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【SABR】「レギュラー野手=2.0WAR」の理屈

鯖茶漬です。いつもお世話になっております。

■前書き

更新頻度も上げたいなあと思いつつ、毎回気合いを入れて書くとどうしても時間がかかるので今回は箸休め的な記事です。みんな大好き総合指標「WAR」のお話。

WARについてはセイバーメトリクス好きに限らず、既にあらゆる野球ファンに浸透していると感じています。しかし、その数字のカラクリに関してはあまり認識が広まっておらず「とりあえずそういうことになってるんだよね」くらいの理解の方が多い印象です(そんなものでも十分なんですが)。なので一度ここでざっくりとした解説を行い、少しでも正しい認識が広まればいいなと思った次第です。

今回は表題の通り「レギュラー野手=WAR2.0」の基準はどういう理屈なのでしょう、というテーマで簡単に解説を行います。また、ここではFangraphs WAR(fWAR)を扱います。

ひとつずつ確認していきましょう。


■WARのカラクリを理解しよう

①基準を確認してみよう

まずはWARの基準について確認してみましょう。Fangraphsの用語集に解説があります。

簡単に翻訳した表は以下。

WARの基準はこのようになっています。今回は赤色で示した「レギュラー」の部分に注目してみます。また、本稿における「レギュラー」とは「レギュラー野手」を指します。

②全体のWARはどれくらい?

全体のWARは「本塁打数」や「奪三振数」のように毎年数が変わるものではなく、毎年「1000WAR」で固定されています。

WARが毎年固定となる理由は「リプレイスメント・レベルからの相対評価」である為です。「なんで平均からの比較じゃないの?」という疑問は多く見かけるところですが、この点は以下のリンクでわかりやすく解説されています。

簡単に言うと「その選手がいないと出てくるのは控え選手だよね、じゃあそこと比較しましょう」みたいな感じです。MLBはこのリプレイスメント・レベルを「勝率.294のチーム」に固定しています。競技レベルが上がってもこの基準は変わりません。

30球団が年間162試合を行うMLBにこの基準を当てはめてみます。

リーグ全体の勝利数
162試合×15(その試合の勝利チーム)=2430勝
リプレイスメント・レベルの勝利数
162試合×30球団×勝率.294=約1430勝
2430-1430=1000(WAR)

つまりWARは「リーグ平均とリプレイスメント・レベルの差『1000WAR』という枠組みから各選手に配分していく指標」ということです。

③1チームごとに考えてみよう

WARとは「1000WAR(勝利)を全体に配分していくものだよ」というお話をしました。次は1チーム単位で考えてみましょう。

WARの基準は「勝率.294のチーム」でした。これを実際の勝利数に変換すると、

162試合×勝率.294=約47.6勝

となります。勝率.500の平均的なチームは81勝。つまりチームで「81-47.6=約33.4WAR」を稼ぐことができれば「平均的なチーム」といえるわけです。

(およそ)33.4WAR×30球団=約1000WAR

全てのチームが平均的な成績を残したとすると全体の1000WARに概ね一致します。ざっくりでいいんです。

④投手と野手の配分比率

次に全体の1000WARを投手、野手にどのように配分するのか確認してみましょう。タンゴは以下のブログで投打それぞれのリプレイスメント・レベルを設定し、そこからWARの比率を算出しています。

簡単に要約した内容は以下。

□野手が平均/投手がリプレイスメント・レベル
=勝率.410
□投手が平均/野手がリプレイスメント・レベル
=勝率.380

□投手/野手共にリプレイスメント・レベル
=勝率.300→.294(全体のWARを1000にするため)

ちょっと複雑ですが、この数字から分かることがあります。野手、投手それぞれが「平均的な貢献をすることによる価値」です。

□野手が平均的な貢献をする
→リプレイスメント・レベルより0.12WARの貢献
→162試合あたり19.4WAR
□投手が平均的な貢献をする
→リプレイスメント・レベルより0.09WARの貢献
→162試合あたり14.6WAR

上の計算から1チームあたりの投手:野手の比率がおよそ分かりました。これを1000WARに換算すると「投手430:野手570」となります。Fangraphsはこの比率でWARを配分しています。

投手WAR。
430WARでないのは2430試合開催ではなかった年です。
野手WAR。

⑤人数で割ってみよう

上の計算から、全体の1000WARは「投手430:野手570」、または1チームあたりだいたい「投手14:野手19」ということが分かりました。ここでは「1チームあたりの野手19WAR」に注目してみます。

1チームの野手はDHを含め9人います。実際のMLBではプラトーン起用や代打起用なども考えられますが、ここでは9人全員が162試合フル出場したと考えます。

19WAR÷9人=2.1WAR

これだけです。簡単。「ほぼフル出場して平均的な成績を収めた野手は2WAR付近となる」というのはこういう理屈です。平均と比較して傑出した成績を残したわけではありませんが、出場し続けて「控え選手を試合に出さなかった」という点に価値があります。

また、これらの計算は「シーズン162試合」「30球団」「リプレイスメント・レベル勝率.294」「投手43:野手57」といったMLBの環境が前提となっています。NPBのような異なる環境ではここの数値が細かく変わってくる可能性もありますが、WARの理屈は同じです。


■実際の「2.0WAR」の選手

2023シーズンに「2WAR付近」を記録した野手を見てみましょう。対象を広げて2.0〜2.5WARあたりの選手を挙げてみます。

https://www.fangraphs.com/leaders/major-league?pos=all&lg=all&qual=y&type=8&ind=0&stats=bat&startdate=&enddate=&sortcol=21&sortdir=default&team=0&month=0&season1=2023&season=2023&pagenum=3&pageitems=30より引用。

いかがでしょう。チーム状況や選手のポテンシャル、ポジションによって印象も変わるかと思いますが「総合的に見て傑出しているわけではないが、チームにいてくれるとありがたい存在」のような選手が並んでいる印象です。

打撃貢献(走塁も含む)や守備貢献を合算した値で傑出しているわけではありません。これらの選手の価値は「シーズンを通して試合に出場し、平均的な貢献を続けた」という点にあります。

平均を基準とした場合、平均的な成績を残した彼らの価値はゼロ=試合に出場してない選手と同価値になってしまいます。だからWARは「Wins Above "Replacement"」なんです。


■終わりに

簡単ではありますが、何かと批判の材料として挙げられる「WAR」のカラクリについて解説してみました。できる限り噛み砕いて説明しましたが、分からない点があったらX等で直接聞いていただければお答えします。

巷では「最強の指標」とも言われるWARですが、仕組みが分かれば改善点はいくらでも挙げられます(それが問題かどうかはともかく)。リプレイスメント・レベルの再検証、投手:野手の配分比率、パークファクターや守備位置補正値の正確性...。これらは今後もアップデートされていくと考えられますが、WAR自体は現状「1000WARの枠組み」として機能していると考えます。

野球そのものというよりは評価方法の話ではありましたが、こういった考え方もまたセイバーメトリクスの面白いところです。本稿が少しでも皆様の参考になれば幸いです。


※ヘッダー画像は https://www.si.com/mlb/athletics/news/brent-rooker-is-almost-the-best-hitter-in-baseball を引用。
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