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新型コロナで会社が潰れかけたので転職したらまんがタイムきららのお姉さんキャラになっていた話 第10話

「きらら先輩はソラちゃん夫婦とドライブに行った」

 諸君

 極めて久しぶりだが、きらら先輩である。

 某リゾート地にでワーケーションになりそう、というところからずいぶん間が空いたが、皆様お元気でしたか? 私は元気です。結局ワーケーションは無くなりました。ほら、新型コロナがまた流行りだしたんでうやむやになりましてね。

 それでまあ、さすがにきらら先輩も入社して半年も経つとある程度キャラとして定着してきたので、弊社内で驚かれたりすることは無くなりました。最近は何をしてるかというと、バドミントン部に体験入部したり、男性社員と茶をしばいたりしてますかね。

 バドミントン?

 もちろん中学以来やったことなかったですよ。ただ言葉の響きが軽快だったから、私でもなんとかなるかなーと思って行ってみたら比較的ガチめの部活で、あっと思いました。

 でもみなさん優しくしてくれましたけどね。

 という話を天ケ谷リクにしていたらソラちゃんが一言

「それは沼に引きずり込もうとしてるからでしょ」

 あ、そうだそうだ。

 ソラちゃんちが(リクんちとは言わない)クルマ買ったんすよ。

 86? 平べったくていかにもクルマ好きって人が乗ってそうなやつでした。見るからにリクの趣味で選んだんじゃなさそうでした。それで清里の美術館行くから一緒にどうですかって言われて。そのクルマの中でバドミントンの話をしてたのである。

 ちなみに行きも帰りもずっとソラちゃんが運転してました。

 ソラちゃんの運転ですか?

 そうですね。

 結構……飛ばしますね。うちの父より飛ばします。

 前の車を煽ったりはしないけど、甲府から清里まで道が空いてたんで、割りと追い抜き多めで。怖くは無かったですよ。なんて言えば良いんですかね。スーッといつの間にか追い越し車線に入っていて、スーッといつの間にか左に戻ってる。急加速も急ブレーキも無し。きらら先輩が昔つきあってた男より明らかに上手いです運転。人間性が出るんですかね。

 クルマの中ではそりゃもう色々な話をしました。

 ほとんどがオタ話でしたけどね。

 我々3人の趣味って微妙にズレているんだけど、微妙に重なりあってるんですよ。

 一番硬派なのはもちろんソラちゃんね。

 ソラちゃんとリクの趣味が重なっているのが何故か特撮。

 ちなみにきらら先輩は特撮はあまり見なかった……んですが、最近はこの二人の影響でちょこちょこ仮面ライダーは見てるぞ。

 で、リクときらら先輩の趣味が重なるのは、ほのぼの何も起こらないアニメ。でも最近あまり無いんだよねーって話も出た。秋アニメだと「うちの師匠はしっぽがない」「ヤマノススメ Next Summit」くらいかな。子供が死ぬやつなんか超ニガテだから「メイドインアビス」は許せないし、なろう系っていうんですか? 異世界転生アニメ。あれも興味無いのね。

 リクは異世界転生アニメは見るらしいんだけど、私もソラちゃんも異世界転生には冷たいから、その話は出さないようにしてましたね。

 あと、山梨っていったら「ゆるキャン」と「スーパーカブ」の聖地なんで、サービスエリア入ると必ず「ゆるキャン」コーナーがあった。実はきらら先輩は「ゆるキャン」の映画はまだ見ていないので、早く見たいのだな。

 なんて話から、キャンプ行きたいよねーなんて話に発展してって、でもリクが

「ソラちゃん、このクルマでキャンプはきついかも」
「そうかな?」
「荷物あんまし載らないよ。あと車高低すぎてキャンプ場入れない」
「えー」
「あの、何でこのクルマに……?」
「だってこれ可愛くないですか?」
「可愛い……っていうかソラちゃん免許いつの間に?」
「新婚旅行から帰ってソッコー取りました!」

 ソラちゃんたち新婚旅行行ってたの6月だよな。帰ってきてすぐに自動車学校行っても取れるのは8月? で今は9月。いやいやいやソラちゃん運転上手すぎん? そういえばこれ若葉マークついてたよな。

「でも7月にディーラーに行ったらGR86の新車は今注文しても納車は来年の3月か4月ですって言われたんですよ」
「そんなに?」
「だからこれ、一つ前の型なんです。どうしてもすぐに乗りたかったんで」
「納車されたら毎週末、房総だ日光だ箱根だって走り回ってるんだよ」

 そりゃ運転も上手くなるわけだ。

 って感じでだな。

 行って現代アートみたいな美術館を見て帰ってきて調布で焼肉を食って解散するまで(クルマはリクの実家に置いてあるらしい。そりゃ大崎に車庫借りるの高いもんな)3人ずーっと喋りっぱなしだったのだ。

 そのことに気づいたのは京王線の中であった。

 すごいな、俺たち。

 だって3人の興味関心が完全に重なってるとこって無いわけよ。みんなちょっとずつズレてる。アニメだって私はまんがタイムきらら系のやつが好きだけど、ソラちゃんは進撃の巨人とかメイドインアビスとか好きだし、リクは異世界転生だし。

 それどころかクルマの話とかファンタジー小説の話(あ、ソラちゃんは「日本はもう良い」って言って英語でファンタジー小説書いてるそうです。英語は読めんぞ俺)とか、ソラちゃんだけの趣味なんだけど、リクもきらら先輩も普通に聞いてられたのだよ。

 何でなんですかね?

 って思ったのは、実はだな。

 きらら先輩は先日、弊社の同い年の男性社員に誘われて駅前のドトールに行ったのだ。

 何でドトールって言うな。きらら先輩もそれ思ったやつだから。

 弊社にはエンジニア系の社員がいっぱいいてだな、奴らは国文科卒の俺とはあまりにも異文化なのだ。今回きらら先輩に声をかけてきたのも渋谷にある某私大でIT系の勉強をしていたという奴だ。

 きらら先輩が今日もおうち帰ってあんスタだと思ってたら、いきなり「お茶でも飲みに行きませんか」と声をかけてきたんで、ものは試しだとつきあってやったのだ。

注:みんなもう忘れているだろうけれど、きらら先輩はルッキズムの権化である

 結論から言うと失敗であった。時間の無駄であった。

 とにかく話が合わんのよ。

「きらら先輩さん、休みの日は何してるんですか?」
「えっと、そうですね……(いきなりそんなこと聞いてくると思わなかったんで答えを準備していなかった)……アニメを見たりとか……(しまった! デキ女キャラがブレるか? でもあんスタとか声優のライブとかよりはまだギリギリ)」
「アニメですか。どんなものが好きなんですか?」
「うーん、ほのぼのしたやつが多いですね。血が出るやつは苦手で」
「僕は鬼滅の刃が好きなんです」
「はあ……(血が出るやつは苦手だって言ってんだろ。そんなもん見てるわけねーだろうが)」

 って感じ。

 ラリーが続かない。

 サーブを打ち返してくれないのさ。

 これがソラちゃんとリクだったら、

「でもリコリスリコイルは案外好きかも」
「あー、あれならきらら先輩もいけるかな?」
「今季話題だったやつですよね。血は出ないんですか?」
「出る」
「いっぱい出ます」
「ダメじゃないですか~」
「でもほのぼの喫茶店シーンも多いから」
「お色気シーンもあるけどね」
「あーお約束の」
「おっさん向けアニメだからしょうがないよ」
「何で女子高生のパンツで1話やるんだろうとは思ったけどね」
「何が面白いんですか? リコリスリコイル」
「うーん、なんだろう」
「プロットはヒーローものだよね~」
「王道ヒーローものだね。仮面ライダービルド」
「あれに出てくる仮面ライダーを女子高生に置き換えたらリコリスリコイルになる感じかな?」
「そうかも」
「ちょっと見てみようかなあ」

 ってな感じで、興味無かったはずなのにいつの間にか興味持たされてるのよな。

 ソラちゃんの話が上手いのは当然として、リクもなにげに相手に合わせて話膨らますの上手いんだわ。

 だがしかし、今回はそういうのが皆無。

 つらい1時間だった。

 理系企業に出会いを求めるのは間違っているのだろうか?

 いや、そんなこたあ無いと信じたい。

 ちなみに今現在、社内できらら先輩と一番話が合う男子はバドミントン部の若者である。2歳下。かなりのガチ勢なんだが優しく色々教えてくれる。しかも部活が終わって体育館のロビーに現れた時に着てたのが志摩リンTシャツだぞ。

 それ見た瞬間、もっとお友達になりたいって思ったよね。

 既婚者だけど。

 既婚者だけどな。わかってるんだよ。良い人材はすぐに買い手が付くって。

 良いんだよ。私は今の生活が気に入っている。

 ソラちゃんとリクを見てたらちょっと結婚も良いなと思っただけだ。

 

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