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vol.56『ツバメとわたし㉙~メス合流~』

(前回作はこちら→『ツバメとわたし㉘』

 そうこうしているうちに数日が経った。毎日のように忙しなく車庫を出入りしていたツバメは、いつの間にか2羽になっていた。おそらく後から合流したメスのツバメだろう。


 メスがオスに合流した時、驚いたに違いない。なぜなら、オスが巣作りしている場所は、ツバメ住宅情報誌に載っている一等地の条件をすべてクリアしたかのような土地だからだ。雨風の心配が一切ないまさにキングオブ一等地。オスがそこに新居を構えようとしているのだ。


「えー。やるじゃん♡」


 そうやってメスはうきうきとオスを見直したに違いない。でも、次の瞬間、泥色の巣と一体化しているヘビと目が合い、絶叫する。

「ちょ、ヘビ!! おぬし何考えてんの!?」

 ヘビを巣に使うなんて! オスツバメの神経を疑ったに違いない。
 
 遠路はるばる東南アジアから一人来日し、孤独に耐えきれず精神的におかしくなってしまったの? メスはあれこれ心配してみたものの、んなことあるかいっ!という結論に一瞬でたどり着き、オスにものすごい剣幕で問い詰める。そして、メスの迫力にビビったオスが、おずおずと説明をする。メスは最初こそ高圧的な態度でオスの話を聞いていたが、ヘビを巣に利用するわけを聞いて、策士ツバメに感心し、ぎっちぎちに褒めちぎったに違いない。

 その後、2羽でせっせと田んぼと車庫の往復を繰り返し、ワラとドロを運んでは照明の上に盛っている。奇妙なヘビハウスへのメスの同意が得られ、共同作業となり、格段に巣作りのスピードが上がった。

 その間、わたしのツバメヘビハウス観察も同時進行で行われた。ヘビのサイズは小物だが、体の模様はいわゆるヘビ革でおなじみのニシキヘビ柄である。色は、よく言えばウグイス色だ。悪く言えば、枯れた草色。ところどころまだらになっているところには、擬態の目がプリントされている。

 ヘビを土台としてワラを盛り始めた頃は、ヘビはむき出し状態だったにも関わらず、その体はしだいにワラとドロに埋もれ、本当に巣の一部として馴染んでいる。色彩的には、ワラとドロの味気ない単色にヘビ柄がアクセントとなって、控えめだけれど個性的な表情を醸し出している。

 トグロを巻いた体は上から見るとちょうど円形で、巣の土台としては最適な形でもあった。ただ、顔だけはその円形からひょっこりはみ出ている。ただ、そのひょっこり出ているのがベストな感じで巣からはみ出ているため、まさにヘビの顔が巣の飾りのようになっている。例えるならば、ちょうどおでこのところにヘビの顔が飾りとしてついているターバンみたいな感じ。怪しげな壺から笛の音とともにヘビを出すインチキそうな商人がかぶっていそうなあのターバンだ。

 カラスの作るワイヤーアートな巣もすごいが、このツバメの巣はその域を軽く超えてきている。トグロを巻いたヘビを土台にすることで、頑丈さ、耐久性に優れ、他の小動物を寄せ付けない魔除けとしての機能も付いている。さらに目を見張るのは、そのデザインだ。まさに帆にドクロマークを付けた海賊船のような感じで、ロケンローなカッコよさも兼ね添えている。


最近、この巣の施主2羽は巣でじっとしていることが増えた。
これは、巣が完成したということなのか?

(つづく)



最後までお読みいただき、ありがとうございました(*'▽')
『ツバメとわたし㉚』を更新しますので、よろしくお願いします。

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