Penthouse「花束のような人生を君に」の作曲者本人による楽曲解説

今回はドラマのタイアップということで、ドラマ制作サイドからは「親から子への愛」をテーマにしてくれという話があった。

僕は子供を育てたことがないどころか、実家にも4年に1度帰るかどうかというレベルで、親子愛エアプもいいところなのだが、それでも何とかなれという気持ちで四苦八苦しつつ曲を書いた。

先日のリスニングパーティでリスナーの感想を見るに、ちゃんと刺さった部分もあったようで胸を撫で下ろしている。


ということで、今回の楽曲「花束のような人生を君に」の解説をやっていくぞ。

曲全体のうっすらとした解説

「辛い展開のドラマの中で、この曲が救いになるように」という制作サイドのイメージがあるようだった。

それを聞いてまずは「なるほど、ストレートなバラードを書けば良いのか」と思ったのだが、台本を読むにドラマの内容は結構センセーショナルというかダークというか、単純にメジャーキーの感動的なバラードというわけにもいかなそうだった。

そのあたりでなんとなく、4536的な切な目の進行のバラード、アレンジは王道J-POPを正面からやりつつ、展開やツインボーカルでPenthouse味を出していくかみたいなことを思っていた。

最初にサビのメロディができて、A,Bをくっつけて、その先の展開を作って、という具合に曲の設計図がある程度固まった。ⅣM7始まりで要所のⅢ7で泣かすみたいなやり口を主軸に、男女のツインボーカルにキーを合わせる為転調していく構成になった。

アレンジはこれまでのPenthouseとは大きく変えていて、バンドはかなりシンプルにしつつストリングスをフィーチャーして盛り上げていく形にした(Penthouseはまだまだ実験を繰り返せるフェーズのバンドだと思っているので、大当たりするまではとりあえず毎回違うことをやっていこうという方針が、なんとなくある。)


ストリングスのアレンジは沖増菜摘さん。
一応デモ時点で僕の打ち込みもあったのだが、あまり気にせずとにかく壮大にしてくれみたいなかなり投げやりな方針で依頼したのだが、想像以上に素晴らしく仕上げていただいた。



セクションごとの細々とした解説

ということでここからはコード進行やメロディの構成をセクションごとに、僕のやる気が許す限り詳細に解説していく。

音楽理論が絡む話が多少、いや結構、もしかしたらかなり出てくるかもしれないので、分からない人は分かったような顔をしながら読んでくれたら嬉しいです。

わかる人はぜひ音源流しながらへえとか思いながら読んでください。


◾️1A(0:00~0:23)

例によってイントロ無しでAメロから入る構成。サブスクではイントロがない方が有利みたいな言説が、イントロを考えなくていいという横着と共謀した結果、Penthouseの曲はイントロがないものが多い。

・1Aコード進行

B♭M7 | Am7 | Dm7 | F7 |
B♭M7 | Am7 Am7/D | Gm7 Gm/C | Fsus4 F |

ⅣM7 | Ⅲm7 | Ⅵm7 | Ⅰ7|
ⅣM7 | Ⅲm7 Ⅲm7/Ⅵ | Ⅱm7 Ⅱm/Ⅴ | Ⅰsus4 Ⅰ |

サビのエモさを強調する意味でも、イントロがなく導入も兼ねているという意味でも、コード進行はかなりシンプル。ノンダイアトニックの響きを使わずにさらっと仕上げた。最後のFsus4で、「あ〜J-POPだな」と思ってもらう想定。

・1Aメロディ

小さな体を抱き上げて 命の重さを思い知る
無邪気に笑う 瞳を見つめる 君の手をそっと握る

「ちいさなか/らだを」が最初に提示されるモチーフ。続く「命のお」は「ちいさなか」に対応して、音程が全体的に下に下がりつつも、同じ符割で同じ動きをする。続く「もさを」は「らだを」と完全に同じメロディ。その間を「抱き上げて」で繋ぎ、「思い知る」で完結させている。


2行目「むじゃきにわ」は、またしても冒頭の「ちいさなか」を拾って印象付けつつ、「らう」で切って1行目と流れを変えることで聴く人の期待を小さく裏切る効果を狙っている。

ここで流れが変わって、息の短い三つ続く形になるが、どれもあくまで
冒頭「ちいさなか」のメロディを軸に
している。
このように、特定のフレーズをいじりながら一続きのメロディを作ると、覚えやすく、具体的でよいメロディになる、と思われる。

最後「そっとにぎる」では1度で終わる安心感がありながらも、Isus4で一旦停滞感を出すことで、次の展開Bメロの期待感を高めている。


◾️1B(0:23~0:48)

・1Bコード

Gm7 Gm/C | Am7 Am/D | Gm7 A7 | Dm9(11) Cm7 F7/B |
Gm7 Am7 | Am/D | B7 |
Ⅱm7 Ⅱm/Ⅴ | Ⅲm7 Ⅲm7/Ⅵ | Ⅱm7 Ⅲ7 | Ⅵm9(11) ⅤⅠm7 Ⅰ7/Ⅴ♭ |
Ⅱm7 Ⅲm7 | Ⅲm7/Ⅵ | Ⅴ♭7 |

Bは雰囲気を変えつつ維持しつつみたいな絶妙な塩梅にしたかったので、一旦Ⅱm7スタートに(Ⅱm7とAメロ頭のⅣM7は構成音が似ているコードで、Ⅱm7の方がやや冷たい印象がある)。

シンプルに2536でも良かったのだが、サビの4536王道進行に似てしまうので、ⅥはⅢm/Ⅵ置き換えて抽象的な印象にした。

サビで転調するにあたり、6小節目、現在in FのⅢm/Ⅵがin GのⅡm7/Ⅴになる感じのピボットコードというやつ。+2キーの転調がこの辺で起こっています。メロディも両キー(FとG)どちらにも居るやつになってるので、転調に違和感が少ないと思われる。

最後に出てくるV♭7は転調後のin GのⅢ7と捉えた方がしっくりくるかな。


・1Bメロディ

ありふれた日曜日も 眠れない夜の明かりも
小さな手をつたってくる温もりも 全て覚えている

「ありふれた」のところのメロディを軸に繰り返しなが、その間をあれこれして流れを作るスタイル。夜の明かりのところ、歌詞とⅢ7のコードの雰囲気と、コードトーンを拾ったメロディが大変エモい。歌い方も細かめにビブラートをかけているのが効いている、と思う。

また、各フレーズ最後の音は1度を使わないようにすることで、Bメロらしさというか、落ち着かずにサビに行くぞという感じを出している。

また、「ありふれた」の「れた」は「ドシ」(移動ド)のメロディになっているが、サビでもこの動きは頻出している(愛で満ちたの「でみ」とか)。この辺りも、転調前後で雰囲気が維持できているところに関わっている、ような気がする。



★休憩

といった形で進んできている解説だが、皆様、ここまで着いてこれているだろうか、、、

僕としてもコードを書き起こしたり、度数に直して書いたりするのが大変に面倒で、早くも力尽きそうなので、ここ以降は有料にするという施策によってやる気を維持したいと思う。

まあ、この辺りでもうお腹いっぱいだなという人は多いだろうし、Penthouseの強火ファンの方、もしくは作曲の参考にしたい方はぜひ読んでみてください。なお、本稿は全編Penthouseファンクラブにも掲載予定ですので、加入済みの方はわざわざ買わなく大丈夫です。

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