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六車奈々、会心の一撃!

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タレント・女優の六車奈々によるエッセイ集。子育てをしながら働く、ハプニングと全力投球な日常をエッセイでお伝えします。
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#子育て

働くお母さん

「お待たせ致しました」 真っ先に注文したスパークリングが運ばれてきた。『こぼれスパークリング』と書かれていたそれは、日本酒でいう『もっきり』さながら、升の中にシャンパングラスが立っている。 今日は、一人きりの外食だ。 娘が生まれてからの4年間、思い返しても一人でゆっくり夕食を満喫した記憶など一度もない。 私は思わず笑みが溢れた。 「それでは失礼します」 店員さんが、グラスにスパークリングを注ぎはじめる。 「ゆっくりね、ゆっくりね!」 スパークリングが泡立ち過ぎないよう心の

鬼退治

まもなく15時40分だ。 私は心が落ち着かず、息が苦しくなった。 今日は、節分。 あと数分で、鬼たちが保育園を強襲する。 娘は大泣きするだろう。 怖い思いをするだろう。 そう思うと、胸が苦しくなった。 節分の数週間前から、保育園では準備が始まった。 『節分の日、もしかしたら保育園に本物の鬼が来るかもしれない』 そんな噂を聞いた3歳児クラスの子供たちは、怖くてドキドキした。 森へ柊を探しに行き、鰯と一緒に窓や玄関に飾る。もちろん皆で、豆も買いに行った。 「豆をぶつけて

二者択一の模範回答

グリーンチャンネル『M'S TV』の現場に娘を連れて行くことになった。主人が高熱を出したため、保育園のお迎えに行けないからだ。 お気に入りのワンピースを着た娘の手を引き、控え室に入る。 「今日は、よろしくお願いします!」 と照れながらも皆さんにご挨拶し、お絵描きをしながら矢部みほちゃんが来るのを待っていた。 毎週木曜日に放送の『M'S TV』は、せりも一緒にオンエアを見る。今までテレビの中でしか見られなかったみほちゃんに、今日は初めて会えるのだ! みほちゃんのために、お

めんどくさいの向こう側

人間の脳ミソが、ドンドン退化しているかもしれない。 数年前から、そう思うようになった。 たとえば、大衆の娯楽であるお笑い。 ひと昔まえは、みんなが落語を聴いた。 マクラから始まり最後のオチを聴くまで、落語家が一人で何役もこなしながら物語の世界を繰り広げる。その会場にいる人は全員、頭の中で情景を思い浮かべ、笑った。 時代が流れると、漫才ブームとなった。これまで一人で何役もやっていた落語から、二人それぞれが『ボケ』と『ツッコミ』に分かれ、ストーリーを展開する。役どころが分かれ

ケーキ泥棒とらえもん

「ケーキが無いよー!ケーキが、1つ無くなってるよー!」 保育園三歳児クラスのせりちゃんが、みんなに知らせた。 どうやらケーキのおもちゃが無くなったらしい。ままごと用に置いてあるケーキは、ショートケーキの形をしている。これらの両端にはマジックテープが付いているため、6ピース合わせればホールケーキになる。 せりちゃんがホールケーキにしようとくっ付けたところ、1ピース欠けていることに気づいた。 「え!ケーキが無いんだって!みんなで探そう!」 一つ上の四歳児クラスの子も一緒になり

ウンコ、ウンコ、ウンコ!

あなたは、自分のウンコを初めて見たときのことを覚えているだろうか? 娘は一歳半のとき、期せずして自分のウンコと対面することになった。 ちょうどお風呂に入っていた時、便意を催してしまった娘。急いでトイレに連れて行こうとしたが、二人が体を拭いてからトイレに向かう時間など、あるはずもない。かといって、ウンコを我慢できるような年齢でもない。 「せりちゃん、ここでしていいよ。頑張れー!」 人は教えられなくてもウンコの時にはウンコ座りをする。 娘は口をへの字にしながら、ウンコを頑張

45歳、新たな夢へ

45歳にして、国家試験を受験をした。 受験なんて大学受験以来。かれこれ四半世紀ぶりである。 昨年の12月。私は突如、保育士の資格を取りたいと思った。自分の子育てに役立つことは勿論だが、美人塾の活動をもっと広げていきたかったからだ。 そのためには、取りたい国家資格が二つある。まず一つ目が、保育士の資格だった。 とはいえ、私の毎日は忙しい。昼ドラの主演をやっていた時より忙しいと思う。家事、育児、自分の仕事に加え、主人の仕事まで手伝っている私は、朝から晩までスケジュールがパンパ

関西魂

その日も、娘と公園のブランコで遊んでいた。 早めに保育園へお迎えに行けると決まって公園へ立ち寄り、ブランコで遊ぶ。 ブランコは、娘が一番大好きな遊具だ。 私もたまに一緒にやってみるが、三半規管が衰えたのか、すぐに気持ち悪くなってしまう。子供の頃は、娘と同じくブランコが一番好きだったのに、歳には逆らえない。そんなわけで私は専ら、娘の背中を押してやるのが役目だ。 娘が乗ったブランコを高く持ち上げて手を離すと、ブランコは大きな弧を描いた。この大きな揺れが、娘のお気に入りだ。風を受

賢い女

「え?ハジメさん、毎晩ご飯作ってるんですか?というか、朝も作ってません?」 私は思わず聞き返した。 すかさず、ヨメが答える。 「だってぇ。。。私が作るより、ハジメさんが作った方が美味しいんだものぉ〜。ね?ハジメさん。」 「いやいや、まぁゴハン作るのは好きだしね。」 褒められたハジメは、照れ臭そうにしながらも嬉しそうだ。 このヨメは、自称『天然ボケ』である。 そして自称『ドジ』である。 しかし、本当は違う。 相手を油断させるのがうまいし、人に尽くさせるのがうまい。現

若作り女の悲劇

女性はいつまでも若くありたい生き物だが、『若作り』と『若々しい』は大きく異なる。 前者は、服装やヘアメイクで無理矢理若く作ることであり、 後者は、その人自身が若く見えることをいう。 私の個人的な意見としては、 20代には20代の良さが、 40代には40代の良さがあると思うので、 別に必死になって若く見せたいとは思わない。とは言うものの、人から若く見られるとやっぱり嬉しい。嬉しくて小躍りする。おっと、小躍りしてる時点でそれはかなり、いや、めちゃくちゃ嬉しいではないか。そうだ

友からの教訓

その日は、この夏一番の暑さだった。 男は大事なお客様との接待で、ゴルフの真っ最中だ。 ゴルフ場には日陰など殆ど無い。 吹き出す汗を拭いながら、コースを歩いていた。 男とは、私の友人である。仮に名前をヨシオにしよう。 「ナイスショット!」 ヨシオは大声で讃えた。 今回のメンバーは、四人のうち三人が得意先である。 つまりヨシオは、メンバー全てに気を使わねばならなかった。 「いやぁ、さすがです!よく飛びますね〜!」 「今のパット入れちゃいますか!僕なら絶対にスライスだと思って失

大女優の背中

TBS系『カラダのキモチ』でスタジオ収録したときのこと。 その日のゲストは、女優の故・坂口良子さんだった。 私はいつものように、出演者の控え室へご挨拶まわり。 もちろん坂口さんの控え室にもご挨拶に伺った。 坂口良子さんと言えば、大女優。 どんな人だろう。 私はドキドキしながら、ドアをノックした。 「はぁい!どうぞー!」 軽やかな声が聞こえ、その直後スタッフの方がドアを開けて下さった。 中を覗くと、坂口さんは鏡の前でヘアメイクの真っ最中。 「メイク中に、すみません!」 「

芸能人は歯が命!

「あ!ちょっと待って!他の子も、歯を見せて!」 オーディションへ行くと、私の歯並びを見て、慌てて他のモデルの歯並びを確認する関係者。 この言葉を聞くたびに、私の胸はズキンと痛んだ。と同時に『また今回も、歯並びのせいでオーディション落ちたな。』と、肩を落として家へ帰った。 自分の歯並びが気になったのは、小学三年生の頃。 母の嫁入り道具である三面鏡を開き、覗いてみる。いつもの私だ。少し顔を鏡に近づけて左右の鏡を少し閉じると、自分の横顔が見えた。 歯が出てる。。。 私は、自

BEST FRIEND

小学校六年生の時、入院をした。 原因不明の腰痛が続いたため、検査入院をすることになった。 しかし本当のところは、仮病だ。 親には本当に申し訳ないことをしたが、入院したいほど学校へ行くのが嫌だった。酷いイジメがあったからである。 私がいたクラスでは、女子が二つに別れていた。私のグループは十人だったが、ボスザルが一人いて、いつも誰かをイジメるように指示を出していた。つまりボスザル以外のメンバーが順繰りにイジメに合うのである。 イジメの内容は、『全員で無視』『暴言を吐く』など、色