太平洋戦争 戦訓3 比島沖海戦砲術戦訓 軍艦利根1/3
比島沖海戦砲術戦訓 軍艦利根1/3
昭和19年10月
比島沖海戦砲術戦訓
軍艦利根
目次
第1編 主砲の部
第1章 水上戦闘
第2章 対空戦闘
第3章 電探関係
第4章 電路関係
第5章 一般
第2編 高角砲の部
第1章 対空射撃一般
第2章 対空見張警戒及び休養
第3章 操法一般
第4章 兵器給弾薬
第5章 防御
第6章 配員訓練
第7章 一般所見
第3編 機銃の部
同上
第1編 主砲の部
第1章 水上戦闘
1.射撃一般
(イ)敵は煙幕をきわめて有効に使用し(空母遮蔽のためと思考せらる)終始遁走に努め射弾3から4斉射にて大回避をなす。然して回避方向は外方大角度転舵多し。
(ロ)対空戦闘下の水上砲戦にして目標多数有り煙幕のため視界不良にて測的はほとんどが不可能にして、測距のみ利用せる乱戦に近き状態にて射撃を行いたるも射距離おおむね15000mいないなれば目測諸元にて十分間に合うことを体験せり。
(ハ)今回は変距射法を適用せるも至近距離にして弾着距間観測容易測的精度不良なる場合は自変距射法の適用せばなお一段と効果有りと思考す。
(二)目測的測おおむね20から24節を使用瀬下笛頭大して切れず蓋し砲戦は近迫猛撃をもっとも有利とす。
(ホ)敵は中口径弾に着色弾を使用しあり
(ヘ)利根が他方千四節においては測的部を射撃指揮官の直接指揮下にはいるるを便とす。乱戦時において測的射撃目標不一致を度々生ぜり
2.兵器設備
(イ)九三式測的盤は利用価値少し。将来測的は九二式盤改一式の連続経過描画式を有利とす
(ロ)測距儀は可及的「ステレオインベルト」となすを要す。敵煙幕利用により測距精度著しく不良となる
(ハ)航空母艦は良好なる測距点を得がたし概ね艦首波切線を測距瀬下自艦動揺等にて測距速度非常に小となれり
(ニ)「スコール」海水飛沫砲煙等にて測距儀鏡面濡れること多し清い拭き布を多数用意するを要す
(ホ)砲塔測距儀は最大戦速変針等にて旋回重く操作困難となる.今後改造を要するものと認む
(へ)現九二式改一盤付属の測距平均器は発熱大にして長時間の使用により追尾手輪の旋回重くなる傾向あり熱の発散方法に関し改善のよう有と認む
(ト)従来の敵針測定法中敵長視角より計出する方法(甲法)は現在においてはほとんど利用し得ず。艦種が巡洋艦なるか駆逐艦なるかの判断すら困難を感ずるほどなり。ただし敵傾角小鳴るとき目測傾角及び視円より敵長を逆算し爾後の射撃に利用するは有効なり
(チ)24日より3日間はほとんど配置に就いたため気象員は見張りに流用せられし為に測風は不可能の状態にて24日早朝一度測ったのみにて25日の水上戦闘には海面風を用いし現状なり。訓練の際測風するも実際の場合利用できざるにおいては気象班の存する価値極めて少し総員配置時にも測風可能の如く航海課にて配慮を要す高層気温測定可能なる如く「ラヂオゾンデ」の設備を希望す
第2章 対空戦闘(主砲射撃指揮幹部測的関係)
1.射撃一般
(イ)軽快なる敵艦上機に対する主砲対空射撃は指揮官の全量による威嚇弾幕射撃を最も有利とす。射撃距離は従来爆風の影響等により高角砲機銃の有効射程外との観念濃厚なりしも現設備を以てしては遠距離射撃の精度不良にして徒に段役の浪費するのみにて効果少なし。今次戦闘においてはむしろ至近距離2000ないし4000mの攻撃し来たる敵に対し射撃し、敵の爆撃を不徹底に終わらしめ得たり。故に主砲が射撃を行わざりし時敵は勇敢に突入し来たり至近弾を宇来ること2回に及べり。
(ロ)指揮官の目標指示は発令所放題に徹底するの要無し、急を要する対空射撃においていちいち目標を口達するは不必要にして指揮官は常に盤を目標に指向し砲台は「盤に尾け」の令にて常に盤基針を照準する程度にて十分間に合うものなり。さらに対勢急激なる場合は旋回短絡斉射にて射撃速度を発揮せり
(ハ)敵艦爆戦闘機は攻撃時直進するものは殆どなく横転反転等を行いつつ肉薄し来たるを以て巧遅よりも拙速連続的なる射弾を送致するを有効と認む。これが為盤車種は引き金を引き詰めなし砲台各砲整備照準合致せば直ちに発砲するが如く為したるに恰も機関砲の如く連続発射し極めて有効なり
(ニ)急降下に対する回避は主として敵を正横に見る如くなされたるを以て砲を右前部砲群毎に両舷に分かち待機せしめ殆ど回避により射撃に支障は感じせざりき
(ホ)敵急降下爆撃は避弾運動機銃掃射を併用しつつ任意の方向より爆撃を行うあるいは横様に爆弾を投下するものあり。機銃掃射は概ね露天甲板機銃員を目標とし爆撃の目標は煙突付近を照準しあるもののごとし
2.兵器設備
(イ)射撃幹部
(1)機銃射撃騒音のため通信伝令にさえ困難を感じ足るも指揮官と指揮官伝令との間に搭乗員用伝声管を設備競るため極めて円滑に通達せり
(2)対空弾は三式弾に統一するを要す対空射撃においては各砲の出弾率著しく相違しついに同一斉射に三式弾と零式弾を混用やむなきに至れり。照尺角信管共に相当差異ありて極めて不利有り
(ロ)測的部
(1)砲塔測距儀は旋回7度にていっぱいとなり、対空射撃にて左右苗頭120以上となれば使用不能且つ仰角範囲小にして殆ど有効なる測距を為し得ざりき
(2)上部6m測距儀はその旋回により防空指揮所の対空射撃指揮を阻害するを以てついに使用を停止し、測距員は急降下見張りを為したるに極めて有効なりき
(3)南洋方面は天候良好なる場合小型機に手も分像合致式測距儀にて30000m付近の測距可能なり
(4)測距砲塔上に25っm機銃を装備したるに操音のため、測手伝令間の通話及び一般通信連絡に極めて不便を感じたり。装備に当たりて注意を要す。
(5)九三式8m測距儀において測距発信器に至る連接棒の結合螺子激動により脱落せり。この部分を強固にするを要す。
(6)主砲といえども対空射撃用「ステレオ」式計敏なる測距儀1基を装備せば,「指揮官目測補助弾幕射撃開始時期の決定等に極めて有効なりと思考す。
(7)至近弾等総統に激動ありたるも測距儀変調せず特に?1,5m測距儀は約1mの隔てられたるところに30kg爆弾1命中せるも全然故障せざりき
第3章 電測関係
1.電波哨戒に関する事項
空襲の恐れ少なき場合、対潜警戒の至厳ならしむべき海面において夜間対空哨戒用電波を輻射するはその効果?きのみならず、対潜警戒上極めて危険なることと思考す。敵との距離及び状況を考慮して適切なる時機に適当なる電波哨戒を実施するは極めて大切なることと思考す
2.一号電波探信儀三型(十三号)の増備に関する事項
対空哨戒における十三号電探優秀性は前回の「あ」号作戦並びに今回の捷号作戦において遺憾なく発揮せられたり。而して二十一号電探は今次殆ど使用目的を達せずその能力は今や行き詰まり状態にありと認るを以てこの際二十一号を撤去し、性能確実なる十三号電探を増備せば対空見張り力の一段と強化し得るものと信ず。なお電波哨戒緊急配備中、終日一基にて哨戒にあたるは兵器に相当の無理を及ぼす見地よりしても是非十三号電探増備の必要ありと認む
3.十三号電探室と環境管に応急用の伝声管を設置したるに極めて有効なりき。戦闘中電話の故障は??起するを以て、相当長さを要すといえども是非設置の要ありと認。視覚通信等の応急処置考えらるるも緊急の場合間に合わず
4.10月19に日0300頃より約30分間121.5mc及び94mcを探知せり。音色「ピー」音にして約5分間隔に感度有り。当時電波哨戒第二警戒配備中にして夜間の電波輻射は禁ぜられありたるを以て、この電波は敵潜水艦電波の算大なり。
5.二十一号の電源と二十二号の電源とをいずれの電探にも切換え得るごとく応急工作を施したるは極めて有効なりと認む。即ち対空警戒中は二十二号を使用せざるを以てその電源を二十一号のものと交互に使用し以て発電機の寿命の永続を計りえたり。
6.発砲激動及び管の振動の影響に関する事項
(イ)不具合なりし?
(1)十三号
1.送信機過負荷継電器作動し各機の電源「ヒューズ」溶断連続測定困難
2.受信機電源整流器電源平滑用蓄電池短絡
3.指示装置「ブラウン」管掃線用消去用陰極連結蓄電器短絡
(2)二十二号
1.配電箱溶接部脱落(溶接によらず「ボルト」締めを可とす)
2.磁電管翼?電圧計短絡
3.電池格納箱の棚陥落
4.各機器謹呈要止め螺子殆ど全部弛緩
5.調整に?困難を感ず
6.位相の変化大にして測距員は基点調整に大?なりき
(3)二十一号
受信機電源整流器用真空管「ソケット」より脱出し一時作動不能となれり
(ロ)対策
(1)十三号及び二十二号電探室に二十一号電探室の如く堅固ならしむ
(2)重要且つ故障しやすき兵器は十分なる緩衝「ゴム」を施し四方より左図の如く「スクリュー」にて緊張す
(3)隔壁に装備せる機器は可及的机上装備に変更す
(4)電探室を密閉可能なる如く改造す
(5)電池格納室は棚式のものはその重量に耐ええる如く堅牢にするを要す
7.爆風及び艦の傾斜により二十二号電探室の扉外方に吸引せられ一個の「ケ?チ」にては支え得られず針金にて縛着せり。防水扉蓋の如く堅牢なるものに改造するを要す。
第4章 電路関係
1.被害電路応急処置に際して迅速確実を期する為、二心以上の電線は内部被服に必ず色別もしくは符号を付し判別を用意ならしむるを要す。大東亜戦争後新設の装電線に色別なきもの多し
2.探照灯各種重要照明灯電路付近には必ず応急用線を準備し置くを要す。今次戦闘においては出撃前探照灯応急線を受け入れありたる為三灯被害中二灯?応急修理を実施得たり
3.配線室の通風は十分考慮するを要すると共に、不要電路は通報により可及的断となし置くを要す。これ熱発生防止被害極減に利あるを以てなり。
第5章 主砲射撃関係員一般戦訓
1.防弾に関する事項
(イ)露天甲板以上に配置あるものは可及的防弾「チョッキ」を装備せしむるは精神的にも極めて必要あり
(ロ)「マンドレット」は吊り床衣嚢を最良とす柔道畳はあまり効果ならず
(ハ)探照灯は昼間は信号用灯扉を附しおくを可とす
(ニ)「マンドレット」には対空戦闘と同時に散水しおき効果あり
(ホ)敵機の十ミリ徹甲弾は防空指揮所若しくは射撃塔の装甲板を貫通せり
2.通風に関する事項
(イ)主砲発令所は激動のため吸気通風弁故障し対空戦闘の合間における吸気極めて弱く空気汚濁せり通風弁等は強固にして操作簡単なるものたるを要す
(ロ)砲塔測距儀は戦闘中通風停止と共に接眼鏡に曇りを生じ二分間に一回程度拭くを要したり。これが防止策として防毒面用防曇剤を少量塗布せるに極めて有効なりき
(ハ)各配線室は通風装置不完全なる為、温度上昇し連続三名熱射病にて戦闘不能となれり。速やかに改善を要す。
3.精神的事項
(イ)水上戦闘は射撃関係員総員満々たる自信を持って??且つその実力において雲泥の差あるを痛感せり
(ロ)対空戦闘においては至近弾或いは直撃弾にて艦の動揺激しく外界の見えざる砲塔発令所員等は被害を過大に感ずる傾向ありこの際指揮官より状況通報は大いに士気振作に役立ちたり
(ハ)戦況等の刻々各部に通報するは??味方被害に関する事項にしても多いに士気に振興に役立つものなり。戦闘の推移が不明なるほど不安なる気分はなしと意見多数有り
(ニ)応急飲料水は今回十分用意せしつもりなりしも、、連続の空襲にてなお不足を来たせり。応急糧食は甘きものよりも辛きものを可とす
(ホ)出撃前各種応急線通信連絡用具等多数準備せしに関係各員戦闘中も極めて心強く感じたりと?し気づきてでき得ることは小なりともなしおくべきなり。
(へ)近距離の伝声管は極めて有効なるも遠距離のものは対空戦闘中は殆ど聞こえず
(ト)耳綿頬被は有効なり
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