騎士団よ。解散だって。もっとも、5人中4人は去ったから、団長のミザリーだけだったんだけど……なんでも」

女性客③「なんでも?」

女性客①「その団長が逮捕されたらしいの」

女性客③「えぇ!?なんでまた?」

女性客②「セナ―トゥス様殺害を企てたのと……それから、前団長エレナのご両親に偽物の高価な首飾りを売りつけたんだよ。なんでも色仕掛けで職人を騙して作らせたとか」

女性客③「ええー。正義の聖騎士団様なのに?」

女性客①「そ。恐いわよねぇ」

女性客②「いい人そうに見えて、何があるか分からないもんだよ」

   くしゃくしゃになった新聞が風で飛んできた。
   新聞の見出しは「聖騎士団解散へ」。

   3か月の月日が流れた。

〇フェデリックの邸宅(夜)

   フェデリック、満面の笑顔で

フェデリック「おかえり」

エレナ「ただいま」

   フェデリック、主人の帰りを待っていた子犬のように、

フェデリック「会いたかったよ」

エレナ「んもう。大げさね。ちょっと出かけてきただけでしょ」

フェデリック「エレナに会えないと1分1秒だって寂しいんだよ」

   フェデリック、エレナを抱きしめる。
   2人は微笑み合って、そのまま何も言わずキスをする。

〇フェデリックの邸宅・中庭(夜)

   エレナとフェデリックは、ゆっくりお茶を飲んでいる。
   今晩は雲がなく、星がよく見える。

フェデリック「……で、どうだったの?」

エレナ「ああ。皆のこと?元気そうだったわ」

   エレナは、リリー、ソフィアナ、アンナのことを思い浮かべている。

エレナ「リリーは元々お洋服が好きだったし、仕立屋で修業してるみたい。知ってる?首都で有名なマリー・ベルタンの仕立屋だって。すっごく厳しいとか」

   「ソフィアナは、もう少しで医学修道院での研究生生活が終わるらしくて、独立するんじゃない?」

   「アンナはいい先生やってる!今度、教会からの援助を受けて、師匠のコメニウス先生と一緒に学校を設立するんだって」

   エレナは嬉しそうに今日会ってきた昔の仲間たちのことを話している。

フェデリック「僕たちのことは話したの?」

エレナ「(照れながら)少しだけ……」

フェデリック「(不満そうに)少し?」

エレナ「だって、恥ずかしいじゃない。恋人ができました、なんて」

   フェデリック、立ち上がり、無言で歩き出してしまう。

エレナM「あら?怒っちゃった?」

   エレナ、フェデリックを追いかける。

エレナ「いや、違うのよ。あの……恥ずかしいってのは、その……」

   フェデリックは何も答えない。
   フェデリックもエレナも歩き続けている。

エレナ「ほら、今までは人を助けるのに精一杯で、恋人なんて……そんな余裕なかったし」

   フェデリック、ため息をつく。

フェデリック「恋人?」

エレナ「え、違うの?」

   フェデリックの部屋の前で足が止まる。
   フェデリック、扉を開ける。
   部屋の中には大きなベッドがある。

フェデリック「今晩私の妻になって頂けませんか?」

エレナ「妻?」

フェデリック「はい。私と結婚してください」

   エレナ、驚いて何も言えない。
   次第にその目に涙がたまってきた。

エレナ「(涙声で)ありがとう。フェデリック」
   「気持ちは嬉しいわ。でも……」

フェデリック「でも?」

エレナ「結婚する前に、私、どうしてもミザリーに会いたい。聞きたいことがあるの」

フェデリック「ミザリーに?それは危険だよ。お供するよ」

エレナ「(強く)いいえ。私だけで行かせて。どうしても2人だけで話がしたいの」

   何を言ってもエレナは譲らない、という決意に満ちた表情をしている。

フェデリック「……分かった」
      「(しょんぼりと)夫婦になるのはお預けだな」

エレナ「ミザリーと話した後」
   「きっと、ここで、このベッドで夫婦になりましょう。その時は」
   
   「私を妻にしてくださいませ。フェデリック・ド・フーシェ様」

   凛として花のように美しいエレナ。
   後ろの大きな窓からは輝く星が見える。

〇国王軍警察・牢獄(暗く、汚い、鉄格子)(朝)

   全く朝の日差しは入らない。

ミザリー「どうして、どうして、どうして私が!」

   ミザリーは喚き散らしている。

ミザリー「(金切声で)何でなのよ!」

   しんと静まり返る牢獄。
   コツコツと誰かの足音が聞こえる。

声「ごきげんよう、ミザリー」

   ミザリー、顔を上げる。

ミザリー「何であんたがここにいるのよ!?」

   ミザリーは鋭い目つきで声の主を睨んでいる。

ミザリー「エレナ!!!」

(続く)


第20話↓


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