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莉沙の思惑

中学を卒業した莉沙は
最終の受験で滑り込んだ私立高校に通った。

全く、本人の希望とは違う
地域では「名前を書けば誰でも入れる」
というような学校だった。
だから、とても心配した。
投げやりになったのか。
将来の夢は捨ててしまったのか。

もちろん。
この子が生きていてくれるだけで充分。
という思いはある。
ただ
莉沙が、どういう気持ちで
この高校に入学したのか。
私は莉沙にも尋ねたけれど
「お金かかってごめん、ママ」と
別の答えが返ってくるだけだった。

入学式には出席したけれど
その後、あまり登校しなかった。
希望の高校でないから仕方ない。
とは言え
自分で決めたのに学校に行かないとは
どういう事なのか、分からなかった。

莉沙は
毎朝、目覚めると
朝食を食べてあとはひたすら
学習に取り組んだ。
そんなに勉強するなら学校に行けば?
と言うと
「私のことはいいから仕事に行けば?」
と、口答えするので
私は毎日イライラしながら職場へと向かう。

「莉沙ちゃん。今日も学校休んでるの?」
七福神の社長が面白いことを見つけたように笑いながら話しかける。

「そうなんです。
私、あの子の考えてる事、わかんなくって」
ムスッと答える私の肩を
トントンと叩いて社長は言う。
「大丈夫。なるようになるから」

本当だろうか。
なるようになる?
莉沙は、とりあえず入学したけれど
思ってた学校と違って
イヤになってまた不登校になってる。
これが義務教育ならまだしも
高校だ。
不登校なら、出席日数が足りなくて
留年してしまう。
あの子は、それを分かってるのだろうか。

日に日に焦る気持ちが
夏の終わり。
たまたま、莉沙の部屋へノックして入った時だった。
あいかわらず莉沙は
黙々と勉強していた。
あまりの過集中に「今日は涼しいからエアコン消しなさい」と声をかけても
全く気づかぬ様子で
「ねえ」と肩を触ると
「わあ!!」と目を丸く見開く。
「ビックリした!!ママ、いつからいたの!怖っ!!超ビックリしたんだけど!!」
と、リアクション芸人並みだ。

「さっき入ってきたとこだけど…」
と答えながら、なんの気なしに
莉沙の手元へ目線を移す。

莉沙が過集中に取り組んでいたのは
肺炎で受験を断念した
Y高校の過去問だった。

なぜ?

私の視線に気づいた莉沙は
笑いながら「でてってよー」と
問題集を隠す。
「なんで?」
今度は言葉にでた。

「なんで莉沙、Y高校の問題集やってるの?」

莉沙はイタズラがバレたように
ニヤニヤと笑いながら
そして、困ったなぁという表情で言う。
「高校浪人しよーかと思ったんだけどさ。」
高校浪人?

「でも、家に居たらダラダラしちゃいそうじゃん?だからさ。ゴメン、ママ。
私立高校にとりあえず入って
試験受けたり行事は参加したりさ。
普通の高校生活も体験しておいて
やっぱ私、Y高校行きたいんだぁ。
また、冬になったらもっかい受験させて!お願い!!ママ!!」

パチン!と手を合わせて
莉沙は両目をつぶり、すぐに
片目を開けて私の反応を伺う。

私は、思わず大きな笑い声をあげた。
それも、涙を流しながら。

若干、ひいた様子で見ていた莉沙の肩を掴み
「教えてくれてありがとう。
Y高校、受験しようね!」

莉沙は泣きながら大笑いする私を
まだ訝しげに見ながらも
「やったねー!!作戦大成功!!」
とバンザイする。

もう少し、相談するスキルがあればいいけど。
でも、ここまで1人で考えたのだ。
偉いと思う。
諦めていなかった。
夢をまだちゃんと追いかけていた。
私はそのことに、とても感動して
莉沙を誇りに思った。

莉沙は16。
あかりはもうすぐ14。

あとから考えると、あかりの事はいつも後回しになってしまっていた。
支援学校に任せっきりで
そのまま高等部に上がるのだし。
大人しくて素直だから。

あかりの異変に気づいてあげられなかった。
今思えば、本当に。
後回しだった。
1人親なのだから仕方ないと言い訳してた。

あかりの生理がしばらく止まってることに
あかり本人も、私も
気づかずにいた。

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