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【SABR】ホーム球場の特性を活かしたロイヤルズ打線の進化

鯖茶漬です。いつもお世話になっております。

個人的に開幕前から注目していたカンザスシティ・ロイヤルズ。好調の要因について分析していきます。


■好調の要因は?

ここまで36勝26敗/勝率.581全体8位)を記録している今季のロイヤルズ。ちなみに昨年は56勝106敗の勝率.345、5月終了時点ではなんと17勝39敗の勝率.293でした。この1年でロイヤルズは何が変わったのでしょうか。

▼先発投手陣の活躍

まずは昨年と比較し、どのポジションで大きく差が出ているのかを総合指標WARで確認してみます。

順位はMLB30球団中。

特に目立つのが先発投手陣の躍進。昨季終盤からエースと呼べるほどの投球を披露しているコール・ラガンズ(2.4 fWAR)をはじめ、セス・ルーゴ(1.8 fWAR)やマイケル・ワカ(1.3 fWAR)といった昨オフの移籍組も存在感を示しています。

▼既存の戦力を底上げした野手陣

全体2位のfWARを記録してる先発投手陣が目立つ一方、野手陣の飛躍も無視できません。以下の表は昨季とのチームwRC+の比較です。

データはFangraphsより引用。

野手fWARこそ11位とそこそこの順位になっているのものの、昨季と比較してwRC+87→wRC+101と大きくレベルアップ。+14は30球団中3番目に高い数値です。最もwRC+を上昇させたヤンキースはフアン・ソト加入の影響も大きく、ほぼ昨季と同様のメンバーで成績を伸ばしたブリュワーズ、ロイヤルズなどの躍進が目立っています。

▼ホームゲームでの強さ

順調に勝利を重ねているロイヤルズ。実はその大半がホームのカウフマン・スタジアムで挙げたものです。今季はホームで22勝10敗、アウェーで14勝16敗。以下の表は過去5年間のHome/Awayでの成績です。

データは6月5日時点。

ホームで例年勝っているかと言えばそうでもなく(チームの能力不足感もありますが)、勝率が5割に届いたシーズンは60試合制の2020年まで遡ります。「相対的に見れば得意だろ」とは言えるかもしれませんが、とにかくここまでホームで勝ってるシーズンはありません。まだシーズンは序盤ではありますが、例年にないほどの差が開いています。

さらにホーム/アウェーでの打撃成績に注目してみます。

データはFangraphsより引用。

wRC+101と平均クラスの打撃成績になってたロイヤルズ打線が、ホームでは上位クラスの打線に変貌しています。ホームで打撃成績が向上するのはどのチームにも見られる傾向ではあるものの、wRC+上で+30という差はアストロズに次ぐ2番目の数値です。

アウェーでは例年と同じくらいの打撃成績を残している一方、ホームのカウフマン・スタジアムでは上位クラスの成績を残しているロイヤルズ打線。具体的な要因がどこにあるのか、様々なデータから分析していきます。


■ロイヤルズ打線の特徴

今季のロイヤルズ打線に触れる前に、簡単に昨年までのロイヤルズ打線の特徴を探ってみます。2023年のチームwRC+87は全体27位。MLBワースト級の打撃能力であったことが分かりますが、もう少し踏み込んでみましょう。

▼BB%はワースト級、K%も平均程度

まずは昨季の一般的な打撃指標から。

括弧内はリーグ順位。

多くのスタッツで下位となっています。ゾーン内、ゾーン外共に積極的にスイングを行いながら、Contact%は低い状態。BB%は30球団中29位とワースト級と出塁率の低さにも繋がっています。K%こそかろうじて平均クラスの数値を記録していますが、これらの指標からロイヤルズ打線の強みは見出せません。

▼上位クラスの打球データ

各打撃指標は軒並みマイナスとなっていた昨年のロイヤルズ打線。しかし、トラッキングデータを見ると評価が変わってきます。

データはBaseball Savantより引用。

Avg Exit Velocityでは全体5位、Hard Hit%でも7位。上位50%の打球速度の平均を取るEV50こそ平均クラスですが、比較的強い打球を放っているロイヤルズ打線の強みが見えてきます。

また、一定の打球速度を保つことで価値が上がるとされる8-32°の打球角度の割合「SwSp%」では全体3位。強い打球を打つ能力も、適切な打球角度で打ち上げる能力も有していることがわかります。

その一方、一定以上の打球速度と一定の範囲の打球角度から算出されるBarrel関連の指標ではそこまで目立った数値になっていません。どちらの能力も有してはいるものの、「打球速度を上げながら、同時に打球角度も上げる」というまでには至っていないようです。

▼課題の解決策とは?

強い打球を放ちながらも、打球速度×角度の両立には至っていないロイヤルズ打線。いくつか改善案を考えてみます。

①両立できる打者を獲得する。
身も蓋もないですがこれが手っ取り早いです。オフに補強することも考えられましたが、前述したようにロイヤルズの編成陣はセス・ルーゴやマイケル・ワカら投手陣の補強を選択。野手陣の補強はハンター・レンフローやアダム・フレイジャーらの獲得に留めています。

②打球速度を保ちながら角度を上げる。
これも身も蓋もなさそうですが、既存の戦力でそれが可能ならベストな選択です。言うだけなら簡単に思えますがリスクも伴います。これらを両立するためのアプローチの変化によって空振りや打ち損じのリスクも向上すると考えられるためです。とはいえこのアプローチは現代のMLBの主流。三振覚悟で強いスイングを行うことが得点効率の良さに繋がると考えられています。

③打球角度を犠牲にし、強い打球を打つことに専念する。
速度×角度の両立が難しいなら一方に専念するのはどうでしょうか。弱い打球に角度をつけても効果は薄いですが、速度のついた打球はある程度の価値が生まれます。既に前者の能力を有しているロイヤルズ打線であれば、コンタクト能力と両立することも可能であるように思えます。とはいえMLBのトレンドに逆らっているのも事実。

解決策をいくつか挙げたところで今季のロイヤルズのデータを確認してみます。


■データから見るアプローチの変化

今季のロイヤルズ打線のデータを確認するといくつかの変化が見られます。

▼コンタクト率・三振率の改善

まずは一般的な打撃指標から。

括弧内は昨季→今季の順位。

Contact%、K%の大幅な改善が目立ちます。BB%は依然として下位ではありますが「ボールにコンタクトする」という点において大きく変化しているようです。

一方、Swing%に大きな変化は見られません。ゾーン内のスイングは減少し、ボール球に手を出す機会が増えているようです。「スイング数をキープしながらコンタクトする」というと一見難しそうに思えます。Baseball Prospectsに寄稿された以下の記事では、この点について「球種を絞ってアプローチしているのでは?」と考察されています。

記事内では、ロイヤルズのストレート/シンカー/スプリット/チェンジアップにおけるSwing%が全体6位カーブ/カットボール/スライダー/スイーパーにおけるSwing%が全体26位であることに触れています。(それが実際に可能かどうかは判断できませんが)スピンを特定し、無理なアプローチをしないことが三振の減少と強いスイングに繋がっているのでは、と推測しています。

さらに先ほど紹介した指標をホーム/アウェー別に見ると大きな乖離が発生します。

データはFangraphsより引用。

各指標で差が開いています。ホーム/アウェー合計ではMLB上位クラスの数値を記録したK%でも、別々に見ると大きく乖離しているようです。とはいえアウェーで打撃成績が落ちるのはよく見られる傾向。昨年と比較して「コンタクト数を増やし三振数が減少。インプレーの打球を増やし打率を上げ、その副産物として長打も増えている」と言えそうです。

▼打球傾向の変化

三振を減らすことでインプレーの打球を増やしたロイヤルズ。次にその打球種類がどのように変化したのかを確認してみます。

データはFangraphsより引用。

ゴロ打球の割合はほとんど変わらず、ライナーの打球が減少しフライの割合が増加。この数値だけ見ると、今季のロイヤルズはフライを増加させるために打球角度を上げる意識があるように思えます。

しかし、打撃成績に差のあるホーム/アウェー別に見てみるとここでも打球傾向に差が生まれます。今季のロイヤルズの打球傾向をホーム/アウェーで確認してみます。

データはFangraphsより引用。

アウェーと比較して、ホームではゴロ/ライナーの打球が増加しています。この傾向の差はどこで生まれるのでしょうか。

ここで先ほど載せたロイヤルズのホーム/アウェー別K%に注目してみます。ホームでは16.8%と低い数値を記録していながら、アウェーでは21.1%まで悪化しています。ホーム球場であるカウフマン・スタジアムでは、無理に打球角度を上げず、角度の低い打球(ゴロ・ライナー)を良しとしたアプローチを取ることで三振を減らすスタイルを取っていると推測します。

当然ですが打球傾向の差は打球角度にも反映されています。例えば昨年SwSp%でMLB全体3位の35.1%を記録しましたが、今季は32.7%(25位)まで低下。ではどの角度への打球が増えたのでしょうか。すべての打球の割合をざっくり1/3に分割し「打球角度2°以下」「2°以上〜25°以下」「25°以上」の打球割合を確認してみます。

括弧内はMLB内の順位。

やはりここでも打球角度のついた打球の増加が見られます。しかし、打球の内容に注目すると昨年と大きく差がつきます。打球角度ごとのExit Velocity、wOBAを確認してみます。

括弧内は昨季→今季の順位。

2°〜25°の打球でMLBトップのwOBAを記録しています。ここまで読んでいただいた方は予想ができるかと思いますが、上の成績もホーム/アウェーで大きく異なります。

データはBaseball Savantより引用。

特に目立つのは25°以下の打球の差。ホームで放った25°以下の打球では、打球速度、wOBAそれぞれMLBトップの数値を記録しています。ロイヤルズはホームで角度の低い打球を増加させており、それと同時に強い打球を放つことで結果に結びつけているようです。

▼カウフマン・スタジアムの特性

無理に打球角度を上げず、強い打球を打つことに専念し結果を残しているロイヤルズ打線。これはホーム球場であるカウフマン・スタジアムの特性を考えると非常に理に適ったアプローチであることがわかります。

ここで昨年のロイヤルズの、ホームゲームにおける打撃成績をxStatsと比較してみます。

データはBaseball Savantより引用。

xStatsとの乖離、期待値よりも低い結果が出ていることがわかります。一般的にxStatsとの乖離の要因は「下振れ」とも捉えられることが多いと思います。しかし、2015-2024年と長期のデータを見てもカウフマン・スタジアムでの打球はxStatsと実際の結果に乖離があります。

得点価値が高くなるExit Velocity 88mph以上の打球に限定し、打球角度ごとのxwOBAと2025-2024年の間にカウフマン・スタジアムで打たれた打球のwOBAを比較してみます。

データはBaseball Savantより引用。

打球角度が23°を上回るあたりからxStatsとの乖離が発生しています。MLB平均では11〜15°と23〜28°の打球で高い得点価値を記録している一方、カウフマン・スタジアムでは打球角度を上げても11〜15°の打球ほどの価値が生まれていません。

この乖離の要因はカウフマン・スタジアムの特性が影響しています。球場の大きさをMLB平均と比較してみましょう。

データはWikipediaより引用。

両翼の大きさに差はありませんが、中堅方向が他の球場と比較して広くなっています。つまり他の球場であれば本塁打になるような打球でも、後一歩のところで外野フライになってしまう、といったケースが多いのです。

例としてこのような打球が挙げられます。

ボビー・ウィット・ジュニアが放ったこの打球。xBA.940、xwOBA1.896と極めて価値の高い打球ですが、これがカウフマン・スタジアムの中堅方向に飛んだ場合は外野フライとなります。ロイヤルズはこのように球場の影響によって本塁打を損するケースも多く、xHR(本塁打期待値)とHRの乖離が大きい選手上位15名に3名がランクインしています。

一方、球場の広さは打者を不利にするとは限りません。グラウンドが広くなり、インプレー中の安打が増えると考えられるためです。2021-2024年の球場別BAbipでは、カウフマン・スタジアムはフェンウェイ・パーク(.322)、クアーズ・フィールド(.321)に次ぐ全体3位のBAbip.308という数値を記録しています。

この特性はパークファクターの値にも反映されています。

データはBaseball Savantより引用。

本塁打が出にくい一方、短打/二塁打/三塁打が出やすくなっていることがわかります。その影響もあり得点パークファクターでは例年高い傾向があります。カウフマン・スタジアムは「本塁打が出にくい球場でありながら得点が入りやすい球場」と言えるでしょう。

もちろん全員が球場の大きさに関係なくスタンドに運ぶほどのパワーがあれば話は別。現状のロイヤルズ打線は「打球角度を犠牲にし、強い打球をインプレーに多く放つ」という意識を持つことでホームで好成績を残しているようです。


■終わりに

▼まとめ

長くなってしまいましたが簡潔にまとめます。

①打球角度を犠牲にし、強い打球を放つことで得点を増加。
②球種を絞ることでコンタクト率、K%の改善に成功。
③本拠地の特性を考えると非常に理に適ったアプローチ。
④現状アウェーではその能力を活かせていない。

もちろんこれはあくまでシーズン序盤〜中盤での話。シーズンが終わる頃にはホーム/アウェーでの差も小さくなったり、今回紹介した傾向に変化があることも十分に考えられます。あくまで現状のデータから「こういった意識を持っているのかな?」と推測してみました。

▼ロイヤルズが強い本当の理由

色々細かいデータを紹介しましたが、最後にロイヤルズ打線が強い真の理由を紹介します。

括弧内はMLB順位。

走者がいる状況で打ちまくっています。これがwRC+で15位でありながら1試合平均得点数で6位となっている理由です。走者状況での成績は運の影響が大きいと考えられていますが、この成績をシーズン通して維持できればロイヤルズは台風の目になるかもしれません。


※ヘッダー画像はhttps://www.sandiegouniontribune.com/sports/national/story/2024-03-31/witt-falls-double-shy-of-cycle-kc-hits-5-homers-and-routs-twins-11-0-to-avoid-sweepを引用。
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