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大きな傷跡

支援学校には妊娠を伝えた。
先生方はもちろん驚いたけれど
あかりが○○先生からされた。と言ってるんです。と言った途端
なんだか、態度がよそよそしくなった。
証拠がある訳ではない。
もともと、あかりには
男女問わず馴れ馴れしいところがあった。
まるで、あかりに落ち度があるように。
教育委員会も
自閉症の子どもの話を100%信じるのか?と
冷たく吐き捨てる。

なぜ。
こんなつらい思いをして
そしてまた傷つけられなければないないのか。


支援学校は退学した。
フリースクールに少し通ったが
やはり、精神的な不調がきたため
精神科に入院した。

堕胎手術の際、全身麻酔ではあったが
あかりは「痛い痛い!!」
と泣き叫んで起き上がって暴れたらしい。
その声は待合の廊下まで聞こえ
私は驚いて尋ねると
「さすがまだ中学生だから。元気があるね!全麻でも動けちゃうんだから!」
と産婦人科医は陽気に笑ったが
麻酔で覚えてないはずの
「痛い痛い!!」を夜中も朝も昼でも
叫び続けるようになった。

本当に、手術のことだけかは分からない。
性交渉の際も、そう叫び訴えたのではないだろうか。

他にも腕を噛みちぎり肉が見えてしまう自傷行為や、幻覚幻聴に悩まされ
眼球に指を入れたり
耳を壁に打ちつけるなど
大人しかったあかりからは
想像もできないほとの混乱が続いた。

とにかく。
今のあかりには、心の大きなダメージを回復させる居場所が必要だった。
精神科入院前夜。
持っていけるものはルールがあるけど
何がいい?と尋ねると
赤ちゃんの人形を差し出した。

いつ、そんなもの買ったの?
産まれることのの出来なかった赤ちゃんが亡霊のように現れたように見えて
胸が締め付けられ、声がかすれた。


「お姉ちゃん」

莉沙が?
莉沙が、人形を。しかも
赤ちゃんの人形を買い与えたの?

混乱しつつ
でも、真実を早く知りたくて
駆け込むように莉沙の部屋に入る。

「わあ!!ビックリしたぁ!」
あいかわらず勉強していた莉沙は
あいかわらず、すぐビックリする。

これ!!
赤ちゃんの人形を差し出す。
莉沙は
一瞬暗い表情をしたかと思うと
「可愛いでしょ?あかりに買ってあげたの」

「なんで?」
可愛いから。
「なんで?」
あかりが喜ぶと思って。
「なんで?」
ダメだった?ママ。

違う。
なんで。
赤ちゃんなの?
なんで、赤ちゃんの人形なの?
なぜ、今、赤ちゃんの人形なの?

その言葉が出ない私に
莉沙は真っ直ぐな目で
「ママはあかりを守って。私は大丈夫。あかりを見てあげて」

その言葉で全て理解した。

莉沙は気づいていた。
妊娠も中絶も。
間違ったことが行われたことを。

一体どれだけ泣いただろう。
もう
生きているのはイヤだった。
いなくなりたい。
なぜ、私の娘たちはこんなにも
つらい思いをしなければならないの。
未来は絶望しか見えなかった。

だから莉沙が
「たぶん受かるね。過去問余裕。
私が医師になってラクさせてあげるから、ママー、待っててよ!」
iPadでゲームをしながらアイスを食べながら器用にパソコンに今日の学習をまとめながら
なんだか説得力がないように
サラリと言う。


それでも、生きていく。

つらくても悲しくても
理不尽でも不公平でも
もう、生きていくのはうんざりだ。
と泣いてもいい。
それでも立ち上がり、私たち親子は
何度も立ち上がり生きてきたのだ。

だから、そう。
生きていく。

すぐに、あかりは莉沙と同じ
思春期病棟に入院した。
眠剤を飲み、比較的睡眠はとれているが
フラッシュバックが日々ひどくなってきているとの事。
長期戦を覚悟してほしいと言われた。

それでも生きていく。
莉沙と、あかりが
生きていてくれさえいれば
もう、それでいい。
私が支えるのは子ども達であり
私を支えてくれるのもまた
子ども達であった。



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