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前を向いて歩いてゆく
中学生になる頃。
同じように、移行支援会議を行った。
小学校のときは、まだ障害について知識がなく
診断名もついたばかり。
オロオロと部外者のような参加だったが
今回は、莉沙本人の
自閉症の特性を伝えることができた。
アンバランスさを持っています。
普段この子は大人びた口調で話しますが、実際の本人は同じ年頃の子よりも幼いです。
理解はある程度できても感情のコントロールが難しく、分かっているのに怠けているように見えたり、ワガママに見えるかもしれません。
二次障害があり
強迫観念、抑うつなどがあり
環境や対人面に問題を抱えています。
その際、他害やパニックを起こすことがあります。
言いながら、おでこに汗が出るのを感じる。
なんて女の子だろう。
こんなに問題ばかりで、普通の中学校に通ってもいいものだろうか。
聞いてる先生方は今まさに、ウンザリしてるのでは。
それならばなぜ、支援学校に行かないのかと思ってるだろうか。
俯いて手を握ると、じんわり痺れていた。
「大変な育児をされてるんですね。お母様のお気持ちはしっかりと伝わりました」
ハッと顔を上げると
女性の校長先生が心配そうに、こちらを見て
そして続ける。
「中学校は小学校と違って、多感な時期の生徒がたくさんいます。
そして、何より教科担当制であるため、クラス担任または支援学級担任も、ずっと莉沙さんに付き添うというような
今までの形とは変わります。
それは莉沙さんにとって大きな変化です。
その不安を少しでも緩やかに。
安心と安全を守っていけるよう、私たち教師が特性理解に努め、支援していきます。
力不足な面もあるかもしれませんが、どうか中学3年間よろしくお願い致します」
深々と校長先生が頭を下げられたのを合図のように、他の先生方もそれにならう。
こんなに。
小学校入学の際の会議を思い出しても
こんなに、理解はなかった。
狐にでもつままれたような気持ちと
嬉しさと安心で
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致します」と
首振り人形のように、ペコペコとお辞儀を繰り返す。
同席し、ご助言して頂いたキラキラの
はるみ先生となつの先生が
「いい学校でよかったね」
と、手をとって喜んでくれたのは
会議が終わり、学校の中庭だった。
「はい!!」
まるで私が中学生かのような
キビキビした返事に一瞬3人で笑い
そして、はるみ先生が言った。
「6年間てね。長いようで短くて、時代も変わっていくの。
発達障害への理解も、全てにおいてとはまだ言えないけど、徐々に浸透してる。
さっきの校長先生の言葉でわかったでしょう?」
また私は、首振り人形のようにうなづき続け、それを見たなつの先生が笑い
「テレビや色んな影響もあるかもしれない。
でも、莉沙ちゃん本人当事者からの発信や、お母様の積み上げてきた努力が周りを変えていったことも確かなのよ」
私たちが周りを変えた?
にわかには信じがたい言葉だが。
それでも嬉しかった。
諦めなかったこと。
周りとの差にくじけても信じたこと。
そして何より
莉沙本人が、決して
諦めず、くじけず
前を向いて歩いたこと。
中学校生活もまた、色々あるだろう。
いや。
今までより、思春期真っ只中。
諦めたくなりくじけそうにもなるだろう。
でも。と思って
中庭を歩く1人の女子生徒を見る。
彼女は、発達障害だろうか。
健常児だろうか。
見た目には分からない。
分からないから、理解は難しい。
目が見えない人にメガネをかけるなと
歩けない人に車椅子を使うなと
言わないように
見えない脳の障害にも配慮を。
どうか、平等な人生をこの子が歩めますようにと。
願わずにはいられない。
だからこそ
諦めない。
くじけても、泣いても、周りを羨んで自己嫌悪を陥ったとしても。
前を向いて歩いてゆこう。
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