見出し画像

年長 揺れ動き

親子ペアトレーニングが始まり
個別セッションとは別に
2週に1度ペアトレがあるため
私達の生活は、打って変わって慌ただしく変化した。

旦那は不満さを隠す気もなく
「そんな場所に連れて行って、よけい莉沙がおかしくなったらどうする。
普通の子ども達と遊ばせた方がいいに決まってる」
そんな旦那の台詞に
あぁ。
やっぱりこの人だって気づいているのだ。
「よけいに」
「普通の子」
という言葉を使ったという事は、すでに普通の子とは違う。ことを指してるではないか。

だか、今そんなことを話し合っても
堂々巡りになる事は最近よく分かった。

「小学校の先生も通った方がいいっておっしゃるの」
キラキラの先生を通して、莉沙が通う小学校とも連携を始めたのだ。
まあ。
通った方がいいなんて言ってはいないけど。

小学校の先生。
というワードに反応して、旦那は突然記憶を無くしたかのように
黙って唐揚げを口に運び、ビールを飲み
「このピッチャーだめだな」
とテレビ相手に話しだす。

ペアトレでは、発達の気になる子。
すでに診断名がついている子。
色んな子の親が来ていて
家庭での声かけの仕方。環境づくり。など色んな勉強をするが
なかでも最後にみんなで
ウチはこうで…とお喋りするのが
何だか息抜きになるのだ。
「毎日わけのわかんないこと叫びまくってて」
「ウチもよ!もー頭ヘンになりそう!」
そしてみんなで笑う。
私だけではなかったのだ。
他にも子育てに手を焼いてる親もいる。
それが何だかホッとするのだ。

なかには、夫婦で参加するところもある。
羨ましいと思う。
旦那は絶対来ないだろう。
だが、ほとんどが「旦那の理解がない」ことで悩んでいた。

その時に聞いた。
「旦那なんかアテにしちゃダメ。適当な事言って、あとなたんなるATMと思えばいいのよ」
みんなが爆笑する。
「ほんとだよね!」
「頼っちゃダメだよ。無視無視!」

そうか。そうなんだ。
分かってもらおうとするから傷つくんだ。
そもそも話し合う必要なんてない。
悲しいことに、そういう現実にいるママは多かった。

まだ小さいから。
男の子だから。
少し遅いだけ。
さまざまな理由をつけられ
母の気持ちを無視する男たち。

私たちは、母親は
こんなにも苦しんでいるのに!!

気持ちは同じだった。
だから安心して私は居心地よくいられた。

だから、いつからだろう。
療育やベアトレの効果が出て
あなたが落ちついて生活できる事に
優越感のようなものを感じただろうか。

いや違う。
あなた達の子とは違う。

就学前相談でも、大人しくお絵描きをしている様子を見て
診断名がついてないなら、支援学級に入れる必要はないでしょう。
と、教育委員会に言われて
すっかりいい気になっていたのかもしれない。

診断名がついていないのは
単にまだ、検査を受けたことがないというだけなのに。

次第にベアトレの参加は減り
セッションも休みがちになった。
かわりに、近くの公園でいわゆる「普通の子」がいる時間帯に合わせて
遊ばせたりした。

以前はトラブルばかり起こしてたあなたが
ルールを守り、手を出さずに遊んでいる。
「どこの幼稚園に行ってるんですか?」
キラキラにはいない、普通の子どもを育ててる、普通のママに話しかられ
「越してきたばかりで。どこにも通ってないんです」
ウソをつく。
なぜか、その事に敏感に反応したそのママは
「ウチの園、年長はまだ空きあるって言ってたよね!この子どこにも通ってないんだって!」
とママ友に言い。
なぜだか、よくわからないまま
面談でも大人しかった莉沙は
年長の秋から急に幼稚園に通うことになった。

その頃には、すっかりキラキラには通わず
「今日もお休みします」と連絡することも
億劫になっていた。

幼稚園は、全く違う。
先生の指示は大きな声で楽しく
ガヤガヤと賑やかで
子ども達ははしゃいで活発なうえ
聞き分けがよく、お利口だ。
この中に莉沙はいるのだ。

ほら。できるじゃん。
旦那も最近は機嫌がよく
とても落ちついて幸せだと思ったのは
いつまでだったかな。

運動会ではあなた1人が組体操に参加できず、かけっこも嫌がり、ダンスは耳を塞いで泣き通しだった頃からだったか。

秋の遠足でバスの移動が嫌だと叫び続けて、バス内がウンザリした空気になった頃だったか。

冬の発表会でみんな頑張った練習の成果を発揮すべく、一生懸命踊ってるところを
あなたが突然衣装を脱ぎ始めて
止めに入る先生に噛みついて
近くの女の子の髪を引っ張ってぐちゃぐちゃにして
「うるさーーーい!!やり直して!!そうじゃないの!!やり直して!!やり直してって言ってるでしょう!!」
と、暴れた頃だったか。

どれにせよ。
魔法がとけるように
療育をやめたあなたは
元の莉沙に戻ったのだ。

やり直してと大声で泣き叫ぶ莉沙に。

「莉沙は莉沙だろ」
旦那の言葉が聞こえる。
そう。莉沙は莉沙。
分かってないのは私だ。
発達障害じゃない。
普通の子だと、こだわったのは私だ。

だから、小さな亀裂から溢れ落ちる不安は
やがて息もできなくなるほどに
現実を見ない私に流れ続けたのだ。

携帯を取り出す。
キラキラにかける。
「こんにちは。子ども発達相談キラキラです」聞き慣れた明るく優しい声がする。
この声にすらイラついた自分が情けない。

「莉沙ちゃんのママ?」
いつも通りの暖かく心配そうな声。
私は続ける。

「莉沙の、発達検査を受けたいんです」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?