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#創作大賞2023
賢者のセックス / 終章 小さな光と三百万円 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
第75話 原稿用紙の衝撃 これで僕とソラちゃんのセックスに関する全ての調査が終了ということになった。 もちろん、僕とソラちゃんがセックスをしなくなったというわけではない。あの後も僕たちはセックスをしているし、ソラちゃんは時々オーガズムを経験出来るようになった。そしてソラちゃんと僕は射精が終わった後も繋がったまま、取り留めもない話をする。そんな時間が僕は大好きだ。きっとソラちゃんもそうだろう。 六月に入ってからソラちゃんは毎晩、日付が変わるまでパソコンの前に座ってい
賢者のセックス / 第16章 セックスと魔女 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
第71話 最後のセックス こうして最後の調査が始まった。 シャワーを浴びた僕たちは、二人で話し合って作った手順書を時折確認しながら、お互いの身体を注意深く愛撫していった。そこに書かれていたのは、僕たちが普段しているセックスの流れをベースに、トッピングをちょっと多めに追加したものだった。普段と違うことをしたら、対照実験として成り立たないのだ。この実験での大きな変更箇所は一つだけ。僕のものとソラちゃんの間にコンドームが存在するか否か。 僕たちはベッドルームで裸になって
賢者のセックス / 第15章 指輪とコンドーム / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
第67話 惜別 大磯への一泊旅行から戻ったソラちゃんは、それまでとは打って変わって快調に小説を書き進めているようだった。毎晩メッセージで「今日は三〇〇〇字書いた」「今日は二五〇〇字」「二章まで終わったよ」「もうちょっとで三章終わる」といった具合に、その日の進捗を教えてくれるようにもなった。伝奇ものやセカイ系というアイデアは捨てたらしいけれど、どんなものを書いているのかは「秘密」なのだという。 「どこかで見たようなものを追うのは止めたんだよ。いつ何があるかわからないもんね
賢者のセックス / 第14章 一等星と六等星 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
大磯 四月も四週目に入った平日の午後、僕たちは品川駅の一二番ホームで東海道線の熱海行き各駅停車に乗った。大磯駅まで一時間。僕たちは隣り合って座っていたけれど、会話はほとんどなかった。かといって二人ともスマートフォンを見たりすることもなく、音楽も聞かなかった。ただただ、僕たちは無言で隣り合って座っていた。時折触れるソラちゃんの肩から体温が伝わってくるたびに、僕のみぞおち辺りで何かが蠢いた。 大磯駅で降りてタクシーに乗って一〇分後。僕たちは大磯プリンスホテルのロビーにいた
賢者のセックス / 第13章 精液と神社 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
憑坐 ソラちゃんは小説の構想を思いつくと、食事の時に僕に説明してくれるのが常だ。僕に説明しながら、頭の中を整理しているようでもあった。例えばこんな風に。 「今悩んでるのはね、君と私、もちろん小説の中では別のキャラになるんだけど、私たちそれぞれの位置づけね。正常位でしてる時に出てくる水天宮の御祭神が天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)だったでしょ。水と子供の守り神の。あれが気になってるんだよ」 「どんな風に気になるの?」 「街は私たちの夢を見ている。その夢の中で私たちは
賢者のセックス / 第12章 尊厳と意味論 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
ベント(性癖、あるいは「変態」) シャワーを浴びてリビングルームに戻った僕たちは、実験の結果について真剣に話し合った。ソラちゃんの表情はバリキャリ魔女のものに戻っていた。僕はそれが嬉しかった。いつものソラちゃんだ。そのバリキャリ魔女が首をひねって考え込んでいる。 「今回の実験結果は解釈が難しいね。やはり君一人では風景を見ることは出来ない、と言えるんだろうか?」 「少なくとも一人でしている時には難しいと思う」 「じゃあ、私が一緒に自慰をしていた時は? あれは物理的接触は音
賢者のセックス / 第1章 賢者タイムとファンタジー / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
賢者タイムの失言 賢者タイムという言葉がある。 僕も最近ツイッターで見て知ったのだけれど、面白いので自分でも使うようになった。賢者なんていうとドラゴンクエストや異世界もののライトノベルのキャラクターを思い出すかもしれないけれど、賢者タイムとそれらの関連性は乏しい。 気恥ずかしいので一度しか書かないが、賢者タイムとは要するに射精した直後の男が性欲を失っている時間帯のことだ。性欲だけじゃなくて、セックスの相手への興味も一時的に失われてしまう。女性にも似たような現象があ
賢者のセックス / 第2章 調査計画と研究倫理 / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
神様、聞いてますか。 ソラちゃんは朝が弱いから、先に起床して部屋を暖めておくのも、朝食を準備するのも、使い魔である僕の役割になっている。 僕は作り置きのベイクドビーンズを温めている間に焼きトマトとベーコンエッグを作って水菜を添え、トーストとミルクティーの準備をした。ベッドルームからソラちゃんが出てきたタイミングでトースターのスイッチを入れ、ティーポットにお湯を注ぐのが理想の流れだ。慎重に、丁寧に、ロイヤルなんとかという高そうなお皿にイングリッシュブレックファストを並べ
賢者のセックス / 第4章 正常位と胸と手のひら / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
エブリデイ・マジック その次に僕たちがセックスをしたのは、一月の最後の土曜日だった。前の週の前半はまだソラちゃんが「女の子の日」だったし、後半は僕もソラちゃんも仕事が忙しくて、セックスをするような体力が残っていなかった。 特にソラちゃんは仕事が大変そうだった。新型コロナウイルスで売上が激減している業種もある一方で、ソラちゃんの会社は新規案件の依頼が殺到しているという。接待費や出張費がかからなくなった分の予算を、人材育成に投資したいという会社が多いのだとか。 ソラち
賢者のセックス / 第6章 書斎とリビングルーム / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
書斎 その後の一週間、僕たちの関係はかなり気まずかった。日曜日の夜以来ソラちゃんはベッドルームには足を踏み入れず、僕たちが書斎と読んでいる部屋にゲスト用の寝具を運び込んで、そこで寝るようになっていた。 ここはソラちゃんの家で、ベッドルームはソラちゃんのベッドルームなのだから、ソラちゃんはベッドルームで寝るべきであり、ベッドルームの外でどちらかが寝る必要があるとすれば、それは僕だと思う。そのように言ってはみたものの、ソラちゃんの意志は変わらなかった。 書斎は六畳の洋
賢者のセックス / 第7章 手つなぎとフィールドワーク / 彼女がセックスについてのファンタジー小説を書いていた六ヶ月の間に僕が体験したこと
市役所の方 翌朝、僕は思い付く限りの贅沢な朝食を作った。ポリッジ、シリアル、ベーコン、目玉焼き、ベイクドビーンズ、焼きトマト、椎茸のソテー。ホワイトプディングの代わりのヴァイスブルスト。クレソン。リンゴ。アーマッドのデカフェのアールグレイ。 全て、この家に住み始めてから憶えたものだ。去年の今頃の僕は料理なんかしない人間だった。ソーダブレッドは自分で焼いて、密かに通販で買っておいたスリップウェアに載せた。イギリス製のは手に入らなかったから、国産だけどね。 あと少しで