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太平洋戦争 戦訓3 比島沖海戦砲術戦訓軍艦利根 2/3

第2編 高角砲の部
第1章 対空射撃一般
第1 砲戦指揮
今回の対空戦闘は主として対急降下射撃なると弾薬節約のため自艦に突っ込む飛行機のみを射撃せる為、概ね射撃式の独立指揮に終始せり
1.電探及び見張り員の目標発見早く20000m以上にて目標を確認せる為、艦爆隊(急降下前)に対する射撃は「方向盤」の指示により余裕ある射撃を行い得たり。
2.目標数群に分かるる時は、自艦に突入を想像さるる群れを迅速なお適格にに判断し射撃開始を遅らせらざるを要す。而して射撃指揮官は突入する飛行機の見張りをなすを以て射撃指揮官の傍らに指揮官付としてっみは利を行う者を置くか、高射指揮官付として防空指揮所に准士官以上を置き、適切なる目標指示せしむるを要す。目標の迅速適格なる指示は水平飛行をなすものは方向盤にて、急降下或いは雷撃機は指示棒に依るを最良と認む然れども急降下は射撃関係員自ら視認せざれば目標捕捉迅速ならずまた照準望遠鏡は間に合わず。本艦においては、?製の直接照準器を使用し目標捕捉並びに初弾発砲は迅速なりしも大転舵あるいは振動のため精度良好ならず。精度良好にして堅牢なる直接照準器を必要とす。
3.砲火指向法
敵は概ね急降下を主とし、急降下/雷撃機同時及び急降下/銃撃同時ありたり
(イ)雷撃機は今回は好射点に於いて投下せるものを見ず、急降下に対し射撃中来週或いは数隻の艦より射撃され僻退するごとき態勢のもの多く、思いの他射撃せず急降下?射撃せり
(ロ)25日麻の先頭に置いては銃撃(戦闘機または艦爆による)直後急降下爆撃機突入するを例とせり高角砲に於いてはいずれも射撃せり

第2 射撃指揮一般
1.射撃開始時期
(イ)突入後の急降下に対しては目標下令と同時に「急射」を令し目標捕捉と同時またはその方向に向きたる時引き金を引かしむ
(ロ)向首または横過(近態勢)目標に対しては測距130乃至100時「打ち方始め」を令するも測距状況良好にして弾着良好ならば遅きに失することなし
(ハ)突入するを認めば、なるべき速やかに弾丸を出すに努むるを要す。
敵機爆弾投下までに三斉射以上の射撃を送るかなわざりし場合は敵の弾着略精度良好となり三斉射以上射撃せる時は大偏弾または投下するを得ずして避退せり
2.射法
(イ)今回は急降下射撃を主として行ないたるも高角砲弾幕射撃は極めて効果あり。精神的脅威により敵の攻撃力を減殺せるものと確信す。
(ロ)急降下爆撃機に対しては高射器全幅利用突入を認むるや直ちに急降下射撃を行う。
突入後発見せるものに対しては初日?急降下射撃を行う。修正は概略行なうことあり(余裕ある場合)
(ハ)雷撃機に対しては一回雷撃射撃を行ないたるも射点遠く且つ避弾運動極端にして効果なし
(ニ)超低空爆撃機は首尾線方向より来り。急降下と同時来襲なるを以て発見遅れ弾幕は敵の甲法となり或いは射界制限となり効果大ならず。
(ホ)援護射撃は実施せず。その余裕なきものと認む。
(ヘ)今回の中距離(5000m~8000m)より突っ込む飛行機を見ざりしを以て全量により初弾を発射し?後高射器射法に移る方法をとらざりしも迅速なる初弾の効果より見て指揮官の全量により射撃するは極めて必要なり
(ト)弾着修正は水平爆撃機及び突入前の艦爆には可能なるも混戦に陥りたる後は殆ど不可能なり。しかして急降下射撃の際は大転舵を伴なうを以て過敏なる修正を避け専ら射撃速度の発揮を計るを必要とす

3.三式弾の使用法
(イ)混戦に陥りたる場合及び緊急射法の場合は弾丸を識別する暇なきを以て一定にするを要す
(ロ)三式弾の弾幕は極めて有効なるものと認む。水平爆撃機に対しても効果有り。

4.態勢通報
(イ)機銃と同時射撃の場合は指揮官と伝令の連絡困難なるも手先信号により訓練せば可能なり

5.追打
攻撃を終わりたるものに対しては射撃を中止せしめたり。これは弾薬の節約と次の目標に対する備えのためなり

6.筒中残弾の処置
射撃指揮官状況を考慮し状況暇なる時特令により抜かしむ。新目標ある時はこれに対し初弾(信管は前目標に対するもの)を撃つ。

第3 目標変換
連続来襲の急降下に対しては変換の暇なし

第4 急降下射撃
1.攻撃法
敵の急降下爆撃機はおおむねSB2Cにして爆弾2ないし3個を有す
高度3000ないし4000mにて編隊を組み、近接1目標12機以内にて降下。降下角度40度ないし55度の略同方向(約10度から30度の開きを有す)攻撃または1機宛の首尾方向正横よりの同時攻撃をなす
爆弾投下時の直距離は高角砲の弾幕ある場合は1500m以上にして投下されるもの多数あり1000m以内にて投下せるものは命中精度良好なり
2.射撃効果
突入前の編隊機に極めて有効にして他艦に向かうか、急降下に入りたるものも中途にて降下をやめ、或いは弾幕外(1500m)にて投弾、精度著しく不良となる。
3.迅速なる砲火指向法
射撃指揮官は高射器に目標を指示すると共に伝令は基針に就けを令す。或いは長き指揮棒にて「射」「旋」に目標指示伝令は基針に就けを令す。
第5 銃撃機射撃
急降下爆撃機より降下角度浅く雲高低き時(5000mくらい)は雲上にて銃撃避退するものあり。射撃は急降下に同じ。
第6 雷撃機射撃
大なる波状運動をなしつつ射撃を避け射撃し居らざる艦に対し雷撃(右160度)せるを認めたるほか、雷撃機を見ず。波状運動大なるため射撃効果なし
第7 通信連絡法
1.機銃射撃中は指揮官と伝令間すら通達困難にして、「射」「旋」に対する目標変換等の号令は通達せず、ゆえに手先信号シキボウの利用を図るを要す。
2.長時間の戦闘あるいは被弾時に伝令及び砲員は、??聴覚を失うことあり。
電話「ブザー」は聴取困難なるを持って号令通報器及び手先信号の熟達するを要す
第8 回避と砲戦
1.回避による大転舵のため、照準操作(旋回)及び給弾操作にさえ支障をきたすもそのほか大なる支障を感ぜず
2.発令所における左右見越し及び動揺従羅針儀追尾きわめて困難なり
3輪形陣においては回避により陣形乱れて対雷撃機射撃あるいは超低高度機に対する射撃は僚艦に危険を及ぼすことあり。

第2章 対空警戒及び休養
第1 警戒中の見張
1.高射機においては防空指揮所との伝令を指揮官付きとして指揮官のそばに立たしめ主として工法を警戒せしむ。動揺主名は頭を出し艦首方向を見張らしむ。指揮官はその他及び全般を見、主として急降下に対する見張をなす。その他の者は首を出し高度低きものを見張らしむ。
2.砲台は(2)(3)番砲手をして急降下に対する見張をなさしめたるも、戦闘長期にわたるときは甚だしく披露し、効果薄きをもって交代にて休息せしむるを可とす。
3.急降下は射撃指揮官自ら発見せざれば間に合わざるを以って高射機においては発見者の如何にかかわらず「急降下」の場合は「射」「旋」は直ちにこれに指向そのほか状況緩なるときは「飛行機」と呼び指し指揮官指向するや否や射撃開始を令す
第2 戦闘中の見張
1.戦闘中急降下射撃においては指揮官は新目標に注意す。これがため目測による射弾の修正法に完熟するを要す。
2.そのほかの場合は指揮官付きに急降下を警戒せしめ、射弾の観測修正を行う。
3.敵の攻撃終了直後は緊張緩みがちにして、敵の残存機に乗ぜらるる機会なるを以って特に見張を厳重になすを要す。「打ち方待て」後1分程度を経て不意に突入、至近弾となりたる例あり。
第3 休養
1.今回のごとき連続空襲においては見張りの休養は何れも必要なるを以って、1/2あるいは1/4宛交代にて休息せしむるを要す。
2.哨戒配備中は特に十分休み得る如く疲労回復を図るため、砂糖水等を飲ましむるを可と認む。
3.砲員は休養中といえども運弾あるいは砲尾付近の整備等にて多忙にして十分休養する時間は短しゆえに見張は高射機員を主として行い砲員はできうる限り休養せしむるを可とす

第3章 操法一般
特になし

第4章 給弾薬法
第1 砲側準備弾薬数
応急弾薬箱(一門三十五発)の他に砲側に一門三十発給薬室に一問二十発程度準備するを可とし下部揚弾口付近には出来る限り準備し砲側におは常に上記の数を備うる如くするを要す
第2 給弾薬法
1.運弾員は兼務員にて運弾速度小なり四番砲手欠員のため緊急射法の場合は著しき発射速度を減ず
2.今回のごとく水上戦闘を像期する場合は水上弾の対空団への切換は特に注意を要す而して水上戦闘の可能性なきに至れば暇を得次第対空弾に切換砲側準備弾数の低下を来たらしめざることに留意するを要す
3.打殻は運弾及び各員の操作を妨ぐること大なるをもって’集積場所方法を考えおくを要す

第5章 防御
第1 防弾装置
1.今回は機銃掃射による被害(人的物的)多く、戦力に大なる支障を生ぜり。防弾衣鉄兜は総員之を着用する必要あり。
2.「マンドレット」はできうる限り施すを可とす。特に重要部は楯または覆塔の内部にても施すを要す。
第2 防火装置
1.砲側及び待機所には応急弾薬多数あり。被弾または機銃掃射により誘爆の機会大あり故に
(イ)高角砲甲板に排水口を設けること
(ロ)砲側及び待機所には多数の防火用水を準備すること
(ハ)砲側及び待機所内に可燃物を置かざること本艦の焼釜付近には可燃物あり塵芥ありし為延焼を招き時危険な状態となれり
(ニ)火災に際し付近の者の処置は極めて重要なるを以て応急弾薬班に可燃物の処理及び消火作業は常に演練すおくを要す。
第3 被害の時の処置
1.砲側には危険物多きを以て必ず火災を生じ弾薬の誘爆を来す故にまず第一に弾薬を安全なる場所に運び消化に努む
2.負傷者ある場合、之に気をとられ防火処置を怠ることあるを以て注意を要す
3.傷者戦死者の処置
(イ)戦闘中は案外元気なるを以て応急処置をなし、戦闘一段落後応急員或いは軽傷者その他の者にて治療室に運ばしめたり
(ロ)被弾時は同一箇所にて多数負傷する場合多きを以て、包帯多数準備の要あり
(ハ)戦死者運搬の際は毛布を利用之にくるみて運ばば便なり
(ニ)戦死負傷者相次ぐ時は指揮官は部下を激励士気の向上を図るを要す又負傷者の手当に追われ、次回の戦闘の準備を忘るる者あるっを以て敵機尚存在するときは部下をして注意を喚起せしめる必要あり。
第4 戦闘服装
(イ)戦闘服装は火炎に対し極めて有効なるも一般に薄着の傾向あり。操作に不便のため手袋を着せず手に負傷せる者あり。なるべく露出部及び爆風火炎の侵入する箇所を少ならしむるを要す。
(ロ)応急弾薬の誘爆に依る火炎により後頭部、首、顔面の火傷ありしもこの部分に対する防護を考ふるを要す。
(ハ)機銃掃射は脚部に負傷多きを以て??等のごときもの必要とす。

第6章 配員並びに訓練法
第1 配員
1.高射指揮官付、射撃指揮官付は、絶対に必要にして確実迅速なる砲火指向射撃指揮を行なうには優秀なる補佐を必要とす。
2.指揮官伝令は敵を見ずして指揮官の意図を伝えるものなる故、沈着にして機敏なるを要す。
3.砲員は、機銃掃射により負傷する機会多く減員操法を行なうこと多し。故に(尺)(信)と雖も体力頑健にして2,3番砲手として戦闘に耐えうる者を配員するを要す。
4.今回の戦闘において、4番砲手欠員にして兼務運弾員之を兼ねたるも体力の不足より射撃速度を低下せしめたり。固有4番砲手の配置は絶対必要なり。
5.兼務運弾員は一般に体力、気力伴に劣弱にして操法、砲の機構未知のため危険なる状態を励起し「無きよりは良し」と言う如き状況なり。戦闘力発揮のためには更に一考を要す。
第2 訓練法
1.主砲高角砲同時射撃の場合の通信連絡法特に指揮官付伝令及び「射」「旋」との連絡法を重視す。
2.聴覚不能の場合、手先信号号令通報器を用いる指揮法
3.被弾時の処置
4.転舵時必ず照準演習を行なうは効果大なり
5.目標指示の号令は簡単にしてしかも迅速に目標を捕捉せしむる如くするを要す。
6.装填架を起倒する訓練は未熟なる1番砲手には効果あるも熟練する者には効果少なく兵器の摩耗多し回数を減少するを要す。

第7章 その他一般所見
第1 一般
1.発受信器関係送電時間は最大15時間連続送電するも異常なく、?する程度は5時間前後において最高なり。但し以後は変わりなし。
2.射撃の激励及び被弾至近弾により電流の断続あるを以て時機を得次第、基針通信器の試動を行なうこと肝要なり。
第2 気力体力振作法
1.精神教育を徹底せしむるを要す。
2.戦況味方の戦果を各部に知らせ、士気の昂揚に努む。特に発令所内は効果大なり。
3.惨烈なる状況に於いては指揮官自ら激励し敵愾心を旺盛ならしむ。
第3 戦闘配食
1.下甲板配置の者は熱気のため卒倒せるものありたるに鑑み、飲料水、塩、鰹節、砂糖水等をできる限り多量に準備するを要す。戦闘一段落後に?れば、「サイダー」「ジャム」乾麺?は熱気のため食されず。
2.砲員は炎天下に体力を消耗するを以て砂糖水あるいは滋養ある食料の配給を必要とす。

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