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学振若手研究者海外挑戦プログラムで韓国へ調査に行った話③:渡航までのゴタゴタと採用のために

日本学術振興会の「若手研究者海外挑戦プログラム」を利用して、韓国・ソウルへ研究留学に行きました。過去の支援先を見ても、私以外に韓国滞在の例はほとんどなく、政治学でアジア方面に研究留学される方も少ないようです。そこで本記事ではプログラムに採用後、渡航にいたるまでにやったこと(+ゴタゴタ)と採用のための経験談について書いています。(連載:第3回)

渡航までのゴタゴタ

Day46 関係各所との調整に追われる

採用の連絡があった翌日、ちょうど指導教員との面談があり、直接報告しました。激励を頂いたのを覚えています。
(おそらく助成関係でいい報告をしたのはこれが最初だった気がします…)

ちょうど面談を前後して学振からメールがきました。
採用の際には受け入れを承認する書類を提出しなければなりません。渡航間近なので手引きを確認して必要書類を提出するように、とのことでした。

また大学での手続きと同時にビザの申請もしなければなりません。当時コロナ禍だったこともあり、申請から許可まで1ヶ月ほどは見積もっておかなければならず、ギリギリの申請になったのを覚えています。

ちなみに韓国では雇用関係がない場合、大学側は留学ビザ(D2)の書類しか発給できないそうで、私も実質的には「研究員」待遇でしたが「外国人研究生」という身分で渡航しました。仮に現地で非常勤講師などをして大学に雇用される場合は、就業ビザで渡航することが可能だそうです。

私は雇用関係のない身分として大学に通うので「研究留学」(D2-5)のビザを申請しました。
この場合、必要書類が正規留学(D2-1など)や語学留学(D4-1など)とはやや異なります。詳細は各在外公館のWebサイト(例:駐大阪大韓民国総領事館)に書いている通りですが、「外国人研究生確認書」や「研究計画書」「大学の事業者登録証のコピー」などが必要です。「研究計画書」以外は大学で書類を作成してもらう必要があります。

またビザ申請の際の書類は原則、原本提出なので、韓国から書類を送ってもらわなければなりませんでした。
(*これは2021年当時の情報です。現在私は2度目の長期滞在をしていますが、この時はメールで書類をやりとりし、印刷したものを持っていってもOKでした。各在外公館に問い合わせるのがいいかと思います)

私は受入機関の担当係に連絡をしたところ、DHLの空輸で原本をすぐに送ってもらいました。本当に助かりました…

そもそも韓国の大学、大学院の全てに以上のような受け入れ制度があるわけではありません。
ただ公開されている情報だけが全てではないですし、場合によっては対処してもらえることもあるので、受入機関の事務の方と入念に打ち合わせすることが大事です。

実際、私が在籍した延世大学国際学大学院も公開された情報があったわけではありませんでしたが、受入教員と研究科長のご厚意もあり「外国人研究生」として在籍させてもらうことになりました。

韓国ではなにごとも物事が一つ動くとすぐに全ての手続きが進む気がします。
滞在費の目処がついたあと、事務の方々はすぐに書類の手配や寮の手続きまでしてくださいました。おかげで私は日本にいながらスムーズに韓国渡航の手続きを進めることができました。

ちなみに現地の滞在先についてですが、韓国(特にソウル・首都圏)の不動産事情は留学生にとって費用や環境の面で最悪であるだけでなく、海外からの契約は煩雑なので、可能なら大学の寮・宿舎に入るのが無難だと思います

ただ寮についても受入機関での待遇・身分によって入居可否が変わりうるので確認が必要です。私の場合はこれまた受入機関のご厚意で研究員や外国人教員、客員教員用の宿舎に入れさせていただくことになりました。本当に感謝感謝です。

Day30 まさかの問題発生…

採用決定からビザ申請までスムーズに手続きが進んだのはひとえに受け入れ教員と機関の研究科長、そして受け入れ機関の事務の方のおかげです。

コネクションがあるとスムーズに進むということもありますが、ただのビジターで学科には1銭も落とさない私のために親切に迅速にご対応いただきました。感謝してもしきれません。

しかし「障壁」は韓国側ではなく、まさかの日本側にありました。
当時所属していた大学から渡航にストップがかけられたのです。

当時コロナ禍で大学は「活動制限指針」や「ガイドライン」を設け、学生・教職員の教育・研究・課外活動に制限を設けていました。

その中で、大学側は「自主規制」として学生・教職員に対し、海外渡航にも制限をかけていました。具体的には外務省の渡航制限レベルが2以上の場合は、交換留学などの卒業に必須の正規プログラムを除き、一律で渡航を禁止するというものでした。

2021年8月当時、渡航制限レベルが1以下である国は(ほぼ)ありませんでした。
なぜならコロナの特例でほぼ全ての国の制限レベルが引き上げられていたからです。

渡航間近になり、どこかで私の渡航計画を聞いた、とある事務が私に直接メールで「渡航を中止しろ」との趣旨の通達を出してきました
(それも渡航1ヶ月を切っていた時点で連絡してきました)

しかし、一律で海外渡航を制限するならまだしも、学内の正規プログラムであれば渡航できるという理不尽なルールが運用されていたわけです。外部資金に申請し、獲得してきた私としては到底納得がいきません。

すぐに指導教員と面談しました。ただ指導教員もルールに携わった側ではないのでどうしようもないとのことなので、渡航期間の変更を軸に相談したのを覚えています。

一方、こんな理不尽なルールで諦めるわけにはいかない私はこのルールを作成している部署宛にメールを送り、相談の機会と説明を求めました。
(ルール作成の部署は通達を出してきた部署とは異なる部署です。問題を訴える際には、可能ならルールを作って運用している人に連絡するのが大事ですね)

連絡の後「部内で相談する」の旨がメールで返ってきました。
その後、1日もしないうちに所属研究科の担当係から電話があり、海外渡航の担当部署から「渡航を認める方向で調整する」との連絡があった旨、お知らせいただきました。

どのようなやり取りが裏でされたのかは分かりませんが、結局、その後大学の指針は変更され、担当部局長の許可を得た者に関しては渡航できるルールに変更されたようです。
(指導教員は私がきちんと事情を説明したからだとおっしゃっていましたが、通達を出した課ではない課の学振担当の方が事情を説明してくださったおかげだと思っています)

こうして私はなんとか韓国への渡航が許可されました。

短期間での韓国での手続きや学振への書類提出、ビザ申請で問題が発生したわけではなく、まさかの所属機関に渡航を止められるというハプニングがありましたが、私はなんとか韓国に渡航することができました。

採用のために

学振は全体的に運の要素も大きいと思います。審査セットが誰になるかによって、他の申請者の研究がどれくらいの評価を受けるかによっても違うのではないかと思います。

その中でも若手研究者海外挑戦プログラムは採択率が比較的高いことから、不確実性がいくぶん和らいでいる助成だと思います。また申請書内容ファイルはたったの2頁であり、申請書執筆のコストが学振DC・PD・海外学振に比べると小さい助成です。例えば、DCの申請書を大幅に圧縮して書けば、申請書を書くこと自体はそれほど難しくないかもしれません。

さらに審査セットが学振DC・PDとは異なり広いため、DC・PD等で採択されなかった研究でも審査員に「ウケる」可能性があります。例えば私が申請した「政治学」小区分は「社会A」という区分で審査されますが「社会A」には法学、経済学、社会学、心理学など社会科学分野の小区分・書面審査区分が含まれています。

他方で、申請の壁となりそうなのは受入先の選定と内諾かと思います
アメリカなどの大学では「自身でお金をもっていって研究する分にはウェルカムだ」という話をよく聞きますが、すべての海外の大学が同じというわけではないでしょう。現地の事情に合わせることが大事です

もっぱら韓国は「縁故社会」なので、どのようなことであれコネがあったほうが圧倒的に物事が早く進みますし、滞在中も助けてもらえます

ただコネがなければ全く受け入れてもらえないかというとそうではないので、一度、受入教員になってほしい先生にメールしてみるのも手だと思います。韓国の大学の場合、海外でPh.D.を取り、英語ができる先生が多いので、韓国語ではちょっと難しいのであれば、英語でもいいのではないかと思います。
(後続の記事でも書こうと思いますが、研究することが目的の留学なのであれば無駄なプライドは捨てた方がいいと思います。海外で研究ができる環境を整えるのを優先すべきでしょう)

教員が受け入れOKといえば事務の方も手続きに関していろいろやってくれたりします。何と言っても自分の研究計画に興味を持ってもらうことが重要なので、頼む際は韓国語ないし英語の履歴書(CV)と研究計画書をお送りするのがベターです。

私も2024年現在遂行中の韓国での調査滞在に際しては、全く面識のなかった先生に連絡をして、受け入れの内諾をもらいました。

あるいは(無駄なプライドは捨てて)日本語ができる先生に頼むのもいいのではないかと思います。日本を研究している方であれば日本語が堪能な方が多いです。
実際に、私の受入教員は日本の政治経済を専門にしており、日本語がとても堪能でした。連絡は韓国語でしたが、滞在中は大変助けていただきました。

そもそも(問われる可能性がないわけではないですが)必ずしも受け入れ教員の専門性では審査されないようです

例えば、私の場合、受入教員の専門は政治学でしたが、研究テーマは私とは全く異なる方だったので「大学院・研究所の専門性、優位性」を強調して申請書を書いた結果、採用されました。このことから、むしろ申請者本人の研究計画・内容こそが重要なのだろうと思います。

学振のウェブサイトにも審査基準が以下のように示されています。審査基準に「受入教員との研究テーマの整合性」は含まれていないことがわかります。

2.若手研究者海外挑戦プログラムの審査方針は、以下の通りです。
①海外での研究に新たに挑戦することによって、研究に大きな進展が見込まれること。
②申請者と受入研究者との事前交渉が明確で、研究計画が具体的かつ実現可能性があると認められること。
③優れた研究能力を有し、海外での研究経験を通じて、将来の活躍が期待できること。

出典:日本学術振興会ウェブサイト

何事も書き方一つで印象が変わるので、専門の近い先生との打ち合わせがうまくいかなくとも、受け入れてくれそうな他の先生とコンタクトを取ってみて申請するのもいいのではないかと思います。専門が近いにこしたことはないのですが、人には相性がありますし、タイミングが合わないこともあります。

それに、博士課程の時間は有限ですし、連絡や準備だけで消耗するのは大変もったいないので、行けるときに行ける方法で計画を立てることも大事です。
これから書いていくように、私はコロナ禍での渡航でいろいろと大変でしたが、大学院在学時に海外に渡航してよかったな、とつくづく思います。

次回は韓国での留学生活について書いていこうと思います。

*写真は当時私が過ごした寮の部屋です。退室する際に撮影したので明かりをつけておらず暗いですね。。ただ部屋はきれいで1人で暮らす分には十分な広さでした。(2022年6月8日撮影)

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