見出し画像

入院生活

すぐに退院すると思った入院は
春になっても続いていた。
半年以上が過ぎて
病棟内でお花見をした。
夜中に星を見に連れて行ってくれた。
仲良くなった友だちと騒ぎすぎて、看護師さんに怒られたけど、笑いが止まらなかった。

どれも、年頃らしい微笑ましいエピソードではあるが
「精神科病棟」での出来事。
これが、外の世界であったら
どんなに嬉しいだろうと思いつつ。
それでも、莉沙の明るい報告はやはり
嬉しかった。

少しずつ減薬を始めた頃から
莉沙の問題行動が目立ち始めた。

他害、自傷はもちろん。
医師や看護師の気をひく為わざと
奇声をあげたりパニックのような様子を見せたりするとのことで
なかなか、減薬は進まなかった。

安定しては、不安定になり
その繰り返しをしている間に
季節は夏になり
入院生活は1年になっていた。

もう、その頃には
一時外泊の際に、静かな病棟と
いわゆるシャバ?外の世界とのギャップを感じ、外泊のたびに盛大にパニックを起こし
1泊もせず、病棟に戻ることが増えた。

あなたの中学校は、いつも
あなたの名前の靴箱、机があるのに
莉沙本人はいない。
名前だけが、進級する。
ねえ。莉沙。
2年5組だって。
若い男の先生だったよ。

いつか。
この世界に帰れるだろうか。
不安は尽きない。

そんな中あなたは
病棟の友だちや看護師さん達と
その頃には与えた携帯電話で
楽しそうにお喋りをする。

「ママ!聞いて!
はなちゃん!私よりひとつ年上の!
はなちゃんは虐待でここに来たの!
でも明るくて元気!仲良しなの!
私も元気!
ゆうこちゃんは年下だけど、大人っぽいよ!色んな事を知ってる!
看護師さんに代わるね!
ホラ!喋って!ホラ!
きゃーーあっ!逃げた!
もーー!ごめーんママ、また電話するね!バイバイ!!」

こんなにはしゃいであっけらかんと話す莉沙。
あー。そうか。
昔の、元の莉沙だ。

私は携帯を片手にクスリと笑う。
元の自由で奔放な莉沙。

もしも。
私が、全くお門違いの場所に連れて行かれ
ここで暮らしてね。と言われたら
元の自分を失くして
大人しく縮こまってやり過ごすだろう。

だけど、過ごしやすい場所に移されたら。
私は、息を吹き返したかのように
自分らしく伸び伸びと
生きるだろう。

「環境なんですよ。環境さえ整えてあげれば、ちゃんと過ごせる」
と、話したキラキラの先生の言葉を思い出す。
それは、障害の有無に関係ないかもしれないけど。
障害があれば、余計に必要であることは
明白だ。
莉沙は、安心できる環境で
安心して過ごしている。
だからこそ、あんなに安心した声を出せるのだろう。
 

気持ちのギャップはあった。
あかりは支援学校に転校したが
地域で育っている。
同じ姉妹でも、病棟生活の姉とは
ずいぶん違った。
不安で押しつぶされそうな時もあった。
もうだめだと、くじける時も。
それでも
「人それぞれの環境」
みんなが過ごす環境で過ごせなくても悪いことじゃない。
本人が、幸せと思う環境で過ごすことが
大切なんだと。

思っていたのか
言い聞かせてたのかは
分からないけど
今でも、私は
そうやってやり過ごした時期は
それはそれで、よかったと自負してる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?