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緊急事態宣言とオリンピック

2021年7月。新型コロナウィルスの第五派が現実となった。感染者数がみるみる増加していることを連日のテレビニュースで報道される。梅雨も明け、猛暑の夏が今年も来た。マスクをするのも非常にきつい。外を歩いているときはマスクを外して、店に入ったり、電車に乗るときにマスク着用のように自分なりに調整するようになった。街を見渡しても、4月の頃のような外出を控える人はいなくて、マスクは着用しているけど、普段の日常になっている。国民はオリンピック開催について疑義を唱え、オリンピックに関わる人々の連日のスキャンダルにも正直うんざりしている。子供の運動会やピアノの発表会はできなくても、オリンピックは開催する。大した感染者数ではないのなら、オリンピックができるなら、子供たちの修学旅行、運動会なども感染対策をしているわけだからやってほしい。オリンピックに反対ではないが、その矛盾がどうしても頭から離れない。
 そんな中、5回目の緊急事態宣言が発令された。西村大臣は、酒を提供する店舗に対して、酒類販売をやめないなら、金融機関からも脅しをかけて酒販売を控えさせるような要請をしていて、それに国民から反発があり、翌日謝罪に追い込まれた。
政府はお願いをしているだけで、もし、要請に従って酒類販売を控えて売り上げが下がっても、
「だって、オタクが自主的に販売をやめただけでしょ?」
と言う筈だ。そう言うこともあってか、国民もこの緊急事態宣言をもはや聞き流している状態だ。街中でも人で溢れかえっている。
 僕はといえば、状況は改善せず。保険を取り崩してアルバイトの介護を続けているが、どこまで持つのか不安だ。今できることは企画を書いて周りを巻き込んで実現すること、介護のアルバイトを頑張ること。この2点だけだ。
ある日、アルバイト先の介護施設での業務中、一人のおばあちゃんが話しかけてきた。
「あんた、南京町って知ってるか?」
と、突然。
「ああ、昔の中華街のあたりのエリアでしょ?」
「そう、そこに私は住んでたんだけど、横浜大空襲ってのがあってさ」
「横浜にも爆弾が落ちたの?」
「そうだよ、でも爆弾っていうか、焼夷弾だね」
「焼夷弾?」
「焼夷弾ってのは、花火みたいでさ、ヒューって綺麗な花火みたいに光って落ちるんだよ。それでさ、毎日6時半頃になるとサイレンが鳴るんだけどね、それまでに夕食を済ませて、サイレンが鳴ったらみんなで防空壕に避難するのが決まりだったんだ。でもね、毎日毎日サイレンが鳴って、B29が来るでしょ。もうみんな慣れっこになっちゃって、サイレンが鳴ってB29が来るとみんな外に出て、遠くの空から焼夷弾が落ちるのを見てさ、
みんな、オー!なんて声あげて観覧するような始末さ」
「私たちのところは電気もつかないから真っ暗なんだけど、B29の操縦席は電気で明るく灯されてるから、中が見えるんだよ。アメリカ人の若い兵隊さんが2、3名乗ってるんだ」
「ボヤーっとそこだけ光って見えるのさ。B29のシルエットもよく見えてね、私なんて、B29絵出かけるよ」
そう言いながら、スーパーのチラシの裏に鉛筆で描き始めた。
なんでそんなこと言うのかな?と思ったら、目の前の大型テレビで、今の緊急事態宣言に対して、街で国民が気にせず外に出ていることをワイドショーで取り上げているのを聞いて、そのおばあちゃんは話し始めたんだな。そう思った。
「そいでさ、長屋の家の2列目の家は全部壊すのさ、なんでかって?焼夷弾が落ちても火が燃え移らないような処置だったんだね。今の山下公園にあるホテルニューグランドに行って、学校の先生からの命令で肥やしをホテルからもらってきて、その辺に畑作って野菜作ってしのいでたんだよ。あたしらの時代はそんな時代。焼夷弾の不発した爆弾を翌日、警察や役所の人が配線をちょん切って爆発しないよう処理していたよ「
「まさに学徒動員!そんな時代でね、もう戦争はこりごりだよ」
遠くを見つめるような目でそのテレビを眺めながらポツリと呟いた。
 認知症のおばあちゃん、でも、テレビを見ながら昔を思い出して、今の状況がかつての日本の戦時中の状況と重なっていることを暗に示していると感じた。
 認知症だから、何もわからないわけではないんだな、そう思った。

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