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Namio的読書感想文

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Instagramで記録中の読書感想メモの抜粋 since 2023
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記事一覧

今度生まれたら(読書感想文)

 弟からの薦めで読んだ本。今日から数日かけて読むか...と手に取ったけれど、止まらなくて数時間で一気に読了。  さすが脚本家さん。目の前で人が話しているのを観ている様な言葉のやりとりと心の声が面白くて、目が離せなくなった。  私は時代の境目にいることを感じている。この主人公みたいに女性の多くが「男性に幸せにしてもらうこと」を望んだ時代のことも知っている。それを知った上で、今の全く違う価値感が自分にしっくりくると思っている。  しかしながら、真ん中にいると何が正しくて間違い

私労働小説THE SHIT JOB(読書感想文)

 本にはいろいろあって。じっくりと味わう様に感じるものと、燃えている様な熱量のあるものなど。  これはものすごい熱を感じる本だった。ブレイディみかこさんの本は「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」からの2冊目だけど、これもご本人の体験を通して得た違和感や、出会った人との会話の中で得られる疑問が感じられて、読んでいる私も半端な気持ちで読めない様な気がしてきた。  タイトルにもなっているThe Shit Jobという言葉の持つ意味やその背景を考えた。素通りしてしまってい

家事か地獄か(読書感想文)

 待った待った。この本のことを知って図書館に予約してから約半年くらい待ったな。でも待った甲斐があったな。  そして読み始めてすぐに、結局好き過ぎてこの本を買ってしまった。稲垣えみ子さんはとても新しくて奇抜なことをしている様に見えて、実は人が大切にしてきた生活に立ち戻っているのだと思う。  私は何か困ったことや迷うことがあると、縄文時代を生きる自分を想像して判断することにしている。この便利な道具や教育システムがない時に、人はどうやってこれを乗り切ったのだろう...と、何もな

肉体のジェンダーを笑うな(読書感想文)

 他に予約していた本が図書館からどんどん入ってきているため、ナオコーラさんウィークは一旦ここまで。この春は、ナオコーラさんの世界に浸ることが出来て本当に良かった。  そしてこれは極め付けと言っても良いかも知れない。ジェンダーに関して、自分が知らない間に2つの性別をハッキリ分けてしまっていること、それが当たり前になってしまっていることを嫌と言うほど思い知らされる。  例えば、この本にある4つの話の中には、性別がハッキリと出てこない。にも関わらず私はどちらかの性別を勝手にイメ

論理と感性は相反しない(読書感想文)

 15個のお話が入った短編集で、寝る前の読書にピッタリだった。でもそれぞれの話が完全に独立している訳ではなくて、次の話に数個前の話に出てきた人がひょっとまた出てきたりして、なんだか人の人生を覗き見している様な感じ。  私としては自分に近い人が出てくるか、というと全くそれはなくて、登場人物の中に少しずつ「あ、わかる」というポイントがある感じ。それ以外はかすっているけど自分とは違うのが多くて、だからこそ興味深かった。  これは読んだ人それぞれが重ねたりかすったりして楽しめるんだ

本と共に

 若い頃はとても本が好きで、今思えば本からの影響って大きい。アメリカのコラムニストであるボブ・グリーンさんの本「17歳 春/秋」に一目惚れして17歳の誕生日プレゼントに親に頼んで買ってもらった。  ドラマや映画でしか見たことがなかったアメリカでの同世代の若者の過ごし方が、あまりに自分の日常と違って強烈な興味を持った。いつか海外で暮らしたい、そう願ってその夢を5年後に叶えた。  それから更に5年後。出産した時にはボブ・グリーンさんの「ボブ・グリーンの父親日記」を何度も読んで

ミライの源氏物語(読書感想文)

 「かわいい夫」というタイトルに惹かれて山﨑ナオコーラさんを知ってから、ナオコーラさんと共に過ごす春になっている。今回手にしたのは、ミライの源氏物語。    正直私はエッセイ好きなので、エッセイでもなく小説でもなく、しかも私の苦手な古典絡みのこの本...一体どんな本なのだろうか、とわからないままに読み始めたのだけれど、目次でググッと興味が湧いた。  ロリコン・マザコン・ホモソーシャル・貧困問題・マウンティング・ジェンダーの多様性・エイジズム...源氏物語の中に描かれている人た

美しい距離(読書感想文)

 繊細であるが故にただ周りの人に心の中で違和感や反発心を持ってしまうけれど、自分の繊細さを知り向き合い始めてからは、少し距離感を考えるのが上手になった。そんな私には突き刺さりまくる本だった。  優しい人たちと、不用意に言葉を使う世間。いつもこの間で漂っていたから、本の中の言葉一つ一つが本当に愛おしかった。  ストーリーを話すと「あぁ、末期ガンの方とそれを取り巻く人の話ね」となってしまうのだろうが、それ以上に「今を生きる」大切な時間の積み重ねや大切な人、微妙な関係の人、そし

反人生(読書感想文)

 ナオコーラさんの小説にはナオコーラさんの違和感や疑問が散りばめられていて、それが当たり前の世界になっているので、自分もフワフワとその中を漂いながらかつて自分にあった違和感を取り戻す気持ちよさがある。  世間の「当たり前」に埋もれそうになっては、そこからプハッと顔を上げてまた溺れる。それを繰り返してここまできたけれど、私が納得できていないことや敢えて有耶無耶にして納得しているふりをしていることはたくさんある。  そこを触られるのが最初は怖かったけれど、数冊読むうちに心地よ

可愛い世の中(読書感想文)

 のっけからググッと引き込まれる内容だった。自分の興味に合致したからかもしれないけれど、4姉妹それぞれの生き方とそれぞれの視点からの考え方。どれが正しくてどれが間違っているということではなく、どれも人生。  自分は価値感が新しい方だ、とか多様性に順応している方だと思っていたけれど、それを更に「じゃ、これはどう?これは?」と迫ってくる感じがナオコーラさんのエッセイの面白いところだった。そのエッセンスが詩的な表現がサラッと入ってくる小説に混ざり合って好きだった。  サラッとし

カツラ美容室別室(読書感想文)

 この表現は必要だったのだろうか、と思う様な何気ない動作の描写がいっぱいあるけれど、それらがあるからこそリアル味を増す。まるで自分が主人公になってその中にいる様な気にもなるし、だからこそ感じる人間関係の煩わしさや温もり、説明できない関係性の不思議さなどをリアルに感じることが出来る。  説明できない関係性、わかっている様でわかっていない相手のこと、自分のこと。少ない登場人物の中でいろいろな人の関係性やこだわり、割り切りが人っぽくて面白いと思った。  いつか何かで読んだ「人は

人のセックスを笑うな(読書感想文)

 タイトルはずっと知っていたけれど、なんとなく激し目の内容を想像して敬遠してきた気がする。ナオコーラさんのエッセイから入って、この方好きだな、って思ったので読んでみたけれど、イメージと全く違う内容で読み終えるまでタイトルのことは忘れていた。  初めてナオコーラさんの小説を読んでみて、エッセイの紹介に書いていらした「誰にでもわかる言葉で、誰にも書けない文章を書く」という言葉がとてもしっくりきた。  読みやすくて軽やかなのに、淋しさとかどうでもいいやって投げやりになる気持ちとか

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬(読書感想文)

 表紙とタイトルがあまりにも魅力的で、本屋で一旦我慢したものの帰って後悔して買いに戻った本。旅に飢えていたコロナ禍で、これ程魅力的な本があっただろうか。私はこの本の中で旅をして、絶対この病が去ったらキューバに行ってやる!と心に決めた。  若林さんの旅エッセイだが、旅をしながら見える景色や人間模様だけでなく、そこで彼が感じたことが心に沁みて沁みて。旅ってただ新しいものを見たり食べたりするだけじゃなくて、一人旅だと特に人生とか自分とか今の生活や価値感についてじっくり考える瞬間が

小さな本屋、始めました

 小さな本屋を始めました。その名も 2fish_booksです。小さな、は謙遜ではなくて本当に小さな一棚。  そうです。とある本屋さんの一棚店主になったのです。福岡にあるのどかな場所の古民家本屋 kururiさんの棚を一つお借りして、私が好きだった本を丁寧に選んで、必要な方にお届けしたいな...なんて想いを乗せて。  私自身、一冊の本で人生がグルッと変わった経験を持っています。高校生の頃、本屋さんで立ち読みしたり図書館で本を借りたりする中でとても好きになったアメリカのコラム