期待と不安への向き合い方(3年周期)

幸運なことに、Stage Gate制度のStage4に該当するRDテーマに携わらせていただいています。Stage4とは、パトロンとなる顧客がみつかっており量産化をまさに開始する段階となります。
素材業界の総合化学メーカーは、いわゆるコモディティでキャッシュフローを生み出し、その利益を次世代を担う新規事業開発費用に割り当ててきました。企業によって濃淡はありますが、そのコモディティビジネスで拡大と撤退の両方を経験した方が経営層に昇進しているケースが多いかと思います。

とはいえ近年は、半導体や医療用途を意識した付加価値の高いスペシャリティ材料へのシフトが進んでいます。近年と書きましたが、この動きは2000年頃から起きています。かれこれ20年近く。

スペシャリティ材料は最終製品がより意識された評価のされ方をします。例えば半導体製造向け部材のサプライチェーンを考えると、
・素材(原料)供給
・配合
・部材製造
・製品組み立て…
と、いうようにいくつかの層に分かれます。
したがって、素材は一見、その次の配合屋にモノを売っているように見えて、配合屋は同時にさらに彼らの顧客先に求評を行い、その先の顧客はさらに彼らの顧客に対して同様なことを行うというのが実際です。

そのため、新規素材が採用されるにあたっては、その下流側で複数の認定作業が行われることになり、かなりの年月を要するケースがほとんどになります。途中の材料変更は大変労力がかかるので、新素材を製品に組み込むのはその設計段階から。開発初期の材料選定評価に入り込むため、各素材メーカーはバックキャスト的に戦略を立て、集中して攻める領域を見極めます。

それでも、「製品開発の速度アップ」は世に名前を広く知られる最終製品大手の販売戦略により常に求められる状態となっており、その圧力は当然上流の素材メーカーにもかかることになります。ここで篩い分けが行われており、これら要求スピードに応えることができない材料メーカーは淘汰される運命にあるのですね。

さて、社会損失の少ない(つまり、市場に出てからの不具合を発生させない)製品開発というものは、それなりのステップを踏んで行わなければなりません。見せサンプル(プロトタイプ)を作る段階ではそこまで詳細に詰めないことがほとんどですが、そこで方針が決まった後には、すぐに量産化はせず、ロバストな製品となるように製造プロセスの徹底したデザインを行う期間が必要になります。ただ、顧客要望を絶対視して必要なステップを蔑ろにした製品開発は、その開発ステージが後段になるほど大きなリスクを背負い、かつリソースを投入することになります。

冷静になって考えれば誰しもわかることなのですが、いざ当事者になると、それぞれの立場が都合の良い解釈を行い、将来に顕在化するエラーを過小評価したり、思考対象から省くようなことが起こり得ます。また、組織での集団的愚行もこのタイミングでしばしば見られるようになったり。「〇〇さんがそういう判断をしたのだから、それに従うのが指示系統の筋が通った組織としてのあるべき姿だ。」と本気で語る者もいます。
そういうことが必要なフェーズも確かにありますが、事業開発にあたってはそれは間違っていると個人的には思います。責任を他人に預けて、近視眼的に自分自身を守っているに過ぎない。

MBAにて「人生は学びの連続そのもの」と気づき、音楽理論→組織開発→心理学→脳神経科学→脳腸相関→原則主義→哲学→社会学→国家論→免疫学→公衆衛生→…と触れてきた私としては、そのような愚かな行動を取るのも人間であるとして受け入れるし、自分もそのような側面を持っている自覚もします(例えばスポーツをしているときは、怪我へのリスク管理が甘くアホになる)。大事なことは人の認知の特性と限界を意識して「システムそのものを組織が好ましい状態になるように正す」という信条を持っています。

そのような考えのもと、システムを変えられそうな立場の方には、その時々の自身の立場を踏まえた上での”介入”を試みてきました。今の会社で仕事を続けられているいのは、そのような”介入”を試みた方々が誰一人、私に対して激昂することなく、まとまった時間が確保できるタイミングで、しっかりした丁寧な回答をしてくれているからです。その回答には、私がその時々の立場では見えていなかった視点や情報が含まれていることがほとんどであり、また、「なるほど、だからこの方々は上の職位に就かれているのか」と尊敬の念を抱くことが常です。

話が脱線しましたが、今の新規事業開発の多くを占めるスペシャリティ素材については、上市速度と製品安定供給能力の確立がこれまでに増して求められます。また、検討・評価は自社だけにとどまらずサプライチェーン下流の顧客と共同で行うことになります。また、最終製品を扱う企業は真のグローバルカンパニーであり、コミュニケーションは英語が基本となります。

上記構造は仕事の難易度を格段に上げることになっています。
最終的な採用を決めるのは最終製品を扱う企業。そことコミュニケーションをとるためには社内の意思調整のみならず、その間に入る企業との調整が含まれます。そして、概して会社間の意思決定には時間がかかり、最終決定者との打ち合わせまでに、事態が二転三転することは決して少なくありません。出てきた結果を見て瞬時にリーズナブルな着地点を見出す”即興性”が求められていると言っても過言ではなく。

そのようなこともあり、開発デザインからネゴシエーション(英語)まで、上記を全てに対応できる(と思われている)私に白羽の矢が立つことになりました。この1ヶ月、様々な予定をリスケして顧客対応の準備とプレゼンを行いました。しかし、これが幸せなことかは正直わかりません。過去、このような気持ちになったのは、課長への引き上げを打診されて引き受けた時でした。やはり、このような転機は3年毎に訪れるようです。

…さて、このNoteは過去同様、自身の不安の正体を明らかにして、その対応策を具体化するために書いています。ここまでで再認識したことは、「企業間の意思決定までとは言わないが、各検討結果の解釈をより効果的かつ効率的にできるようにならないと、ステークホルダーそれぞれが大きく労力を消費することになる」ということです。

これらは、課題感を強く感じているこちらから、相手方側に物事をスムーズに取り進めるリーズナブルなスキームを提案する他、余白時間を捻出し自身を楽にする方法はないのではないか?と思います。
そのためにはまずは担当者間の関係性をさらに高めることから始める必要がありそうです。いわゆるホットラインの形成ですね。
また、自身の構築した開発スキームを習得し、社内調整をできるメンバーを早めに育て上げ、私自身は社外との交渉に集中できる環境が作れれば、勝機はある気がしています。

連休が明けたら早速、これらの考察を信頼のおける上司に伝えることとします。頑張ろう。


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