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「絵本太功記」令和6年4月公演 @国立文楽劇場

大坂の文楽劇場まで遠征してまいりました。「絵本太功記」は何回か見たことがありましたが、通常よりも前段部分が長く、どっぷりお話に浸れそうなので楽しみにしていました。

「時代物」というのは、江戸時代からみた「時代劇」という意味です。題名から豊臣秀吉をイメージするのですが、題名から想像する主役が脇役として出てくる「文楽あるある」のとおり、実際は、明智光秀が主人公のお話です。(作品の中では「武智」という苗字になってます)

「本能寺の変」は言わずと知れた日本史最大のミステリーであり、戦国時代最高のクライマックス。謀反の動機は今でも研究が続いていて、数年前にも重要な資料が発見されたとか。大河ドラマの「麒麟がくる」でも、謀反の理由をどう描くか注目が集まっていました。

今回の公演では、謀反に至る経緯が描かれる段「二条城配膳の段」「千本通光秀館の段」も上演されました。信長(作品中では「春長」)から謀反の疑いをかけられたうえに、打擲を受けるという、いわゆる「通説」に近い形で描かれます。

とはいえ、このお話のメインディッシュは、本能寺の変の後、天王山の「山崎の戦い」の前に、謀反人となってしまった光秀の家族の苦悩が描かれるところ。光秀の母「さつき」と、息子の「十次郎」と許嫁の「初菊」が登場します。劣勢であることは家族も理解しているうえ、観客の方は山崎の戦いの結末は知っているわけですから、その苦悩が涙を誘うわけですね・・・。

この作品、文楽の作品の中でもストーリーが分かりやすく、現代人にとって咀嚼しずらい筋はあまり出てきません。光秀の人物像も、完全な悪人でもなく、かといって「大義のために事を起こした偉人」という描かれ方でもないため、とっつきやすいのではないかと思います。

さらに、謀反人の母になってしまった老婆の嘆きや、子を思う心、息子の健気さ、許嫁との別れなど、泣けるシーンがてんこ盛り。筋を知っているのに、つい涙を流してしまう。まさに時代物の醍醐味をストレートに感じられる演目でした。

勇壮な侍の大きな人形が出てくるのも見どころ。特に光秀の人形の扮装や豪快な動きは、何回見てもまた見たくなってしまう魅力があります。特に、感情を押し殺してきた光秀が、いよいよ堪えきれなくなり男泣きするシーン。扇子で顔を隠すのですが、この扇子がかっこいいんですよね・・・。日の丸の扇子ですが、地色が白ではなく黒なんです。ダークヒーローって感じでグッときます。

↓こちらのページを開くと、扇子を持った光秀の画像が出てきます。

ちなみに、チラシ画像も毎回カッコいいので楽しみにしています。今回のも良いですが、2022年の東京の文楽鑑賞教室のチラシも格好よくてしばらく家に飾っていました。

今回観劇したのが千穐楽だったのと、オオトリを務める竹本千歳太夫さんが紫綬褒章を受章した日でもあり、すべての段で床(演奏陣)が絶好調でした。特に、千歳太夫さんは冒頭から迫力満点。全身全霊での語りに、鳥肌が立ちました。一人で語っているのにここまで観客を揺さぶり続けるのは、凄まじい芸だなぁと感動しました。

素晴らしい名演を生で堪能できて、大阪まではるばる見に行って良かったです。

絵本太功記は、今年10月、来年3月の地方巡業の演目でもありますので、初心者の方にもおすすめです。老若男女誰でも楽しめると思います。

千歳太夫さんの授章で記事がたくさん出てましたのでリンクを貼っておきます。

↓こちらは動画もあります。

こちらは過去記事

以下は、感想メモです。

  • 「尼ヶ崎の段」の光秀役の登場シーン。編み笠と簑を脱ぎ捨てるところ、玉男さんと玉志さんで振りが違うんだなぁと発見。以前見た玉志さんの振りが憤怒にあふれた感じで「怖い」って思って印象に残っていたので、演者さんによって違うんだな、と思いました。

  • 玉勢さんの十次郎がとっても良かった。健気さと若さが存分に表現されていて、だいぶ泣かされました。玉勢さん、これまで見たのは上品な立ち役が多かったので動きの激しい武者役が新鮮でした。

  • 時代物が聞きたい太夫陣が順番に出てきて、至福の時でした。小住太夫さん→三輪太夫さん→呂勢太夫さん→千歳太夫さん。配役した方に感謝しかないです(涙)

  • 「夕顔棚の段」。床は三輪太夫さん・團七さん、母さつき勘壽さん。超ベテラン勢が描く老婆の嘆きは溜まらないものがありますね。三輪太夫さんの古風な語りは癖になります。

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