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思いつき一場面物語~屋上から~


大切にしたいと思うものは大抵、私の手元には残らないんだ。
と笑った彼女は、なんて名前だったけ?

よく考えれば、あの時に彼女が言った「大切にしたいと思うもの」は自分のことだったんじゃないか?

彼女が言うように、すっかり手元から離れて自分は彼女を薄っすらとしか覚えていない。

あんなに、毎日楽しく話していたのに。戯れあっていたのに。

薄情な奴だと彼女は思っているだろうか?
頭の中でぼんやりした光の中、彼女は笑う。

"仕方ない!だって、そういうものだから"

その、仕方ないがやけに元気に響いて、あぁ、あの時ほんのちょっとでも気づいてやればよかったと思った。

そんなわけないなんて、言い訳で誤魔化さないで、出来もしない約束の一つでもしてやればよかった。

果たせる果たせないに拘って、彼女の事をわかってなかったんだなと、夕日に染まりながらやるせなくなる。

それでも、彼女はどこかで笑っているのだろう。
こんな自分のことはお見通しなんだろう。

"いいんだよ。君が楽しく生きてさえいれば。"

温かなオレンジの夕日を浴びて、1日の終わりを感じる。
真っ白なシーツが風になびいて、さようならと言っているみたいだ。
もうすっかり春だな……。

腕につけた時計を確認すると、休憩時間は終わりそうだった。
さぁ、仕事に戻ろう。
彼女を忘れた自分に戻ろう。


週末には桜でも眺めに行こう。
桜咲く佳き春を。

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