ウソツキ

ー6ー

夜の街を歩くのはとても気分が良かった。どこでもいい、とりあえずお店にでも入ろう。わたしはファストフード店に入って飲み物だけをオーダーする。休日のお店は混んでいたけれど疎らに空いている席を、店内に入った時に見つけていた。この騒々しさは今日のわたしには居心地がいい。席について、わたしはスマホを取り出して

―会いたいー

と一言メッセージを送った。

相手は半年前に出会った28歳のサラリーマン。

「お姉さん、美人なのにもったいないね。」

製薬会社で清掃の仕事をしている時、声を変えられたのだ。

はじめは無視をしていたが、しつこいくらいに声をかけてきた。

「まぁ、いいよ。無視してもさ?お姉さんいくつよ?」

「19歳です。」

声をかけられたことに嬉しさはあった。

「なんだちゃんと話せるじゃん。」

「すいません」

そういってその場を離れようとしたとき、その人はわたしの腕をつかんだ。

「本気で言ってるんだけどな…もったいないよ…うん。」

そういうと、わたしに紙切れを渡してきて、その場を後にした。
その日から1週間後わたしは1人夜の部屋で、その人の携帯電話に電話をかけていた。

3コール目で通話に切り替わった。

「はい。篠木です。」

「あの…」

そういって3秒間ぐらい黙った。

「あれ?もしかして清掃の子?」

切ろうと思った瞬間そういわれた。

「はい。」

「待ってたよ。今日はさごめん。ダメなんだけど、明日のよるなら空いてるんだ。会ってご飯食べよう。」

その人とは一度目は食事だけで終わった。二度目は向こうから連絡が来た。

「今はこれだけしかしてあげられないけれど。」

と言って今身に着けてるものを買ってくれた。そしてその人の女友達に、実家から出てきている妹だと紹介して、化粧の仕方を教えてくれた。

出会って3週間目に身体の関係を持つようになった。会えばプレゼントをくれて美味しいご飯をおごってくれた。そして三ヶ月が過ぎたころから、忙しいから会えないんだと言われるようになって、誰かいい人紹介するよと言われるようになった。どこか割り切った関係をわかっていたわたしはその人の申し出に素直に応じた。

「気に喰わななかったらさ、逃げちゃっていいからさ」

篠木はわたしにそういった。けれどどの人も嫌じゃなかった。
篠木が紹介してくれる誰もがプレゼントと多少の現金をくれた。そして一人で夜を過ごす日が少なくなった。

「こういう事する人って、中年のオジサンばかりかと思ってたけれど違うみたいで驚いた」

会って篠木と食事した時、わたしは彼にそういった。

「でしょう?いつでも言ってよ、いい人紹介するから、そうそう、清掃の仕事辞めちゃダメだよ二面性が良いんだよなぁ。」

あなたはダメなのですか?と聞きたかった。知らない人に会うのはやはり怖かった。

「唯奈ちゃん本当にきれいになったね。信用してね俺の事」

わたしの考えを読まれたような気がした。篠木の卑しさにすら気づかないふりができてしまうぐらい。

テーブルの上に置いてあるスマートフォンが鳴る。篠木からだった。

「どうした唯奈ちゃん。誰か紹介しようっか?俺今日も忙しいんだ。」

「うん。お願いしてもいい?」

「じゃ、10分待っててかけなおすから」

わたしは不安と期待の入り混じった感覚を自分の胸に手を当てて一呼吸置いた落ち着かせた。

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