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SAKE DIPLOMAの受験対策講座にて、お米の等級についてご質問がありましたので、ここでまとめさせて頂きます。

1.はじめに

等級とは、簡単に言えばお米の品質を一定の基準でランク分けしようとする物です。

覚えておく必要があるのは、

①食米と酒米はランクの付け方がかなり違っている

②山田錦の「村米格付け制度」は全く違った考え方になっている

というところです。


2.一般米(食米)の等級

一般米は一等、二等、三等、規格外の4段階で規定されています。

粒揃いの良さの他、様々な基準により、クラス分けがされています。細かい規定基準については下記の農林水産省のページの一番上「水稲」の表をご覧頂ければと思います。

(陸稲で栽培した米はまた基準が違うんですね)

農林水産省 玄米の検査基準

https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/k_kikaku/


3.酒米の等級

醸造用玄米については特上特等、一等、二等、三等、規格外の6段階で規定されています。

食米より段階が多い…というよりも、よりレベルの高い粒揃いが求められる特等(整粒80%)、更にその上の特上(整粒90%)が設けられているという事に注目です。

食米であれば整粒70%もあれば一等米として最上級です。

酒に使われるお米は食べるお米以上にシビアに粒揃いを求められるのです。

食米はそのまま精白・炊飯して食べられますが、酒米の場合はそこから「加工」をしていくことになります。

そこには醸造者の技術を反映させていくことになりますが、品質にバラつきがあれば、その後の加工にもムラが生じ、結果として思い通りの作品を造る事が出来ません。

でこぼこのキャンバスでは熟練の画家でも思い通りに描けない、というのと似ていると思います。

余談ですが、NHKで「醸し人九平次」銘柄で有名な愛知県の萬乗酒造さんがフランスで酒造りをしようと挑戦する様子を放映した際、現地業者の米の選別精度に泣かされていた場面がありました。

フランスでは米を食べることはあれど醸造する文化がないので、日本のようにシビアな選別をする技術がなかったのでしょう。

各等級の正確な基準につきましては先程の農林水産省のページの3つめの表に記載があります。

参考:農林水産省 玄米の検査基準

https://www.maff.go.jp/j/seisan/syoryu/kensa/kome/k_kikaku/


4.山田錦の村米格付け制度

酒米の王様「山田錦」については村米制度というものがあります。

極簡単に言ってしまえば、酒蔵と農家(部落)との間での契約栽培のようなイメージです。

菊姫さんのHPには「特A地区」といい高品質の山田錦が栽培されるエリアの1つである「吉川町(よかわちょう)」のどの集落がどの酒蔵と取引をしているかが記載されています。

参照:菊姫(資)HP 村米制度について

https://www.kikuhime.co.jp/story/yamada/yamada04/

村米由来や制度の詳細は下記のリンクを見て頂くのが良いかと思います。

参照:日本醸造協会誌 村米について

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/78/2/78_2_124/_pdf

村米制度においては「久米価格」と言われる基準の価格を 年価格 ・経済事情 ・作況 などを考慮して決定していました。

久米価格が「米田村・上久米村」の価格となり、その他の各部落の価格はそこより1円高い、50銭高い、1円安い、50銭安いといった形で格付けによって価格が決まりました。

試験を受ける方は

・基準価格が「加東群 米田村上久米」であること

・最高値は1円高に設定された「美嚢群 中吉川 米田」であること

は特に出題されやすそうですので覚えておくと良いかと思います。


これまた余談ですが、シャンパーニュの格付けに似ていますね。

気候が冷涼で収穫が安定せず、価格の暴落が起きやすいシャンパーニュでは、かつて公的機関がその年の基準価格を設け、格付けにより基準価格の何%の価格で取引する、というような制度があったそうです。

そのとき基準の100%の価格とされた村が「グラン・クリュ」、90-99%の間で格付けされた村が「プルミエ・クリュ」です。


5.なぜ特A地区が優れているのか

話は戻り山田錦の特A地区についてですが、この地区の山田錦が優れているというのはどこから来るのでしょうか。

SAKE DIPLOMAのテキストによれば、下記の点が影響しているようです。

①中国山脈と六甲山地の間で風通しが良い

②夏の昼夜の日較差が大きい

③土壌にグライ層がなく、モンモリロナイトの粘土質が主体

下記に順にまとめていきます。

(1)中国山脈と六甲山地の影響について

中国山脈からの冷涼な風や瀬戸内海側からの暖かい海風で風通しが良く、複雑な気候。

山に挟まれながら東西に開けているので日の出、日没方向が遮られず、また雨も少ないことから日照時間が長い。

兵庫県

↑北に中国山脈、南に六甲山地。特A地区の三木市あたりは東と西方向に開けていますね。

画像2

↑年間日照時間。太平洋側は日本海側の湿った空気の影響を受けず、日照時間が長いことがわかります。


(2)昼夜の日較差について

山地の麓にある地区(三木市等)は比較的標高が高く、かつ谷戸地形(やとちけい)であるため、気温が下がりやすく昼夜の日較差も大きい。

※谷戸地形:丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形。

(冷たい空気が谷に集まるため、気温が下がりやすいものと思われる)

(3)土壌の成分について

土壌については是非SAKE DIPLOMAのテキストp43-44を読んで頂きたいです。

簡単にまとめると、根がよく成長し、栄養が豊富な土壌なのだそうです。

下記2点で詳しく見ていきます。

①グライ層がない

グライ層とは、という部分については下記リンクを参照して頂きたいと思います。

https://www.hro.or.jp/list/forest/research/fri/kanko/kiho/pdf/kiho14-8.pdf

グライ層があると水浸しで酸素が不足し、根の伸張を阻害するとの事です。

このグライ層について、表土から50cm以内にはなく、特A地区では1m程も稲の根が伸びるとのことです。

参考:山田錦80周年パンフレット

http://www.hg.zennoh.or.jp/agriculture/kome-mugi/pdf/80th_anniversary.pdf


②粘土(モンモリロナイト)の土壌

モンモリロナイトはワインを勉強されている方はもしかしたら聞いたことがあるかも知れませんね。

超高級ワイン「シャトー・ペトリュス」の土壌に含まれていると言われています。

モンモリロナイトとは何かというと、粘土を構成する鉱物の一種です。

そして粘土とは地質学上最も粒子の細かい堆積物です。

カオリナイト、イライト、モンモリロナイトと大きく分かれ、モンモリロナイトは水を吸うと膨張する性質を持ち、保水性に優れるようです。

ワイン用ブドウの栽培において、高品質なブドウを栽培するためには、水分ストレスがかかる方が良いとされるため、通常は保水性の高いモンモリロナイトのような粘土質は向かない思われがちです。

ですが、シャトー・ペトリュスの土壌では、モンモリロナイトの膨張により逆に根が水を吸い上げる事が難しくなり、結果水分ストレスが掛かっているとの事です。

(これは水田で栽培するお米については当てはまらない現象かもしれませんね。)


6.さらにその上を目指す動き

「今の最高を超え、新しい最高を目指す」として、獺祭で有名な旭酒造さんが新たに企画したのが、「山田錦プロジェクト」です。

様々な審査基準で山田錦を品評し、最も品質の高い山田錦であると認められた米は50俵で2500万円という、超高額で買い取ります。

というものです。

ここでの品質目標として掲げられたのは「整粒歩合99%以上」「心白率80%以上」というものです。

この発表を受けた農家さんたちは「そんな米は見たことがない」「実現出来るかわからない」と口々に言っていました。

そんなハイレベルな目標設定でも、農家の方々は挑戦心に燃えていました。

それだけの栄誉と見返りが用意されていたからこそだと思います。

スペシャルティコーヒーの流れに似ている?

個人的にはこの動きは一昔前の「スペシャルティコーヒー」の流れに似ているように思います。

以前の考え方では、コーヒーは物価の変動や粒の大きさ、ブラジルの「サントス」等出荷港のブランドで価格決定がされ、複数の生産者の生産した豆がごちゃまぜで取引されるのが通常でした。

そこに「あなたの生産した豆は美味しいから、高い価格で買います。」「もっと品質が向上すればもっと高値で仕入れます」と、直接取引を行うという買い手が徐々に現れてきました。

粒の大きさではなく、香味のクオリティで判断するということ。

そして最高のものをつくれば最高の価格で仕入れますという約束。

こう聞くと当たり前のようですが、当時はそれがなかったのです。

良い物をつくっても他と混ぜられてしまう、価格のグレードに限界があるのでは、努力するモチベーションにも限界があるというものです。

こうしてコーヒーはその品質を著しく向上させ、中でも最高品質のものは「スペシャルティコーヒー」として高く評価されるようになりました。

今まで「ブラジル」とか「サントス」とかというレベルでざっくり見ていたコーヒー豆が、「これはニカラグアのサンタアナ農園のコーヒーで、ここの生産者は精製をウォッシュドの方式で行っていて…」というようなところまでストーリーを見ることが出来ます。

スペシャルティコーヒーの登場はコーヒーの楽しみ方を大きく変えたと言っても過言ではないと思います。

酒米についても同様に、今までの最高を超えた先に何か新しいものが見えてくる事があるかもしれません。


審査項目について

ついまた話が脱線してしまいましたが…

獺祭の山田錦プロジェクトでは、どのような点を評価のポイントにしているのか?

プロジェクトのパンフレットによれば、審査項目は6つ。

「粒張り」:十分に成長し、丸々としたふくらみがあるか

「粒揃い」:大小がなく、均一な粒になっているか

「心白」:心白があるかどうか。また大きく、中心にあるか

「被害粒」:粒表面が緑色をしていたり、砕けたりしていないか

「着色」:粒面の全部または一部が着色した米がないか

「色沢」:表面につやがあるか、透明部分が濁っていないか

これらを目視判定⇒機械判定のダブルチェックで審査します。

粒揃いが重要であるとはいえ、粒を揃えようと選別器を試用すると「肌ずれ」により色沢に影響がでてしまう。

選別器で無理矢理見た目の良い米に整えるのではなく、栽培時点で粒ぞろいのよい高品質米を生産して欲しいと、審査委員代表の田中氏はコメントをしています。


審査結果

さて、審査の結果ですが、非常に興味深い結果となりました!

結果はこちらです!

グランプリ 栃木県 山田錦栽培研究所 坂内義信 さん
準グランプリ 兵庫県 藤田山田錦部会 藤原健治 さん
優秀賞 栃木県 山田錦栽培研究所 白井勝美 さん

2位はさすがの兵庫県、特A地区で代々栽培する藤原健治さん!

幼少期から山田錦を見て育ったベテラン農家さんです!

温暖化に対応する水管理が重要との事でした。

そして、1位、3位ともなんと栃木県!

山田錦栽培研究所さんです!

山田錦の栽培歴は1位の坂内義信さんが4年、3位の白井勝美さんは5年です!

驚き…

栃木の県北は収穫期が寒く、発育が止まってしまうので、発育のピークタイミングで収穫する事が重要とのことです。


まとめ

酒米の格付けについては山田錦の特A地区がダントツの評価を得ており、うちは特Aの山田錦しか使いません。というこだわりの酒蔵もあったりします。

しかし、素晴らしい山田錦は特A地区だけに限らないという事がここで証明されたと思います。

原料米のますますの進化、そしてそこから生まれる日本酒のますますの進化が期待されますね!!

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