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自閉症思春期

思春期に入り、徐々に莉沙の様子は変化した。
生意気だとか、洒落気づいてとか
いう世間の思春期ではなく。
 
それは、自閉症特有の思春期だった。
音や匂いに一段と過敏になり
目に見えないものを「気持ち悪い」と何度も拭うような強迫観念が現れ
色んなことができなくなった。

外食は、特に難しかった。
音や匂い、清潔かどうか分からない
そういう場所で食事をすると
吐いてしまうようになった。

外食だけでなく、遊園地やショッピングモール。小さい頃はあんなに好きだった場所が
真っ青になって動けなくなるほど
莉沙の余暇は、ずいぶん制限がかかった。

外食したくない訳ではない。
遊園地もショッピングモールも
フードコートもゲームセンターも。
大好きなのだ。

だけど。
入ることができない。
過敏すぎて、人の足跡まで汚く浮いて見える!と訴え失神してしまった事もあった。
かわいそうだった。
好きなことを失った莉沙は
テレビで観る、好きな場所に
ただ、釘付けになった。

学校生活にも、症状は現れ
蛇口に触れず手洗いができない。
人が触った物は触れない。
運動場の砂が目に入るようで痛くて体育はできない。など。
色んな訴えがあった。

蛇口は先生や同級生にひねってもらった。
自分の物と他人の物は分けて
体育は刺激の少ない場所で個別で受けた。
それは、望んだものでもなく
致し方なく受け入れる現実だった。

時々莉沙は泣いた。
「もうイヤだ。自閉症なんかイヤだ。普通の子に産まれたかった。イヤだ」

私は、なんとも言えない気持ちで
けれど、莉沙の言う通りだと思った。
こんなにつらいなら。
それは健常児に産まれたかったと思うことは当然だろう。

他にも、友だち同士のトラブルもあり
莉沙は相手の気持ちを想像することが難しく
悪意はないものの、結果的に傷つけてしまったり
思ったことを口にしてしまうので
いつも、ひとりぼっちだった。

それでも、私にできることは
莉沙には莉沙のいいところがたくさんある。
できないことは助けてもらおう。
そのかわり
莉沙ができることは助けてあげて。
そうやって助け合って生きていくんだよ。
と、伝え続けること。

障害告知をしたことで追いつめてしまったのかもしれないと悩んだりもした。
でも、莉沙は
自身の生きにくさと戦いながら
人と繋がる糸口を探していた。

そうやって、思春期初期の高学年を
過ごした。


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