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南海トラフ、臨時情報で僕はこう動く【関口威人の災害取材ノート・特別編】

 8月8日、南海トラフ地震の臨時情報(調査中→巨大地震注意)が発表され、皆さん驚いたことと思います。

 僕も正直、あわてふためきました。

 きょう飲み会の約束入っちゃってんだけど、どうしよ…。気象庁の会見何時からよ…などと。

 でも、臨時情報が出ること自体は、もっと早くからあるものだと思っていました。

本の編集作業を通じて知っていた臨時情報の裏表

 6年前、僕は名古屋大学教授(現名誉教授)の福和伸夫先生の2冊目の著書出版のお手伝いをさせてもらっていました。

 ちょうど臨時情報の仕組みを作る国の中央防災会議ワーキンググループの議論が佳境で、その主査を務める福和先生から、本作りを通じて正確な情報や議論の裏表について聞かされていました。

 ワーキンググループの議論は2018年12月にまとまり、現在の臨時情報が制度化。中心人物である福和先生の生々しい話が反映されて2019年3月に発行されたのが『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』(時事通信社)でした。冒頭に出てくる小説のようなパートは、臨時情報(巨大地震警戒)が出たときの名古屋市内の家族や企業の対応のシミュレーションです。

 想定したのは高知県沖でM8.2の大地震が起こる「西の半割れ」ケース。それが1日後に「東」に連鎖するまでの様子を描いています。


 一方、今回は日向灘でのM7.1の地震で、規模がひと回り小さい「一部割れ」のケース。正直、このレベルの地震なら結構な頻度で臨時情報が出されるけれど巨大地震にはつながらない「オオカミ少年」的な情報になってしまうのでは、と懸念する地震学者の声も当初は聞きました。

 しかし結局、あれから5年が経ってようやく初めて、こういう形で臨時情報が出されました。それがオオカミ少年で終わるのかどうか…はまだ分かりません。


 今回の情報発表後、NHKはじめメディアに引っ張りだこになっている福和先生には昨日(9日)、ほんの数分ですが電話で話を聞けました。
 全体に情報を「冷静に受け止めてもらっている」とした上で、「メディアも自治体職員も臨時情報とは何かを分かっていなかったんだから、多少の混乱はしょうがない。この機会に周知をして、事前対策を進めてもらうこと。これがスタートライン」だと話していました。報道メディアに対する苦言はもうちょっとありましたが、それは最後に回させてもらいます。

南海トラフ地震への備えを呼び掛ける名古屋大学の福和伸夫名誉教授の著書。左が臨時情報のシミュレーションを盛り込んだ2019年刊の通称「黄色本」。右は最初に僕がお手伝いをさせていただいた2017年刊の通称「赤本」

「警戒」だったらローカルに適切に伝えられるか

 さて、では僕自身はどうするか。

 今、主にメインの発信の場になっているのはヤフーニュース。最近は特にコメント(いわゆるヤフコメ)と関連記事まとめ(#専門家のまとめ)に力が入れられています。

 現場主義で、自分を専門家とまでは思っていない僕としては、どちらもあまり積極的になれなかったのが正直なところ。でも、ちょうどこの大雨のシーズンから、水害や土砂災害への警戒を報じる記事に対して、できるだけ現場感覚を生かしたコメントやまとめ記事を書くことを意識し始めました。

 そこで、今回の臨時情報にも僕なりに即応してコメントを書き、翌日には東海地方向けのまとめ記事を出しました。

 ただ、分かったのは、少なくともネットニュースではローカルな情報が極めて貧弱だったということです。


 臨時情報は基本、気象庁から発信される情報を基に、各自治体もその範囲で動いたり、首長がコメントを出したりします。今回の場合だと「日頃からの備えを再確認してください」「冷静な行動を取ってください」という程度です。日向灘という距離のある “西” での地震が発端ということもありますが、それにしても情報が質量ともに少なく、しかも記事に付くボタンやコメントの数などを見ると読者にもあまり読まれていないと感じられました。

 これは各メディアがサボっているという話ではなくて、コロナと同じでどうしても初期は中央からの一元化された情報が発信され、それ以外のことは迂闊に言えなくなってしまう。それを良しとして、同じような情報が大量に発信されて、他の情報が埋もれてしまうということだろうと思います。

 裏情報や陰謀論的な情報はXなどで出回って、それはそれでよろしくない。問題はあくまで正確で、しかもローカルなきめの細かい情報が、それを本当に必要とする人たちに届かないのではないかという懸念です。

 何が言いたいかというと、今回はまだ避難を伴わない「注意」情報でしたが、これが「巨大地震警戒」になると沿岸部で津波の来る恐れのある地域(地震発生から概ね30分以内に30センチの浸水が想定される地域)には、すぐに津波は来なくても避難(事前避難)が呼び掛けられます。名古屋でいえば港区や南区を中心に、約2万4500人が事前避難の対象者となっています。こうした人たちに、今の自治体やメディアがどこまで適切な情報を届けられるでしょうか。

「巨大地震警戒」が出たときの名古屋市の事前避難対象地区(黄色、名古屋市のホームページから)。面積的には限られていますが、2万人余りが対象です。もちろん他の市町ではもっと広大な地域が対象のところもあります

(※ 本記事は2024年8月10日のニュースレター配信記事のnote版です)

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