孤高の赤い宇宙(NFT作品の感想)
こちらは2022年12月30日に、国内NFTサイトのHEXAにて私が購入し、保有中のNFT絵画です。
作品の感想を書くことを目的にしているため、作者名はあえて明記しませんが、作品詳細はHEXAサイト内を参照ください。
まず第一印象として、黒い線で『何か』が描き込まれていますが、それが具体的な形にまとまっていない、つまり全体として何か具体的なモノを表していない。むしろ、線の繋がりから何も読み取れないように、モノの輪郭どころか、線の輪郭が持つ意味すらも可能な限り消しています。
『ごちゃごちゃした金属の破片や廃材のような何かの集まり』、と言った感じはします。
あるいは『騙し絵的な錯覚としての何か』に見えることはあるかも知れない。
だからといって、『絵のモチーフ(主題)となるような何か』を、黒い線によって具体的に意味付けしよう、としている感じがしない。
(黒い線によって描かれるような絵画はほとんど、『何か』を描こうとしているか、『何か』をなんとなく描いてしまっている、または『何か』をイメージさせたり、『何か』の意味付けをされていることと対比すると、かなり珍しい)
描き込まれた黒い線は非常にはっきりしているが、そこから読み取れるような具体的なモチーフが、限りなく無い。
画面の全体的な線の流れから、絵の中央付近に視線が誘導されますが、中央付近に何か手がかりになる意味らしきものがあるわけではない。
この絵に提示されているモチーフが、単なる『ごちゃごちゃした何かの集まり』では無いこと、視線を誘導された中央付近には『強調したい何か』があるわけでもないことは、わかる。
では何か非常に抽象的な概念を表しているか、と言えばそういう感じではなくて、黒い線が非常にはっきりしているから、絵から受ける印象自体としては、モチーフになっているであろう『何か』の輪郭だけが際立つ。
(ちなみに同じ作者の他の作品のいくつかでは、線ではなくて多様な色彩で、これと同じようなモチーフを表現しようとしたらしいことが読み取れます。
そして、黒い線を使った作品もいくつかあるが、そちらはこの作品よりは、黒い線の集まりが何かもう少し具体的な、何らかの形になっている。ただ、それらはまだ『モチーフとなっている重要な何か』を描けていない感じがする。
つまり、色彩や線で『何か』を表現したくて、試行錯誤している形跡が見て取れます。ただしそれは、『はっきりと、具体的に描いて示せるような何か』ではないらしい。)
つまり、『線によって視覚的に表現できるような、具体的な何か』でないとすれば、この絵は『抽象的な何か』、または『作者自身の心象』を表しているらしいのはわかりました。
そして、『抽象的な何か』を描くには、表現として輪郭をはっきりさせようとし過ぎていることは先に書いた通り。
だから、絵のモチーフになっていて黒い線の集まりが示している『何か』は『作者の心象』であろう、ということになる。
そしてこの作品については、背景が赤一色にまとめてあります。
(作者は、色彩を多用する作風のようで、そういう意味ではこの作品だけは異質。)
黒い線の繋がりは、絵の表面的な意味を可能な限り消していますが、赤い背景は黒い線をますます強調し、それによって黒い線の輪郭が絵の全体を隈なく、隙間なく印象深いものにしている。
細かい黒い線と赤い背景が、互いに絵の全体的イメージを強調するように作用している。
絵の全体的な密度が非常に濃く、しかも輪郭がはっきりしているから、モチーフである心象が非常に強いイメージとして提示されている。
そのような強さ、つまりエネルギーの方向性が、絵の中央に向けて収束しているのか、むしろ絵の外部に向けて膨張しているのか、どちらにもとれますが、どちらにもとれるからそれがむしろ絵の全体的な均衡を保っている。
無意識的な混沌のエネルギーではなく、基調としては秩序と均衡のバランスが感じられる、と言うことです。
つまりこの、黒い線と赤い色で統一された四角い絵の内部は、独自のエネルギーの均衡を持った空間を形成している。それは外側に向かう広がりを示し、内側に向かっていく性質も示す。
そのような均衡の中でこの絵は、この絵を観る者の鼓動に呼応して、活き活きとした膨張と収束を繰り返している。
それは宇宙的であり、同時に活きた人間の心の動き、命そのものである、と考えられる。
絵は【自分自身の内側に広がるイメージの世界】を、【自分自身の点と線と面、自分自身の色彩と陰影】で描くとき、非常に印象の強いものになる。
この絵も、それを示している。
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