こんなにも 世界には なにもかもが

あれもない これもない
ないないない なにもないと
止まっているわたしは考える

時間がない
お金がない
あの人からのメールがない
やりたいこと なんにもできない
やりたいことも そんなにない

あれもある これもある
こんなにあるってどういうこと

走っているわたしは
おどろきのあまり 目を見張る

繰り返し繰り返し
前に進む脚がある

気持ちよくゆれる腕がある
息をめいっぱい吸い込む肺がある
からだがどんどん 熱くなる
ほてった肌を 冷やす風も

ヘッドホンから聴こえる
踊りたくなるようなリズムがある

向こうから
強く光る 車のライトと
ふらりふらりと仲良く並ぶ
自転車に乗った親子のライト

もうすぐ咲きそうな桜を見上げる

わたしの上半身を支える腰を
わたしの下半身を支える脚を
どこまでも裏切ることなく
支える 濡れたようなアスファルトが

ある ある ある
こんなにも 世界には なにもかもが