まだまだ私の街とは言えないけれど

私の住んでる街は山手線の駅の一つだ。

なのにほとんど知られていない。

初めての一人暮らしに私はその街を選んだ。

「どこに住んでるの?」と聞かれたら、結構自慢げに答えていた。

しかし、聞いてきた人の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんできて、95%くらいの確率で「どこ?何線?」と聞き返される。

最初は「山手だよ!」と答えていたのが、最近では「一応、山手…」と控えめに答えるように空気を読んだ。

「ふ〜ん、そんな駅あるんだぁ…」なんて言われて…悔しくないのか!と心の中で思っている。

私の中で住んでいる街が山手線の中でそんな影の薄いポジションだということが、たまたまテレビで見た芸人さんのネタで裏付けられた。

車掌役がアナウンスで山手線の各駅の特徴をネタにして乗客役がツッコンんでいくというネタなのだが、

「次は〜○○(駅名)〜、降りる人がいないので通過しま〜す」

というボケだった。それで笑いが取れるということは存在の薄さは多くの人の共通認識なのだろう。

存在が知られていない、影が薄いということがもはや特徴になっている。

ということで、私の住んでいる街のいい所をお伝えしよう。

山手線沿線といういわゆる好立地。

他にも地下鉄が通っていたり、バスも便利だ。

歴史的な建造物があり、商店街も多く、坂道も多い。

北口・東口どちらもご飯屋さんで賑わっているし、小学校から専門学校まで学校も多い。

おしゃれな隠れ家的カフェや茶色いガラスで中が見えないTHE喫茶店にはまだ勇気がなくて入れていない。

24時間営業のエネルギースーパーにはとてもお世話になっていて、マンボウの絵柄のポイントカードは1度全部溜まったほどだ。

ラーメン屋は制覇した(と思う)豚骨が多く、どこも美味しい。

歯医者には1年通い、突発性難聴になった時は不安すぎて2つの耳鼻科を行き来した。

猫が多い街はいい街だと聞いたことがある。現在住んでいるアパートにも猫が3匹住みついていて道路のど真ん中で寝ているという平和っぷり。

という私も本当は隣駅に住みたかった。

しかし、そこではいい物件に巡り会えず一駅ずれてみれば?という母の提案から部屋を探し始めた。

北口店の緑の不動産屋さんはみいんないい人たちばかりだった。私は2回もお世話になっている。

実家は千葉で、職場は新宿。別に通えない距離ではないし通勤時間も読書や睡眠や音楽を聴くことができる時間ではあったけれど、私は一人暮らしを始めた。母を一人残して。

仕事柄平日休みもあり友達と休みが合わなかったある日、誰もいない実家のマンション7階の部屋でソファに寝っ転がり、開けっ放しの窓から晴れ渡った空を見ていた。

漠然と広い空が、その時は怖かった。

25歳になって季節も行事も全てスルーして何の起伏もない平坦な毎日が続くのかもしれないと少し怖くなった。

別に強烈に何かになりたいわけではなかったけど、何もない空っぽな自分が好きにはなれなかった。

母を説得して始めた一人暮らし。

いろんなことを自分で決められる楽しさはあったものの、小さい頃から家で一人で過ごす時間が多かった私は、特別何も変わったようには感じなかったのが正直なところだし、予想通りでもあった。

そんなこんなで3年住んでいるこの街。

私にはちょうどいい街だ。

就職活動中などにさせられた自分分析。長所と短所を答えなさいという面接。

私の短所は大勢の前で話せないことだった。注目されることが大嫌いなのだ。

静かにそっと自分の仕事をしていたいタイプ。

もちろん仕事は認めて欲しいし、みんなと仲良くしたい。だけどリーダーとかみんなの前で発表だとかそういうのは勘弁して欲しい。

なんというか、半透明人間ぐらいの扱いで私はいいのだ。

だからきっと、この街は私と一緒だ。

山手線沿線にあるのに存在感が薄くメジャーじゃない。

けれども、便利で見所満載ないい街だ。

注目されすぎることも無視されることもない。ちょうどいい、本当にちょうどいい街なのだ。

半透明人間の私が窓を全開にしていてもいい。

私が住んでいるこの街は山手線の駅の一つだ。

なのにほとんど知られていない。

そこが好きだ。

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