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WARの解説① -概論-


こんにちは。大谷翔平のファンです。

■はじめに


野球をデータで語る上では欠かせない指標のひとつとなる「Wins Above Replacement」通称「WAR」についての解説記事になります。「まったく知らない」という野球好き・データ好きの方も少しだけ興味を持っていただけると幸いです。もっと野球を楽しんで観ることが出来ると断言します。

一度理解すれば簡単ですが、そこまでの過程が割と複雑な為、

①概論(導入?)
②大谷翔平のWARについて
②WARの基礎知識・仕組み
③Batting WAR(野手WAR)の仕組み
④Pitching WAR(投手WAR)の仕組み

の5部に分けて投稿する予定です。

▼きっかけ


私自身この指標を含めセイバーメトリクス関連の勉強を始めたのはここ半年程。少しずつ理解を深めていく中で「WARの実際の仕組みやそれらが意図するものと、一般的な理解度のズレ」に違和感があり、「間違った理解をしていた側」のひとりとして少しでも正しい認識を広める為に記事を書こうと思った次第。

また、検索しても「fWARにおけるUZR+OAAでの守備WARの算出」「野手:投手WARの57:43 or 59:41の比率」あたりに触れた日本語の記事が見当たらなかったのもきっかけのひとつ。このあたりの細かい数字の話は別の記事にまとめる予定です。

冒頭でも述べたように自他共に認める重度の大谷翔平ファンです。セイバーメトリクスに興味を抱いたきっかけも「大谷翔平を正当に評価する為にまずは何を知ればいいのか?」という理由でした。また、結論から言うとWARは「大谷翔平という特殊なプレイヤーを、完全にではなくとも十分に評価出来る指標である」という事も理解したつもりです。それどころか、この複雑なプレーをこなす1選手の為に存在するのではないのかと思ってしまう程、理屈の通った美しい指標です。

ただ闇雲に「大谷は既存の枠を壊したスーパースターなんだ」と主張するのではなく、その「既存の枠」はどんな仕組みで、どんな欠点があり、何を根拠に有識者が信頼して使用しているのか?そういった点まで知りたい方の為に解説します。

ひとりの選手の名前ばかり引き合いに出して申し訳ないですが「WARって名前くらいは聞いた事あるな」くらいの方も是非目を通してみてください。本当に奥が深くて、仕組みを知る度に感動します。それが少しでも伝わると嬉しいです。

■「WAR」は何を表す指標なのか?

▼「一般的」なWARの認識

まず、世間一般に浸透している「WARの認識」を確認してみます。

上の記事ではコメント欄を含め、大谷のWARを語る上で挙げられる「投打の直接的な貢献度の合算と、その際の守備位置補正の是非」「二刀流をこなすことで生まれるロースター枠の価値」また上記ふたつを生み出した事による「希少性」や「後世・他者への影響力」等が含まれていない問題点に触れています。また「実際には高い守備能力を兼ね備えている(はず?)が、疲労度を考慮して守備をしていない」「そもそも二刀流の比較対象がいないから枠に収まらない」と言った意見もあり、それらを踏まえて記事タイトルの「分析指標の歴史を台無しに」という認識に繋がっていると推測します。

Yahooニュースは従来から(少なくとも私の認識では)偏った意見が目立つ、という風潮がありこの1記事を「世間一般の認識」と位置付けるのは短絡的な気もしますが、Twitterや他の記事で見かける反論も似たような意見が目立つ為、

①WARは打撃や投球を総合的に評価し、貢献度を表した指標。

②MLBでは選手毎の比較に用いられる事が多く「絶対的」ともされている指標。

③二刀流を評価する上で「希少性」や「難易度」が考慮されておらず、また「守備位置補正」によって理不尽な減点を受けている。

あたりを一旦の「一般的な認識」と定義します。

また、これらの意見は「直感では」正しいとは言い切れずもあながちズレた反論でもないな、と感じます。では何故我々一般人でもいくつかの欠点が見つけられる指標が有用とされているのか、ざっくり下で解説していきます。

▼実際にWARが表しているもの


まず、WAR - Wins Above Replacementを意訳すると「代替可能選手と比較し、どれだけ勝利数を積み重ねたか」というものになります。

その「勝利数」を算出するにあたり、野手なら「打撃指標」「走塁指標」「守備指標」から、投手なら「投球指標」から「創出得点 or 抑制失点」をはじき出し、その創出得失点を「代替可能選手と比較した勝利数」に変換することで各選手の貢献度を比較しています。

かなりざっくりした説明になりましたが、上記をまとめると

各プレーを得失点換算し、その数字を勝利数に変換して比較している
→プレー以外の影響は元々全く考慮していない。

②あくまで「創出得失点」のみでの貢献度の比較
→「ロースター枠を空ける他者への影響」「実際は守備も上手いはず」「チームを鼓舞している」等も含まれない。

③WAR自体は「指標」というよりも「各指標を得点換算し合体した」という”だけ”のもの
→「選手の価値」を完全に数値化したものではなく「グラウンド内での創出得失点」を集計したもの。

要するに最初から「希少性」や「他者への影響」を表す指標ではなくプレーのみを評価したものなので、WARにそれを求めるのは「打率は長打を無視するから欠陥」「防御率は奪三振能力が読み取れないから壊れた指標」と言っているくらい的外れです。

「大谷翔平の活躍でWARの歴史が壊れた、台無しになってしまった」「セイバー厨は唖然としている」と言われても、WARの仕組みを理解せずに頓珍漢な反論をされたことに唖然とし、「意図を汲み取られずに利用されている」という意味で台無しになっている感すらあります。WARは「投手大谷」と「野手大谷」の創出得点を「今現在ベストとされている形」で適切に算出し、他の選手との「創出得点による貢献度」の比較に成功しています。

■ここまでのまとめ


初っ端から長くなってしまいましたが、声を大にして言いたいのは「WARは絶対的な指標ではなく、ひとつの目安とするべき指標」という点です。

巷では「セイバー厨はWARを過大評価している」等と揶揄されることもありますが、様々な反論を見て「WARについて知らない人ほどWARを過大評価しているのでは?」と感じることがあります。調べれば調べるほど改善の余地は見つかりますし、私くらいの凡人が思いつくなら研究者は毎日のように頭を抱えていることかと思います。この指標はひとつの参考程度で、まだまだ改善の見込めるものです。また仮に現在の算出方法が最適だとしても、出てきた数値はあくまで「近似値」でしかないとデータサイトも認めています

では「欠陥があるからその指標は使えないのか?」となるとまた別の話です。「大谷の希少性は数値化出来ない、枠に収まらない」と言うなら、他の選手の「希少性」は数値化出来るのでしょうか?今季センセーショナルな活躍を見せているElly De La Cruzはどの程度の影響力があり、希少性を持っているのか?去年不祥事により「周囲からの信頼」を失ったFernando Tatis Jr.の「真の評価」とは?つまりこんなキリのない話をしても一向に話が進みません。

だから「プレーでの創出得点=貢献度」を「ひとつの目安」として使います。「相手よりも多く得点し、勝利する」というルールの競技において、現状これが最もプレイヤーを正確に評価出来る指標のひとつなので。しつこいようですが「完全な指標」ではありませんし、WARの意図するものを理解せずに批判するのはむしろ「WARに対して過剰な期待・評価をしている」とも言えます。

■次回


長くなりましたが②ではもう少し細かくWARの仕組みについて詳しく解説しようと思います。長いなと感じた方すみません...。自分のアウトプットの場としての投稿でもあるので大目に見てください、また勘違いしてる点があったらリプライ等で教えていただけると幸いです。

前述した「守備位置補正」「ロースター1枠の価値」といった多くの方が疑問に思われる点や、勘の良い方だと気付いたかもしれない「なぜ『代替可能選手との比較』なのか?」「創出得点を勝利に換算とはどういうことなのか?」という点まで説明出来ればと思います。次も長くなったらすみません。というか調べたらたくさん出てくるので気になる方は自力で調べてみるのもいいかもしれません。

2022年FanGraphs社算出のWARランキング。

ここまで読んでもイマイチピンと来ない方もいるかもしれませんが、細かい理屈を抜きに「2021年から歴史的な活躍を続けている大谷翔平が、常に上位に位置し続けている指標」というだけで、ある程度信頼の置けるものだと言えるのではないでしょうか。計算はやや複雑ですが、これを理解すると改めてあの選手の凄さがよく分かります。それを少しでも伝えられれば良いかなと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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