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太平洋戦争 戦訓3 比島沖海戦砲術戦訓軍艦利根3/3

第3編 機銃の部
第1章 対空射撃一般
第1 砲戦指揮
1.砲火の指向法
(イ)今回の戦闘は多数の急降下機本艦に来襲ししかも連続3日間にわたる対空戦闘のために弾薬に不足を来せる結果、機銃は殆ど独立砲撃を実施し、本艦に突っ込む急降下のみを射撃せり。
(ロ)各群指揮官として准士官以上を配し、その銃側見張りてっていしありし為、目標の選定、変換、射撃の始終極めて適切にして防空指揮所の意図の如く模範的なる射撃を実施し?も、本艦襲撃を企図する機は全て機銃の銃火を浴びせられたり
2.号令の通達
(イ)防空指揮所よりの電話の通達良好にして不自由を感ぜず目標指示、撃ち方の始終は概ね手先信号にて通達せり。
(ロ)有能なる群指揮官或いは長居らば独立砲撃にても危うからず
第2 射撃指揮に配するか、銃員の一名をして折々指揮官に注意する習慣をつけむるを要す。
(ロ)目隠し式或いは「ランプ」点灯により「撃ち方やめ」を報ずる有効なるも容易に破損する恐れあり。
(ハ)注意喚起に号笛の利用は?有効なり
(ニ)手先信号は多くを定むるの要なし簡単明瞭のものたるべし。
2.射撃開始の時機
(イ)本艦に接近しつつある急降下機には突っ込む前に撃ち方を始めざれば投弾前に撃墜を期しがたし。火を吹きたるも投弾後に墜落せる機あり。
3.射撃の効果
(イ)急降下機に対し、投弾までに撃墜し得たるは殆どなし。曳光弾飛行機を包み今火を吹くか今落ちるかと期待するに、なかなか墜落せず。急降下中機の射線に対する面極めて小さく余程濃密なる弾幕を作らざれば命中し得ざる如く感ぜり。
(ロ)戦闘初期、射弾の散布相当大なるは実敵に対する切迫感により照準を精密に為さず。自己の弾着を確かめ得ず、あるいは、照尺の改調を誤る等、要するに弾丸を出したるにすぎざるもの少なからざりし為なり。
4.迅速なる銃火の指向法
(イ)雲低き時は筒善の出現に艤装は間に合わず軍装のみ迅速に弾丸を出せしも、一般に銃側の見張り徹底せし為、十分間に合いたるが如し。
(ロ)旋回手には体力強靱等級上の者を配する要あり。
5.射弾指導法
(イ)銃側小銃にては自己銃と他銃との曳光を区別し得ず。従動照準にては他群との区別可能なるも、急降下等に対しては修正間に合わず、初段発砲時の諸元調定照準は極めて正確なるを要す。
(ロ)軍装機銃車種は曳光視認し難く、急降下に対して唯環型の中心を照準して発車を継続せりと言へる者あり。概して?くのごときものと思考せらる。
第3 目標の選定
1.機銃の目標
(イ)機銃は本艦に突入し来たる急降下機及びl戦闘機に対して射撃せり弾丸不足し、しかも本艦に来襲せる急降下多かりし為、横過態勢及び他艦に向かふ機に対しては2日目以後は全く射撃を行なわざりき。
2.目標選定の標準
(イ)連続3日間対空戦闘により弾丸不足の苦しき状況を?せるに鑑み、追い射ちは絶対に為すべからず
(ロ)2機続いて来襲する急降下は戦闘機銃撃にて制圧を企て、2番機投弾を行なうを以て目標の変換に留意するを要す。

第4 回避と砲戦
1.回避の必要性
(イ)現在の対空砲火にては急降下を投弾前に撃墜するは相当困難を以て急降下爆撃に対しても回避は絶対に必要なり。
2.回避の砲戦に及ぼす影響
(イ)傾斜により銃の旋回意のままにならず
(ロ)機銃台、特に「リノリウム」甲板は海水、油等により良く滑り操作困難なり。死傷者有りたる場合は血により特に甚だし。砂を撒けば相当有効なり。軍装の敷板には毛布等を敷くを可とす。
(ハ)弾薬箱、打殻薬莢等移動し操作に支障を来す。


第5 敵機の運動法及び之に対する攻撃法
1.急降下機
(イ)今回は来襲せる機はSB-2Cを主体とせり
(ロ)艦尾より突入し来たる者多し
(ハ)急降下前、戦闘機二機程度にて銃撃を為し対空砲火の制圧を企てるが如し
(ニ)急降下機の攻撃中各方向より戦闘機銃撃し来たり対空砲火の分散、銃員の損耗を来せり。
(ホ)晴天の時は高高度より順撃し来たるも、雲低きときは各方向より不規則に攻撃し来たれり。
(ヘ)雲(?)太陽方向を極度に利用す
(ト)艦爆対は艦隊周囲にて十分偵察を行ない、攻撃目標の天象地象上有利なる点、対空砲か発揮上の不利なる方面、安全に避退し得る方面等の見定め最も都合良き場所より突入す。(チ)他に行く風をして、突然反転攻撃し来たれるものあり。
(リ)爆弾投下後は20度くらいの引起こし角にて頭上を通過するも極どき反転を行ない海面すれすれに避退するもの少なからず
(ヌ)避退の際は巧妙なる波状運動を行なう。
(ル)爆弾を有せざる来にして擬襲を行ないしものあり。
(ヲ)急降下にして銃撃しつつ降下し来たれる機少なからず。
(ワ)雲低き時は上空より見当を付けて降下するものの如く本艦正横1000m高度500m付近に雲中より突然降下し来たれる機2機はその場より変針正横より緩降下爆撃を為せり。
(カ)輪型陣にて航行中は主として大型戦艦を攻撃するも、落伍艦或いは隊列を離れたる艦等に対しては執拗に攻撃を企てる。
(ヨ)1っかいの急降下には2乃至3機宛て来襲せるもの多かりき。
(タ)急降下機の急降下に移らんとする際、反引き起こしの際は特?の発動機或いは噴進装置を以て速力???????????の如し突入前煙を発せるもの及び日本機には到底為し得ざるが如き特殊の引き起こしを行ないしものあり。
2.対急降下機攻撃法
(イ)多数の機銃により、濃密なる弾幕の形成精密なる照準。
(ロ)急降下の突入線上3000~4000m付近に常時三式弾の如きものを炸裂せしむる如くす。
(ハ)凧、空中機雷、捕獲網、気球。
(ニ)銃撃にて制圧を受け、怯みを生ぜし者少なからざるに付、銃員の防御、特に車種の防御を十分に為し得れば装甲板の中より目だけを出して照準せしむれば、如何なる者も落ちつきて射撃し得るものと思考す。
(ホ)機銃員は全ての?力の練成不?不屈の信念の錬成
現在の機銃を以てしても銃員が大?に精密に照準を為し弾着を確認して修正を誤らざる時は十分撃墜しうるものと信ず
3.雷撃機
(イ)今回雷撃機を射撃せる機銃殆どなし。
(ロ)緩降下にて雷撃し来たるものあるも水面すれすれに来たるもの多し。
(ハ)避退の際は高度10m以下にて一目散に避退するものと、30m及び50m付近で波状運動を為しつつ避退するものあり。
(ニ)波状運動は左右50m及び100m上下20~30mの間を木の葉状に運動す。
4.銃撃機
(イ)概ね30度付近の緩降下を行なうも急降下し来たるもの少なからず(急降下機の先頭に立ち銃撃し来たる)
(ロ)銃撃は主として戦闘機(F6F)行ないたるも、急降下機の銃撃せるもの相当有り。
(ハ)銃撃機は早期に攻撃態勢をとらば突然急????ひ攻撃し来たるものあり。
(ニ)雲の上より銃撃し姿を見せざりし事あり(雲高100m)
(ホ)銃火の指向は主として艦橋及び機銃台に向けたるが如し

第2章 対空見張り警戒及び休養
第1 対空見張
1.今回敵機の来襲状況より見たる要注意方向及び銃員の見張り法、報告法その他一般所見
(イ)直上、雲の切れ間太陽方向風上に注意し、受け持ち見張区域を完全に見張ること。
(ロ)電探にて探知せる目標を速やかに銃側に伝うるは銃員の警戒心を向上せしむるに役立つ。
(ハ)他艦の被害運動等の戦況に気をとられがちなる者多く、又一機発見すれば他の者も一斉にそれを見て注意をおろそかにする者ある故、監督を厳にする要あり。
(ニ)発見せば指で示し「彼の機」と大声にて怒鳴れば概ね通ず。
(ホ)射撃中は指揮官伝令の他に兼務見張員(指揮官補助員)をして新目標を見張あらしむる要あり。
(ヘ)硝煙中、スコール中の見張りは是非飛行眼鏡を必要とす。右の如き時には目を開きて見ること至難なり。
(ト)奇襲の予防は銃側の徹底せる見張りにあり。銃側の専任者は大に督励にて見晴らしむる要あり。
第2 休養
1.警戒中の休養法
(イ)半数宛坐らして見張らしたるは極めて効果有り。
(ロ)色眼鏡を各自に携帯せしめ洗眼薬等の準備する要あり。又、冷却水を?に配給するを可とす。眼を痛めたる者少なからず日射病に対しても注意を要す。
2.戦闘配食
(イ)今回は極めて不十分にして一日乾パン2枚程度しか食せざる群あり。銃員は配置を離し得ざりし為なり。あらかじめ十分準備を要す。
(ロ)飲料水不足せり戦闘後は水分を最も欲するを以てサイダー、冷却水の配給は極めて必要なり。
3.士気の振作法
(イ)防空指揮所より5分おきくらいに「上空をしっかり見張れ」「機銃員頑張れ」「闘いはこれからだ」等激励の言葉を贈り樽は銃員をして大いに元気づけしめたり。
(ロ)味方の戦果を報ず
(ハ)下士官、銃長は率先気を引き立てしむ。
第3章 操法一般
1.照準法
(イ)敵機は攻撃下沈着に精密なる照準を行なうは大いに?力を必要とす。
(ロ)態勢による照星点変更を十分演練する要あり。
(ハ)?装銃の射旋の連絡は伝声管を利用するも相当困難にして目標捕捉に迅速を欠きたり射手側に於いて旋回の修正旋回手側にて俯仰の修正を為し得るや如き装置を設くるを要す。
2.装填法
(イ)今回は装填法に関し錯誤を生ぜざりしも、銃尾銃員の姿勢は被害防止上極力低き姿勢をとるらしむるを可とす

第4章 兵器弾薬
第1 兵器
1.最も多かりし兵器の故障
(イ)打針、殻抜、殻蹴、発条類の折損
(ロ)尾栓の毀損
(ハ)閃光覆いの亀裂
(ニ)留線、螺子の離脱
(ホ)環型照準器の毀損
(ヘ)軍装機銃の薬莢受け用帆布(射手にて膝を痛めし者あり)
2.故障防止法
(イ)日頃の整備良き機銃は故障なし。25mm機銃そのものは極めて信頼性大なるも十分なる手入れは必要なり。
(ロ)射撃の合間には重心冷却各部注油を励行す。
(ハ)螺子類を確実に螺入しおくこと
(ニ)軍装機銃薬莢受は一部金属製(ゴム板を張る)に改むる要あり。
3.不足を感じたる補用品或いは用具
(イ)殻抜及び殻抜発条
(ロ)閃光覆
(ハ)後?留栓
(ニ)ガス管及び?覆
(ホ)閃光覆回螺器
(ヘ)自在回螺器、割回螺器
第2 弾薬
1.銃側準備弾薬
(イ)状況に依るも1銃600発を最小限とす
(ロ)弾倉の数も少なく今回は出来うる限り木箱のまま銃側に揚げ置き弾倉の空き次第応急員整備員等の手を借り充填したるは大に有効なりき
(ハ)木箱はすでに適当なる割合に曳光弾及び通常弾の混合し置き無意識に充填するも可なるがごとく為し置くべし。
(ニ)機銃員は間断なき対空戦闘対空警戒のため、弾薬補給の余裕なきを以て、1銃につき2名の弾薬供給員を必要とす。
2.弾庫
(イ)戦闘中弾庫より運弾するは至難なり。特に今回の如く終日間断なき攻撃を受けたる際は到底揚弾の暇なく応急員等により辛うじて揚げたるほか、すきを見て僅かずつ揚げたるに過ぎず。少なくとも1日の戦闘に日露応なる分だけは付近に揚げおくを要す。
(ロ)今回の苦しき状況に鑑み、1銃につき1600~2000発の弾薬と之が格納に要する弾薬庫(40000発くらい入る)或いは応急弾薬格納所を後部に新設するを要す。なお弾庫銃側間の運弾員として40名程度の人員をあらかじめ定め置くを要す。
3.打殻薬莢空弾倉の処理
(イ)打殻薬莢の処理は困難ならず射撃の合間毎に機を見て処理するを要す。
(ロ)付近の流し場、空箱衣嚢マンドレットの間等に入れたるも南京袋等を用意しおくを便とす。
(ハ)空弾倉、空弾薬包箱の取り扱いに注意を要す。今回弾倉の棄損亡失105個。特に後部甲板は海水飛沫により発生しやすく戦闘終了後整理に2日間を要せり。

第5章 防御
第1 防弾装置
(イ)今回実施せる如く上甲板手すりに鉄板を取り付けるは有効なり。
(ロ)銃撃による戦死傷者極めて多く銃側機銃弾の誘爆に箇所ありたり。機銃弾は7.7ないし13㎜程度のものにして炸裂せざるもの多く貫通力大なり。
(ハ)防弾版は衣嚢マントレットは極めて有効なり。円材厚板も相当に有効なり。材料場所許す限り徹底的に装備するを要す。前後甲板の機銃等は相当の高さに土嚢(衣嚢にても可)を環にし被害局限に努るを要す。
(ニ)防弾衣は背面及び脚部をも覆うものたるを要す。今回の戦闘において脚部の負傷おおかりき。
(ホ)機銃員はなるべく目立たざる服装(白の事業服等は不可)を為し極力低き姿勢をとらむべし。
(ヘ)前部機銃爆弾にて死傷者出でし際も姿勢の高き者ほど重傷にして、負傷者の傷も殆ど腰部以上なり。咄嗟の判断による他、物の利用伏せ等は効果極めて大なり。
(ト)機銃弾の誘爆は少量の水にて消火し得たり。銃側には十分なる応急用水を準備すると共に応急弾薬包箱、弾薬集積所には防弾装置を施す要あり。
(チ)弾倉は出来うる限り弾箱に入れたるまま準備し、弾倉底部を外方に向けたる方が被害防止に有効なり。
(リ)一群機銃にて重厚前の波よけを射撃せし例あり。防弾板の設置に関しても注意を要する他、射界制限は全てに設くる要あり。
第2 戦闘服装
(イ)防弾衣の完全なる配給と背部脚部の防護
(ロ)清潔なる肌着の着用
(ハ)止血棒は1人に付2本潤部せしむるを可とす。救急嚢の数も不足なり。
(ニ)軍装機銃射手は軍靴より艦内靴の方が便なり研究を要す。
第3 被弾時の処置
1.傷者戦死者の処置
(イ)傷者に必要以上の者集まる傾向あり
(ロ)応急員または兼務員の協力極めて有効なり
(ハ)戦死と認めたる時は戦闘の支障とならざる所に片付けて戦闘継続を第一と為す。
(ニ)傷者は出来うる限り自分で処置を為し、他に迷惑を及ぼさざる如くす。
(ホ)負傷の処置法に関し今だ徹底を欠く。わずかの擦り傷に止血棒をギリギリ使用し居りたる者あり。
(ヘ)減員に対する人員の補充に関してはあらかじめ十分考慮し置く要あり。今次戦闘に愛宕の機銃員は大いに役立ちたり。
2.銃側の整理
(イ)被害を受けたる時は茫然自失する事多きを以て先任者は大声叱呼督励して迅速に処理し次回戦闘に直ちに応じ得る如き準備を為すを要す。

第6章 配員 訓練法
第1 配員
(イ)本艦には?装銃に長の配員なきも絶対に必要とす。
(ロ)増備機銃に対する増員は殆ど補充兵にして気力体力現役兵に比し極めて劣れり。機銃員には特に?力大にして、気力体力旺盛なる者を必要とするを以て考慮の余地有り。
(ハ)指揮官側にて見張りを為す補助員必要なり。
(ニ)軍装機銃射手には寧ろ?太き位の服延の下士官あたりを配するの要あり。
(ホ)人員弾薬の補充融通を行なう為、機銃砲台下士官を必要とす。
(ヘ)各群には必ず准士官以上の指揮官として配する要あり。
(ト)弾薬供給員1銃につき2名は必要なり。
第2 訓練法
(イ)基本操法の徹底(特に応急処置法)
(ロ)精神訓育の実施
(ヘ)武技体技により体力及び不?不屈の信念を錬成す。

第7章 其の他一般所見
1.機銃の増備は緊要なるも現在の機銃はあまりにも多数の人員を必要とする為、被害時の人員は損傷又少なからざるべし。給弾装置の改善により少数の配員を以て可能なる機銃を試作する要あり。
2.急降下射撃の際、射撃効果を最も発揮し得る付近に於いて1弾倉を撃ち尽くし弾倉交換を行なうこと多きに鑑み、糾弾装置の改善、取り敢えず1弾倉に25発程度充填可能の者に改むるを要す。
3.機銃弾初速の増大、ロケット弾等の利用、著火性の威力増進、曳光視認可能距離延伸絶対に必要とす。
4.機銃の戦闘は正に白兵戦なり。敵機機銃掃射中にあって至近弾による海水を浴びつつ傍らに目も振らず戦闘に従事する機銃員は実に頼もしく本艦の被害僅少なりしも機銃員の奮闘に依る所大なりと思考する次第なり。
5。対急降下機照準に便なる25mm機銃用新式照準器の出現を熱望す。
(終)
※以下、戦闘中の航路、被害状況のイラスト。

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