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vol.28『ツバメとわたし⑦~盛られる恐怖~』

(前回作、『ツバメとわたし⑥』もよかったらご覧ください。) 

 仕事のできる敏腕ツバメは、作りかけの巣で静かに動かない。不気味すぎる。奇襲攻撃とか考えてるんだろうか。あぁ、もうたまらない。恐ろしすぎる。


 くぅるぅ~  きっと くぅるぅ~

みたいな、来ることのわかっているこういう恐怖に、わたしはすこぶる弱い。怖いのが出てくると思うだけで、想像力がかき立てられ必要以上に恐怖心を盛ってしまうのだ。


 たとえば、お化け屋敷とか、まさにまさに。

 登場するお化けが、張りぼてでいかにも作りました!的で、ロークオリティで、手作り感満載で、学祭的ノリであったとしても、ちゃんとビビる。

 そして、お化け登場ポイントがわかっていても、しっかりビビる。こんなとこでお化け出るなんて聞いてません!初めて知りました!的な、新鮮な感じでしっかりビビる。そもそも、お化けが出るうんぬんの話の前に、暗いだけでビビる。   

 
 実際のところ、頭の中では言うほど怖くはないだろうと思っている。でも、「背後から追いかけられるかも」とか、「血だらけの人が床に這いずり回っているかも」とか、想像力は恐怖をモリモリと勝手に盛ってくれるのだ。頼みもしてないのに。

 まるで、おなかいっぱいなのに、「遠慮しないでたくさん食べてね~。」と、勝手に追加分をモリモリとお皿に盛ってくる友だちのお母さんみたいだ。頼みもしてないのに。

 
 巣の中でいまだ微動だにしないツバメ。

 もしかしたら、今動かないのは、イメトレ中か?! 
 敏腕ツバメだけに、なにか策をすでに練っているとか? わたしがこう動いたらあぁ出る、みたいなシミュレーションも卒なくこなしているとか? 恐るべし、ツバメ!
 

 先程のわたしの尋常でない叫び声「わあぁぁぁぁぁ!」に気づいた近所の人が、びっくりして車庫に様子を見に来てくれた。


「どうしたの?」
「あ、かずみさん! ツバメが……。」

 ツバメの恐怖におののいていたわたしは、そう言ってツバメ要塞に指を向けるのが精一杯だった。

「わ、ほんと!」
「でも、ツバメ、全然動かないんですよ……。」
「巣作ってるの?」
「みたいです。でも、車庫だし、困ってるんです……。」

 かずみさんは、まじまじとツバメ要塞を見上げ、一言。

「ツバメ、寝てるんじゃない。」
「え?」
「寝てるから、ツバメ動かないんだよ。」

 ツバメをよく見ると、たしかに目を閉じている。
 なんだ。イメトレ中じゃなかったのか。


 この作りかけの巣で、過酷な重労働で疲れた体を休めているのか。田んぼとこのキングオブ一等地を数えきれないほど往復し、さらには巣作りもしている。考えてみれば、相当な体力を消耗しているにちがいない。それで、羽を休めているのか。鳥だけに。

 でも、一日300キロも飛ぶという、想像を絶する体力の持ち主だから、それくらいの労働は楽勝なのかもしれない。
 
 だとしたら、やはり、巣取り壊し反対運動の一環なのかもしれない。
 明日には、真っ赤な字で「ノー!取り壊し!」とか書かれたプラカードを準備して、巣に居座っちゃったり。「巣を壊すなら、まずはおいらを倒してからにしなっ!」みたいに捨て台詞を吐いちゃったり。

 
 とりあえず、今日は微動だに動かずして、わたしに恐怖を浴びせるプランAなのかもしれない。エリートツバメなだけに、そこは抜かりなく、プランEくらいまですでに作戦は練られているかもしれない。はぁ。強敵。なんだ、この得体の知れぬ恐怖感は。勝てる気がまったくしない。



(つづく)

〈最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
『ツバメとわたし⑧』も更新しましたので、どうぞよろしくお願いします(*'▽')〉

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