見出し画像

解釈力


 5月から個人的な事情で他の施設にアルバイト先を変えた。
本業の予定と介護アルバイトの予定、すっぽかすニアミス的なヒヤリを経験してしまったので、自宅から数分のところにある
有料老人ホームにアルバイト先を変更した。今まではグループホームという小規模の施設だったが、そこでは90名ほどの認知症の老人を相手にする施設だ。今までの感じとはだいぶ異なり、ヘルパーの数も多いし、ちょっとした病院みたいな感じだ。
一日中お風呂介助を行ったり、トイレ介助をすることもある。掃除や居室清掃は専門のスタッフがいるので、介護士が行うことはない。ただ、その規模感、賑わいに圧倒された。
 自分にできるだろうか、、、そう怖気付いたのを覚えている。初日はアイドルタレントみたいに可愛らしい若い女性介護士が仕事を案内してくれた。介護っていうとおばちゃん、というイメージだったけど、今は、結構若い女の子も多く働いているんだな。しかも、テキパキとオムツ介助、トイレ介助をしている。立派だ。
いろんな人がいる、グループホームの時は、おばあちゃんしかいなかったけど、ここでは、おじいちゃんの入居者もそれなりにいる。まぁ、全体的には女性が多いけど。長生きは女性か。
その施設にはフィリピンからきている女性介護士が5人ほどいる。夜勤もこなす、パワフル、なんとなく、
ガンダムのガイア、オルテガ、マッシュ、を思い出す。腕利きの傭兵みたいだ。
入居者の顔と名前を覚えるのに一苦労だ。
認知のレベルに差があるので、ほとんど言葉を言えない人もいれば、忘れはあるけど、言葉でのコミュニケーションを取れる人もいる。ある日、トイレ介助で97歳のおばあちゃんを解除した時だ。その人をKさんとしておこう。
Kさんは、チャキチャキの江戸っ子だ。一生懸命介助をしていると、
「あんたねぇ、ありがとね。助かるよ。」
「いやぁ、こちらこそ・・・と言いたいけど・・・」また一言余計なことを・・・
「なんだい?言ってごらんよ」
今までより介護士が多いので、あまり大きな声では言えないが、
「すみません、本当は・・・介護をやりたいわけではなくて、今仕事がうまくいかないから、なんとなくやってるだけで・・・」
Kさんカカカと笑い
「そんなことかい、あんたは、本当は別の仕事をやっていた、でもうまくいかないから、介護を一時的にしている、っていうわけだね。
でもね、今はそれでいいじゃない。物事を悪く取っちゃいけないよ。
今あんたが道を外れてやりたくもない仕事をしているのは、何か必要だからやってるのさ。
やりたくない、意味のない、確かに私ら年寄りの相手はキツイと思うよ。感謝だよ。
でも、あんたね、人生なんて悪いことが7、いいことが3あれば上々よ。
だから、今介護をしているのも、今の自分に何か必要だから神様がやらせてるんだって解釈するんだよ!」
 大いなる何か、神、そう言った大いなる存在が俺を良い方向に導くってこと?
心の中でそう思った。
「いいかい?あんたね、人間成長した時って、順風の時かい?違うだろ?今のあんたがそうだ。苦労して、挫折、敗北を味わったから、人間の厚みが出てくるんじゃないかい?そんな時に人間は成長するんだよ。うまく言ってる時はどうしても天狗になっちまうよ。だから、あんたがもっと良い人生になるよう今があると解釈しなさいよ!
そうそう、幸運はね、不運のふりをしてその人の前にやってくるものさ!」
 Kさん、深いよ。
「あ、でもお小水も出ないねぇ、ごめんね、終わりにしてよ」
飄々としたKさん。
 今日も何か一つ学ばせてもらいました。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?