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炎上可視化レポート:FGO ブリトマート「男装の麗人(?)」表現

日付:2022年11月09日
分類:コンテンツ批評
対象:Fate/Grand Order (ゲーム)
結論:一部のユーザーの誤った認識による見当違いな表現批判

 2022年11月09日、Fate/Grand Order (以下FGO) の登場キャラクターであるブリトマートの容姿について、作品内で「男装の麗人(?)」と表現されたことによって、一部のユーザーから「こんなのは男装の麗人じゃない!」との批判の声が上がった。

1. 概要

A. 発端となった表現

ブリトマートの容姿 左:鎧姿(第一再臨)、右:鎧を脱いだ姿(第二再臨)
批判の対象となった「男装の麗人(?)」表現

B. 主な批判意見

 批判意見は「こんなのは『男装の麗人』じゃない」という趣旨の意見が主で、概ね以下のような意見が見られた。

  • 「男装の麗人」なのに胸が出ていて女性要素が丸出し

  • 「男装の麗人」という言葉を使わないでほしい

C. 主な批判以外の意見

 批判意見に該当しない意見は「そもそもの認識が誤っている」という趣旨の意見が主で、概ね以下のような意見が見られた。

  • 「男装の麗人」は鎧姿のことを指している

  • そもそも公式は「男装」や「男装の麗人」を売りにしていない

  • 勝手に期待して、勝手にキレている

  • 型月に「男装の麗人」を期待してはいけない

 なお、「型月に『男装の麗人』を期待してはいけない」という意見については、型月に対する批判か今回の批判者に対する揶揄か微妙なラインであるため、明確にブリトマートに言及していない限りは、批判以外の意見と見做した。

D. 事実確認

 ブリトマートに対して「こんなのは『男装の麗人』」じゃないとの意見がある一方、「そもそも批判者の認識自体が誤っている」との意見も見られた。結論から述べれば、作品内で「男装の麗人」が指していたものは、鎧姿のブリトマートであると考えるのが自然であり、「そもそも批判者の認識自体が誤っている」と言える

 実際の、作品内における「男装の麗人」が使われている場面を見ていくと、鎧を脱いだブリトマートに対して、主人公が「男装の麗人(?)だったの!?」と驚くところが該当のシーンである。

該当のシーン
その後の会話では鎧に言及が続く

 「男装の麗人(?)だったの!?」というセリフは、ブリトマートが鎧を脱いだ直後のやり取りで出てきたものであり、さらに、このセリフのあとも鎧についての言及が続くことから、文脈上、男装とは鎧姿のことを指しているとするのが自然な解釈である。「男装の麗人」という表現が鎧を脱いだブリトマートを指しているとするのは、文脈を無視した強引な解釈であり不自然な解釈と言わざるを得ない。

 なお、「男装の麗人(?)だったの!?」という問いかけに対して、「はい!」と答えていることから、「男装の麗人(?)」設定が皆無という訳ではないと言えるが、ブリトマートについて、これ以外に公式のテキストでは「男装」という言葉すら出てこない。よって公式が「男装」や「男装の麗人」キャラを期待させたというのは誤った認識である(誰が期待させたのかは後述する)。

E. 原典のブリトマート

 原典を確認した人の情報によれば、ブリトマートについて、原典においては単に「鎧姿で風体がわからない」という内容の記述のみで「男装」という表現はなく、「鎧兜を外したので女性だとわかった」という内容の記述があるとのこと。  
 この、「鎧姿では女性だとわからなかった」ことを受けて「鎧=男装」という解釈になり、「男装の麗人(?)」という疑問符つきの表現が来ているのではないかと推察される。

 いずれにしても、原典の内容からしてブリトマートは「男装の麗人」ではなく、「鎧で身を隠した女騎士」である。よって「男装の麗人(?)」が素の姿のブリトマートを指しているとは考えにくく、指しているのは鎧姿のブリトマートである可能性が高いと言える。

 詳しくは以下の togetter を参照。

 原典関係の参考リンク。

F. 批判者の誤った認識

 前に述べたような文脈があるにもかかわらず、批判者は「男装の麗人」として表現されているのは「鎧を脱いだ姿のブリトマート」だと認識し、怒りや落胆を見せている。例えば以下のようなツイートが顕著である。

 そして、このような誤った認識が拡散され、野次馬のような人や、さらにはイラストレーターに対する真偽不明な情報を発信する人まで現れたりと、炎上の悪い側面が散見された。

G. 「男装の麗人」を期待させたのは誰なのか?

 ところで、そもそも批判者はなぜ、ブリトマートを「男装の麗人」設定のキャラクターであると思い込んでいたのだろうか? 先ほど述べたように、ブリトマートについて、公式に「男装の麗人(?)」と言及されたのは、ゲーム内のあのセリフのみであり、それ以外では「男装の麗人」どころか「男装」という表現すら見当たらない

引用元:【期間限定】「カルデア妖精騎士杯 ブリトマートピックアップ召喚」! | Fate/Grand Order 公式サイト

 にもかかわらず、以下のツイートのように、批判者はブリトマートが「男装の麗人」要素のあるキャラクターだと「最初から」認識しており、その期待とのギャップが批判者の怒りを大きくしていると思われる。

 一体、批判者にブリトマートが「男装の麗人」であると期待させたのは誰なのか? 結論から述べると、犯人は Wikipedia の記述 と そこから勝手な期待をしたユーザー自身であると言える。

 話を順に追っていくと、まず、ブリトマートの情報が公開されたのは11月4日であり、公式は名前とシルエットのみを先行公開、それを受けて、大手ゲーム攻略メディアやブログなどが、ブリトマートを「男装の女騎士」「男装の美しい女騎士」と紹介した。
 ※なお、これらの表現は公式では一度も言及されていない。

 この際、ソースとされていたのは Wikipedia の記述であり(FGOまとめ速報が貼っている画像が Wikipedia の内容)、当時 Wikipedia のブリトマートの記述は以下であった(太字は筆者による)。

第三巻『ブリトマートの貞節の物語』の主人公、第五巻の主人公アーティガルの運命の恋人でもある男装の騎士美しい女騎士

妖精の女王 - Wikipedia

 なお、今回の騒動を受けてか、11月10日にブリトマートの記述が編集され、現在 (11月12日時点) では以下のように、男装という記述が削除され、原典の内容に沿う記述に変わっている(太字は筆者による)。

第三巻『ブリトマートの貞節の物語』の主人公、第五巻の主人公アーティガルの運命の恋人でもある。美しい女騎士であるが、全身を覆う鎧兜により、その風体は分からない

妖精の女王 - Wikipedia

 こうして、原典に正確でない Wikipedia の記述を元に、ブリトマートが「男装の麗人」だという認識が広まり、各々が勝手に期待を膨らませたものの、原典に照らせば、ブリトマートは「鎧で身を隠した麗人」であり、ゲームでもそのような形で実装されたというだけの話であった

 なお、念のため補足しておくと、「麗人」とは「美しい女性・美人」を意味する言葉であり、当時の Wikipedia の内容から、ブリトマートを「男装の麗人」と捉えること自体は意味合いとして特に問題はない。

 問題は、そもそもブリトマートが原典において「男装」ではなかったことと、一部の人が「男装の麗人」に対して強いこだわりと期待感を持っていて、実装されたブリトマートの姿と今回の作品内での表現に対して、見当違いな怒りを爆発させてしまったということである

 悲しいことに、「男装の麗人(?)」表現に怒っている人が期待していた「男装」自体がそもそも原典には存在しない幻の要素であった

H. 参考:事実を冷静に捉えたツイート

I. 総評

 批判意見は、自分の期待していた「男装の麗人」イメージとブリトマートのキャラクターデザインとのイメージのギャップに怒りや落胆を示すものが中心であったが、一方で、批判以外の意見は、そもそもの批判者の「男装の麗人」という認識が誤っていることを指摘する内容が中心であった。

 そこで、事実を整理すると以下のようであった。

  • 公式が言及したのは疑問符つきの「男装の麗人(?)」のみ。事前の紹介やゲーム内で確認できるキャラ設定でも「男装の麗人」や「男装」という表現は使われていない。

  • 原典のブリトマートの記述にも「男装」という表現は存在しない。原典のブリトマートは「鎧で身を隠した女騎士」である。

  • 原典に照らすと、「男装の麗人(?)」の「男装」が指すのは「鎧」である可能性が高く、文脈上も「男装の麗人(?)」が指すのは鎧姿のブリトマートであると解釈するのが自然である。

  • ブリトマートが「男装」であるとのソースは当時の Wikipedia の記述である。その記述がそもそも原典に照らして不正確であった。

  • 不正確な情報を元に、「男装の麗人」勝手に期待したのはユーザー自身であった。

  • 一部の人は「男装の麗人」に対して強いこだわりと期待感を持っていて、勝手に期待して、勝手に裏切られて、見当違いな怒りを爆発させた。

 以上のような事実から、本件は一部のユーザーの誤った認識による見当違いな表現批判と結論づけられる。勝手に抱いていた先入観からか、作品内の文脈を読み誤り、事実をよく確認しないまま、自身の感情をそのまま Twitter へ投稿したものが炎上となった形であり、ある意味 Twitter らしいオーソドックスな炎上であったと言えるだろう。

2. 参考:データサマリ

 ここからは、参考として本件にまつわる各種数字をみていく。なお、ここで使われているデータは Twitter API を通じて取得したデータが元になっている。取得できる情報は公開情報に限られるため、鍵アカは集計対象外となる。

A. 反応ユーザー数

 まず、今回の件に反応したユーザー数を見ていく。集計に際しては、基本的には、「いいね」が1,000前後以上のツイートを対象にしていて、本件の場合は22件のツイートが対象となった。

 ユーザー数を見ると、本件に反応したユーザーは約28,000ユーザーであった。炎上規模の目安としては、反応ユーザーが5万以内であれば小規模、10万以内であれば中規模、10万超だと大規模と言え、本件は「小規模な炎上」とみることができる。

 ユーザーの姿勢は、ブリトマートの「男装の麗人(?)」表現に対する姿勢を「2:中立・不明、3:ネガティブ」の2つに分類したものである(具体的な集計方法は後述)。約28,000ユーザーを母数にした話ではあるが、ネガティブな意見は約3割ほどであり、批判意見がそこまで支持されているわけではないことが窺える。

 なお、本件における、「ネガティブ」「中立・不明」の意見の具体例は、本記事の「B. 主な批判意見」「C. 主な批判以外の意見」が、それぞれ「ネガティブ」「中立・不明 」に該当する。

補足:姿勢の集計方法

 ユーザーの姿勢は、本件に関するツイートへの反応をユーザーごとに集計した結果で振り分たものであり、集計方法は以下の4ステップとなる。

  • ツイート単位で、作品や表現などに対する姿勢を分類
    (ポジティブ、中立・不明、ネガティブ)

  • その分類により各ツイートに数値を設定
    (ポジティブ = 1、中立・不明 = 0、ネガティブ = -1)

  • ユーザー単位で各ツイートへの反応を数値で集計
    (反応が投稿・いいねなら設定した数値で集計し、それ以外は 0 で集計)

  • 集計した数値の合計値でユーザー単位で姿勢を分類
    (1以上でポジティブ、0で中立・不明、-1以下でネガティブ)

B. 各ツイートのリツイート状況

 上のグラフは、本件で取得したツイートのリツイート状況を表したものである。上の凡例の数字は、今回取得したツイートを「いいね」の多い順に並べたときの順位を表している。
 本件の場合、拡散のピークは10日であり、そこでほとんどのツイートが拡散されている。11日になって拡散された「No. 7」のツイートは特徴的と言えるだろう。
 なお、期間として、おおよそ3日間のデータであるが、大抵の炎上は3日もすれば落ち着くため、見るべき期間として最低限の期間は押さえている形である。

C. 「いいね」が上位のツイート TOP10

 最後に、本件で取得したツイートを「いいね」数が多い順に掲載していく。なお、以降の「No. 」は先のグラフの凡例の番号を示している。

No. 1

No. 2

No. 3

No. 4

No. 5

No. 6

No. 7

No. 8

No. 9

No. 10

3. あとがき

 まず、ここまで読んで頂いたことに感謝を申し上げたい。もし、この記事が今回の騒動を理解する一助となったのであれば幸いである。

 

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