日韓の輸出管理強化でダメージを与えている相手は自国の先端技術産業

日韓の輸出管理強化が煽情的にニュースを賑わせています。輸出管理というあまり馴染みがないものへの誤解もあったように思います。元輸出担当者の視点から、今回の日韓の急な変更が輸出ビジネスに与えるダメージと、安全保障への影響を考えます。

輸出管理とは

以前輸出の仕事をしていたので、輸出管理の話はすごく気になります。だいぶ理解が進んできたかと思いますが、輸出管理は、輸出する物品・技術が武器等の製造に使われる恐れがないか、あらかじめ決めたチェックをするという手続きです。恣意的に取引を遅らせたり停止させたりするものではありません。それをするのはWTO違反です。

輸出管理強化の影響・輸入側は短期的

まず日本が韓国向け輸出管理を急に厳しく変更したことにより、購入している会社では、従来のリードタイムより納期が長く掛かることで、在庫が不足して欠品する恐れが出ています。逆も同じです。

輸出許可は3か月で出ると言われていますので、その後は3か月のリードタイムを見込んで在庫計画を組むことになります。当初の混乱が落ち着けば、納期が長くなるというマイナス点だけになります。

輸出管理強化の影響・輸出側の3つのマイナス

輸出する側である自国にも、経済的には3つのことがマイナス材料です。1つは、該当する輸出企業に煩雑な手続を増やしたこと。2つ目は、顧客に不安を与えたことで別の取引先(もしくは自製)を検討することを促し、輸出企業にダメージを与えたこと。

対象となる物品・技術は、武器等への転用が問題となるような先端技術です。電子部品の原料など、これら先端技術は日本にとっても重要な成長産業です。米中貿易摩擦で腰折れ気味の産業に、政府自らマイナスの影響を与えているといえます。

3つ目は、日本にも政府の政策により経済活動が急に制限される「カントリーリスク」があるということを世界に認識させたこと。日本企業は、他のアジア企業と比べて、判断も遅いし納期も遅いけれど、取引の安心感は別格でした。これは品質の安定性と並んで、隠れたセールスポイントだったのです。ここに傷が付いたのは、元輸出担当者としては残念です。

尚、ここまで一対一の話をしましたが、日本と韓国、そして中国、アメリカは、スマホなど電子機器の生産で密接に関連しています。どこかの国で生産が止まれば、ほかの国でも関連する材料の生産は止まります。iPhoneが売れなくてジャパンディスプレイの経営が傾いたようにです。相手国に影響が出れば、自国にも影響は及ぶのです。

充分な予告期間を取れば経済的な問題は避けられる

実は、輸出管理を厳しくするとしても、充分な予告期間があれば、在庫を確保できるので(経済効率は落ちますが)経済的には深刻な問題にはならないのです。感情的な両国政府の動きが自国の経済基盤を傷つけていることを認識してほしいと思います。

安全保障と密接な関係にある貿易管理

そして間接的ですが結果として懸念されるのが、安全保障です。輸出管理は、輸出された物品・技術を使って武器やミサイルなどを作らせないことを目的としています。過去にはココム規制(対共産圏への輸出規制)という枠組がありました。現在は建前としては世界的な貿易管理のしくみを前提にしており、敵味方でルールを分けているわけではありません。
(日本の指定する輸出管理手続不要国「ホワイト国」(グループA)のリストは、ほぼ旧西側先進国+韓国で、個人的にはアメリカの同盟国+αに見えていたんですが)

輸出令別表第3の地域:
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
(経済産業省HPより)

しかし、輸出管理がそもそも安全保障の一環であることから、輸出管理の優遇措置を外すという日韓の動きは、アメリカ主導で運営されてきた東アジアの安全保障体制を否定する動きに見えます。アメリカも他国への関与の意思が薄れていると表明しているので、ロシアや中国などから見ると、これまでのパワーバランスを変更する大チャンスというわけです。

経済や安全保障など幅広い影響を考慮して

国際政治はリアリティです。パワーバランスには仲間づくりやソフトパワーも含まれます。日韓の輸出管理強化は、大きな構想なしに、バラバラに現在の安全保障体制を否定している危険なメッセージに見えます。他のプレイヤーの動きを視野に入れて冷静に駆け引きを組み立てる必要があります。

また、国の力である経済をどの分野で支えていくかというプランと、自国の成長分野にダメージを与える政策に整合性はあるのでしょうか。目先のメンツにこだわるのではなく、幅広い影響を考慮した最適解の落としどころを交渉してほしいと思います。

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