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太平洋戦争 戦訓1

戦訓並びに所見 昭和19年5月10日 第732海軍航空隊

戦闘詳報第9号(Z1作戦)別冊
第8類の部

1.洋上哨戒索敵に充当すべき飛行機に関して

4月20日より「ビアク」島の基地より一式陸攻撃十一型及び十二型を以って西部「ニューギニア」北方海面「ニニゴ」諸島方面に対する洋上哨戒を実施した。「ニニゴ」諸島は敵の手に落ち、既に航空基地が完成した公算が大きい。そのため、哨戒線は40~50海里以上離している。
最初は超低空哨戒を実施したが、21日及び22日に各1機未帰還機が出た。敵戦闘機と交戦した公算が最も大きい。
他の方面の哨戒においても、一式陸攻哨戒機に未帰還となるものが続出している。
推測するに、敵戦闘機は我が超低空哨戒を看破し、遠くの敵機動部隊等も視界外において迎撃する手段を持っていると推定される。
このため、敵を発見する前に攻撃を受けた機で、敵発見を報告する機はほとんどない。
そのため、23日からは高高度もしくは雲を利用する方法をとったが、、その後、27日までの間に1機(26日)未帰還機が出た。
敵は艦上、地上、及び機上レーダーを活用して我が哨戒機を迎撃している公算が大きい。
この対策としては、速やかに次の方策を実施する必要がある。

(1)有効かつ確実に動作するレーダーを哨戒機に装備し、雲がある場合においても7000m以上の高高度から水上の艦船に対してはレーダーにより、敵機に対しては目視により警戒するか、反対に雲の下を飛行し、敵艦船は目視により、敵機に対してはレーダーにより警戒する方法をとる必要がある。
このためには、これに適するレーダーの装備を必要とし、数も陸攻隊の半数以上の機数に装備する必要がある。(夜間攻撃隊、照明隊、触接隊には絶対にレーダーが必要であり、その他にも哨戒機全機に装備する必要がある)

(2)レーダー警戒器及び妨害器を至急製作して哨戒機に装備し、敵のレーダーを利用した迎撃手段を封ずる必要がある。

(3)哨戒機には敵戦闘機から逃げることができる高速で軽快な機種を充当する。

(4)哨戒機には敵戦闘機に対して対抗できる武装及び防御を施す。


2.機上レーダー関係の急速整備に関して

今季作戦中、「ニューギニア」北方洋上の敵機動部隊に対して、3回、夜間の照明による雷撃を行ったが、最後の1回の他は失敗した。最後もスコールの中で敵の灯火によって発見した状況である。
敵を発見できない原因は、艦船を目標とする訓練の機会がただ1回(成功)のため、乗員の未熟による可能性もあるが、最大の原因は攻撃隊(照明隊)が敵部隊を補足できず困り、日没過ぎに敵を補足するために触接隊(2機)を出したが、レーダーを搭載していないため、夜になり暗くなるに伴い、敵上空付近に位置して接触を続けて照明弾の投下等によって敵の位置を示す必要があったが、この間に敵戦闘機または防御砲火のために撃墜され未帰還となった。
(帰還した機は、索敵のため進んだものの敵を発見できなかったか、無線等の故障のために触接機の役目を果たせなかった)
常に部隊が使用できるレーダーは旧式の物(前方しか測定できない)2機のみのため、照明並びに攻撃運動のために攻撃隊及び照明隊の各指揮官機に充当している。
敵はこちらにレーダーがないとわかると、夜は微速または停止することで(波を立てないようにして)視認による発見を逃れている。そのため、優良なレーダーがなくては触接を持続することは極めて難しく敵の上空付近に居る必要があるため、敵の夜間戦闘機または防御砲火の攻撃で撃墜され易い。現在は1機の搭乗員数を減らして敵戦闘機の見張りに従事できる者は1、2名のため、視界が良くない一式陸攻での任務中は敵機の奇襲を受ける公算が大きい。前述の実状に鑑みて、夜間攻撃隊には次のような電波兵器を装備することが絶対に必要である。

(1)レーダー
所要性能
 測定可能距離 2km~100km以上
 測距精度 10%以内 20km以内においては5%以内
 測定不能区域 近距離においては極力少ないこと
 特定方向 正面及び横方向、なるべく半円周全部を機種を振らずに測定可能なこと
 方向測定精度 3度以内

敵味方のレーダーもしくは妨害機の干渉及び妨害を回避できること(波長の範囲が広く変更可能なこと)

(2)電波警戒器(逆探)
敵艦及び敵機からのレーダーを探知できること(その波長が測定できるならば前項のレーダーと兼用できること)

(3)電波妨害器
敵艦及び敵機のレーダーを妨害し、測定不可能にさせること。

なお、可能であれば敵艦の形状(即ち艦型、針路等の概要)を判別できる装置が欲しい。もしそれができれば夜の無照明での雷撃や爆撃が実施できるので、この種の兵器の研究を進める必要がある。
電波兵器の整備と平行して、優秀な機上レーダー操作員及び地上整備員の大量要請が必要である。


3.前線航空基地整備に関して

今回、短期間で「ニューギニア」西部方面の基地を使用して作戦を実施したところ、その基地施設と兵器が完備していないために敵の奇襲攻撃によりその被害が大きく、我が方は作戦実施ができないばかりでなく、(基地の位置を発信する機材がないので)天候不良の場合に基地が発見できず帰投が困難となり多数の未帰還機が発生している。
誠に遺憾ながら、これまで敗退が続いていることもあり、敵の空襲が激化すると直ぐに浮き足立つ状況は憂慮に堪えない。

(1)西部「ニューギニア」方面展開の指令を受けて基地を調査したところ、陸軍基地を含めて幾十もの基地があるものの一つとして陸攻の作戦基地に適するところがなく呆然とせざるを得ない。
戦機が切迫しているにもかかわらず、大きな基地群を設営するという計画を漫然と継続し、兵力や兵器、労力、資材を分散しており、どの基地も設備が完備していないため作戦の役に立たない。
計画が雄大なのはいいが、実施するにあたっては戦局を考慮して、陸海軍を統制して速やかに労力と資材を集中させ、使用可能な程度に整備した後に他の地域にも広げるような工夫が必要である。
そうでなければ、我々が使用できない基地を敵のために造成し提供し、敵の進撃作戦を楽にするために我が労力や資材を使う結果になる。

(2)見張りと通信網が完備していない上、飛行場で直接見張る要因も不足しているため、進出直後に「ビアク」「ソロン」共に敵の奇襲を受けた。特に「ビアク」基地はレーダーがないために悪戦苦闘を繰り返し、戦闘機の迎撃での戦果もなかった。その間に甚大な意味のない犠牲や損害が発生した。

(3)「ビアク」基地には防空壕がほとんどないため、最初に奇襲を受けた際に多数の死傷者が発生し(航空部隊だけは作戦の合間を縫って急速に応急的な防空壕を作ったため損害は少なかった)、陸海軍各部隊はパニックを起こして飛行機を見たり爆音(実はトラック)を聞けば昼となく夜となく勝手にドラム缶を叩いて避難してしまうようになっている。

(4)滑走路の被弾の修理を迅速に行うための準備が必要である。「ソロン」基地では前述のとおり敵機の奇襲を受けた際に滑走路に爆弾が3個命中し、1個は中央、2個は中央から少し離れた場所であった。十一時頃に爆撃を受けたが、ローラーはなくその補修のための車両や器具人員が少ないため、14時までに中央1個の補修の見込みが立たず、この日の敵機動部隊の夜間攻撃は中止となった。また他の2ヶ所も翌日午後まで補修されず、(この爆撃跡の)位置表示の不良と相まって発着時に戦闘機2機と陸攻1機が大破してしまった。

(5)夜間攻撃を主とする陸攻等が使用する基地は、夜間の基地表示施設や探照灯、発電機等が必要である。
我が部隊(梅田部隊を含む)は今回3回に渡る夜間攻撃においては次の未帰還、不時着機が発生した。(敵機による被害機も若干あるかもしれない)

 4月23日 5機
 4月24日 6機
 4月27日 3機

いずれも天候は良好の見込みで出発したが、夜間に帰投した際に途中もしくは基地付近で天候不良となり、基地に帰投できずあるいは基地上空付近までは帰投したものの、探照灯も障害灯もなく、飛行場を示す着陸灯は発電機故障のために消灯していた。カンテラのみでは豪雨のために消えてしまったり消えそうな者があり、飛行場が視認できずに付近の山に衝突したり海上その他に不時着するなど、天候不良と施設の未完備のため多数の未帰還機、激突機、不時着機が発生し、残念なことに能力のある搭乗員を失ったのは痛恨である。

(6)通信施設や電源の不備のため、「ビアク」「ソロン」両基地共に作戦通信が思うようにできず、数時間から十数時間の通信途絶が発生しただけでなく、重要な通信の未達や遅延が発生した。
攻撃隊に対する通信不能となったのは残念であり、この様な状況で天候不純の季節に、敵情を把握せずに無線での地上指揮に頼って夜間攻撃隊を出すべきではない状況では円滑な作戦実施はできず、不安と憤懣と禁じ得ない。

(7)航空作戦の円滑な実施、特に進行退却の機動力を発揮する為には前述の諸施設の完備はもとより燃料の補給、魚雷や弾薬の搭載に使う装置や車両等の備え付けが必要である。
当初、飛行機隊が「ソロン」に進出した際に間もなく敵情が分かって、搭乗員、整備委員はもとより少数ながら陸海軍部隊の助けを得て全力で燃料搭載に努めたが、燃料車はなく、炎天下で手動(ポンプ)で行ったため夕刻近くまでかかり天候不良と相まって攻撃を取りやめた。攻撃当日も敵空襲を回避して着陸と同時に搭乗員も裸で燃料を搭載、直ちに夜間攻撃に出発した。しかも車両がないために広大な地域に分散している飛行機との間の往復、所要の場合の急速集合など伝令も足で走るしかなく迅速にいかず、多くの時間と疲労とをいたずらに搭乗員に与え、空襲警報による急速退避に関しては時期を失することが多い。
魚雷運搬車がないために魚雷を消費するまでは逃避にも移動にも、常時魚雷を搭載したままのため、被害を局限化や機材の防護上の不都合が大きく、「ビアク」に於いては敵弾のため搭載魚雷も爆発し、人的物的被害が増大した。

(終)

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