冬と映画

クワイエットルームにようこそ

監督:松尾スズキ 主演:内田有紀

自分自身も気付けない痛み。忙しない社会生活を過ごしていくには自分を誤魔化してアホになる必要があるとすると、突然心の奥に埋まっていた地雷が踏まれて爆発することがあってもおかしくない。クワイエットルームに来ることになった「あの夜」のシーンが様々なパターンで繰り返されることで、映像の独特なおもしろさ奇妙さと精神世界のぐちゃぐちゃさが上手く融合してかなり良い。
信用できない強さで溢れてる精神病棟だから自分の弱さを突きつめられた絶体絶命感がよかった。
宮藤官九郎の歯並びの悪さがこの世界の中で良い味を出していたな。あとエンドロールに俵万智の名前があってびっくりして見返したらめちゃめちゃモブで出ていた。どういうこと?


勝手にふるえてろ

監督:大九明子 主演:松岡茉優

気分がいいときの世界は勝手に自分で幻想を作れちゃうのに苦しいときの現実世界はひどく冷徹。いつもと変わらないのに全員が他人であることをいやに寂しく感じてしまう。「絶滅すべきでしょうか」は極端で笑ってしまうが分からんでもないな。傷付かない恋の中で生きてたヨシカを無視できない、なんせいいとこばっかり見せてもらってるいちオタクなのでね……………………………(静寂の森)
恋のシーンの焦点の当て方が巧すぎて唸ってしまう。丁寧にコートを畳むイチの手元、エレベーターの扉を押さえて待ってくれるイチの姿…そうそうこの人やっぱり几帳面なんだよな、人に優しいんだよな、とまた好きの確信を積み上げてしまうじゃないですか。映像としては別に空気に色を付けたわけでもスローモーションにしたわけでもないのにそう感じさせるのが巧かった。それはそうと恋における「視野見」の存在をガン見派の道枝くんにも教えてあげたいとか思った。
ヨシカの胸から二に落ちた赤い付箋が水で染みてゆく…ラリーが続く卓球の音が響く…て独特すぎる表現でクライマックスの心の動きを伝えようとしているあたり、最初から最後まで観客を惹きつける自信があるんだなと感心した。付箋も卓球も二番手の男としてのくだりだったけど、イヤな思い出ではなかったんだよな……。悔しいほどに世界に没頭していたことに気付かされる。セリフとしての「勝手にふるえてろ」が意味するものをずっと悶々と考えている。モヤっとした後味もなんだか心地いい…


イエスタデイ

監督:ダニー・ボイル 主演:ヒメーシュ・パテル

ある日突然ビートルズが存在しない世界になっていたら…題材に興味惹かれる。作中でビートルズの曲が歌われるたびにこの曲を初めて聴いたとしたら、と想定してみたら意外にも楽曲に対して新しい発見がたくさんあった。ビートルズの楽曲は普通に生きてて耳にする機会がありすぎるので名曲であることにあまり気づけていなかったのだと思う。風化を刺激する映画だったな、ビートルズを知らないパラレルの人々は実は自分だったかもしれない。熱狂するガールズの白黒写真の意味が深い。最後には世界にビートルズの音楽が存在していて本当によかった〜と胸いっぱいになる音楽の強さを見た。エドシーラン役で出てるエドシーランは作中で言われたい放題なんですけど、いいんですか!?愛が深くて手厚すぎるな。あとイギリス人は本当にフィッシュアンドチップスいっぱい食べるんだな〜と思いました。


シャイニング

監督:スタンリー・キューブリック 主演:ジャック・ニコルソン

名作すぎるからいけるだろ、と思ったらめちゃくちゃこわかったホラー。ホテルが閉鎖される冬の間の管理人を任された主人公一家。3人で過ごすにはあまりにもだだっ広いホテルなのに、恐ろしく閉じられた空間…。突然驚かされるシーンは少ないけど、恐れていたものが「来る」瞬間のこわさが悪夢っぽかった。いちばん恐いのは気が狂った人間、いちばん怖いのは超能力を持つ人間…この二つの「こわさ」が超ミソ。恐怖の基礎知識として子どもの頃に観ておきたかったなと思う、これが名作の所以か。


トゥルーマン・ショー

監督:ピーター・ウィアー 主演:ジム・キャリー

フィクションの世界を生きるノンフィクションの男の超パラレルな現実のお話。胎児の頃から大人になった現在まで番組のセットである町で、俳優である人々とともに暮らす何も知らないトゥルーマン。町の中に数多ある隠しカメラの映像がトゥルーマンの生活を24時間365日映し出し、それが「トゥルーマン・ショー」という番組として全世界で放送されている…というトンデモ設定。
世界を理解したときのワクワク感が半端じゃなかった。が、自分の姿を常に誰かに見られてるんじゃないかという恐怖も感じさせつつ、テレビのひとの人生をのぞき見て消費している自分への恐ろしさでモヤ〜な後味も残すという、当たり前にあって見えていない攻撃に一矢報いる映画でした。
変に鮮やかな世界をやっと去るトゥルーマンの背中にどんな感情を向ければいいか分からない、そもそも感情を向けることが間違いなのよね……。2回見たら不自然の解が分かる仕掛けが楽しかった。


おしまい!